鈍感と溺愛
笑ったカリナに私も笑ってひとつ提案する。
「カリナ。ユーヴェンの事、カリナが綺麗にしてあげたらいいんじゃない?」
私の言葉にカリナは目を輝かせた。
「あ、それ楽しそう!ローリーも一緒にやろ!スカーレットも誘わなきゃ!」
「ふふ、わかったわ」
そうやって盛り上がる私達をユーヴェンは不思議そうに見て呟く。
「そんなに楽しいものなのか……?」
「ふふふ、楽しいわよ。アリオンを女装させた時もとっても楽しかったもの」
アリオンを女装させた時はどんな服が似合うか、カツラはどの長さにするか、化粧はどんなのが似合うかを考えるのはとても楽しかった。
それを実際にアリオンに施していって妖艶な美女に仕上げたのは達成感もひとしおだった。
「……アリオンはずぅっと諦めた目をしてたけどな……」
ユーヴェンが遠い目で言うのでむっとしながら反論する。
「でも出来上がった時にとっても綺麗って褒めたら、アリオン少しはにかみながら笑ってくれたわよ」
褒めた時に浮かべた美女なアリオンの可愛い笑顔にキュンとときめいたものだ。見た目は妖艶な美女なのに笑顔は可愛いなんて反則だと思う。それで絶対に優勝できると確信した。
ユーヴェンは呆れた様子で突っ込んできた。
「それ……クラスメイトのみんなはローリーに褒められたからだろって言ってたからな……」
「…………」
ユーヴェンの言葉に頬が赤く染まる。
――わ、私に……褒められた……から……?
……確かに女装したアリオンは、私の他には家族相手にしか笑顔を浮かべていなかった。他はずっと諦めた目をしていたのだ。そんな感じでも私が話し掛けるといつもの感じで話してくれていた。
そんな事を思い出すだけでも胸がきゅうっと鳴いてしまう。
「……その言い方、ユーヴェンは気づかなかったんだね……」
カリナが少し笑いながら言った言葉にユーヴェンはそろっと目を逸らした。
カリナもユーヴェンを呼び捨てする事にだいぶ慣れたようだ。
「……俺普通にアリオンもやってみたら楽しかったのかなって……思ってて……」
その言葉に私も目を逸らす。
「…………私も……そう、思ってた、けど……」
アリオンが可愛く笑ってくれたので褒められて嬉しかったのかなと思ったのだ。
「ふふ、ローリーはブライトさんの気持ちに気づいてなかったもんね」
「う……」
カリナの言葉に思わず呻くと、ユーヴェンが思い出すように言った。
「まあアリオンってローリーに対しては友達だって態度崩さなかったからなー」
ユーヴェンの言葉に目を瞬かせる。
「……そう、なの?」
首を傾げながら聞くと、ユーヴェンは笑って頷いた。
「おう。ローリーが見てない所では色々とやってたけど、ローリーにそれを気づかせないようにしてたし。今日話してた話もそんな感じの話」
「あ、そっか。ローリーを守ってる事とか気づかせないようにしてたんだもんね。ならローリーが気づかなくて当然なのかも?」
ユーヴェンの話を聞いたカリナがそう言うので、もしかしたら自分が鈍感ではなかった可能性に期待が湧く。
「そ、そうかしら……!?」
「でもローリーにだけは甘々だったから気づいてもよかった気がするけど」
いい気分だったのにすかさずユーヴェンに水をさされてぐっと黙り込む。
ユーヴェンをジト目で見ると肩を竦められた。それに眉を寄せながら言い返す。
「だって……アリオンずっと過保護だったもの!だからアリオンは私を妹みたいに思ってるんだと……。そしたら甘いのも当たり前かなって思ってたのよ!」
ユーヴェンに鈍感だと言われるのは嫌なので否定すると、ユーヴェンは考えるように目線を上にした。
「あー……まあローリーの事をエーフィちゃんみたいに思ってるって、あいつ自身も思い込んでたからなー」
「そうでしょ!?」
そう、アリオンが私を妹みたいに思っているのなら、あの過保護で私に甘いのもエーフィちゃんへの溺愛っぷりを見ると当たり前に思えたのだ。
……それに私自身も兄に過保護にされてきたので、アリオンの過保護にも兄と同じ感じで応じてしまったのもある。
「ブライトさんの溺愛してる妹さんだね。確かに朝もユーヴェンに可愛いだろ?って問い詰めてて溺愛してるなぁって思った」
カリナが小さく笑いながら同意する。
――やっぱり私は鈍感じゃないわ……!
