鋭い目線
王宮内だけれどユーヴェンが送ってくれるのは兄とアリオンの指示だろう。
ユーヴェンはもうすぐ魔道具部署という所で大きく息を吐いた。
「はあー……なんかアリオンとローリーの距離感が近くなっててびびったー。アリオンがローリーの頭撫でるなんて想像もしてなかったもんなー」
そんな言葉を吐くユーヴェンをギロリと睨む。
「うるさいわよ、ユーヴェン。別に……い、いいでしょ……」
「いいけどさー。実際に見ると驚くんだって」
そこで魔道具部署へと着いたので話を断ち切ってやる。
「ユーヴェン送ってくれてありがと、じゃあね」
「おう」
私のささっとした挨拶にカリナが焦ったようにユーヴェンの方へと向いた。挨拶をするつもりなのだろう。
しまった。カリナを急かすつもりはなかったのに。
――ただユーヴェンがブツブツとうるさかったから……。
申し訳なくてゆっくりでいい、という意味を込めてカリナの隣に立つ。
少しほっとしたようにするカリナに私も安心する。
「あの……私もありがとう…………ユーヴェン」
カリナはまだ呼び捨てに慣れていないみたいだ。
私はなにも気にせずにアリオンやユーヴェンを呼び捨てにしてしまったので、なんだか羨ましい感じもする。
――アリオン、名前呼びされて嬉しかったって言ってくれたし……私ももう少し嬉しさを噛み締めたかった気がするわ……。
少し昔を思い出しながら悔やむ。
ユーヴェンはカリナの言葉に嬉しそうに目を細めていた。
「気にしないで。また就業後に迎えに来るよ。だからまた、カリナ、ローリー」
にこにこと嬉しそうに笑うユーヴェンに頷く。
「わかったわ」
「……うん、またね…………ユーヴェン……」
カリナは少し恥ずかしそうにユーヴェンに返事をしている。
ユーヴェンは返事を聞くと手を振りながら去っていった。
手を振っているカリナの顔をちらっと見る。
「ふふ、カリナ赤くなってて可愛い」
「そんな事ないもん……」
私の言葉に頰を膨らませたカリナにふふっと笑みを零す。可愛い事この上ない。
「そうね」
にこにこと笑っている私にカリナはむっとしている。
「