アリオンが色々としていた事を隠していたのだ。だから気づかなくても当然だと思う。
――…………知っても過保護だなぁって思っただけのような気も……はっ!違うもん、気づくはずよ、私!
一瞬浮かんだ考えを振り払う。そう、本当は私は鈍感ではない……はず。
微妙に否定できない自分に少し落ち込んでいると、ユーヴェンは大きく溜め息を吐いた。
「アリオンはエーフィちゃんの事になると狭量なんだよなぁ……」
「ふふ。でも溺愛してる妹さんみたいにローリーを思ってたなら……それ、ローリーの事も溺愛してたって事になるね」
「へ!?」
カリナの言葉に目を丸くして頬を熱くする。
「だろー?妹溺愛してんだから、妹みたいに思ってるローリーの事も溺愛してるって事になるけど……どっちも気づかないんだもんなー」
ユーヴェンの呆れたような言葉に唇に力を入れた。
――で、で、で、溺、愛……!?
その言葉にマスターのお店でリュドさんから溺愛ぶりがすごい、みたいな感じで指摘された事まで思い出す。
――む、昔も今、も……で、で、溺愛……さ、されてる、の……?
そういえばマスターのお店で話した時だって昔の話をしてからそう言われていた。
――あうう……。思い返す度になんだか心臓がぎゅうっとするわ……!
顔から火が出そうなくらいに熱い。顔を俯かせて手を両頬に当てる。
カリナが優しく微笑みながら背中をトントンしてくれた。……言い出したのもカリナなのだけれど。
少し責めるようにカリナを見ても優しい微笑みのままだ。きっと確信犯だと思う。むうっと頬を膨らませるとカリナはおかしそうに笑った。
きっとカリナには敵わないのでユーヴェンの方を睨むように見た。
「う、うるさいの、ユーヴェンは!早く他のアリオンの話教えなさいよ!」
「へいへい。あー、そうだ」
話題を変えさせる為に怒るように言うと、ユーヴェンは軽く返事をした。
すぐに思いついたようなユーヴェンの話が気になって先を促す。
「何?何の話があるの?」
わくわくしながら問い掛けると、ユーヴェンはにっと笑う。
「アリオンが騎士目指したのって、ローリーが理由だぞ」
「……え?」
思ってもいなかった事を言われ、目をパチパチさせて首を傾げた。
昨日……もう一昨日ですが、もう一話更新できたら……と言っておりましたが更新できませんでした。申し訳ありません。
実は昨日でこの作品を投稿して一年でした。
なのでローリーとアリオンが初めて会った時のお話を短編として投稿しています。
『初めて会った君』というタイトルで、アリオン視点の話になります。
よかったら読んでみてください。
昨日には投稿したかったのですが、間に合いませんでした……。
また、このお話は本編が完結した後に番外編としてこちらにも掲載したいと思っています。
その時は短編よりももう少し膨らませてローリーとアリオンの学園時代の様子を書きますので、それも読んでもらえると嬉しいです。
いつも読んで頂きありがとうございます。
読んでくださっていると嬉しくて執筆の励みになっています。もっと早く書けたら、とは思いますが……。
この先も読んで頂けると嬉しいです。
長々と失礼致しました。
これからもよろしくお願いします。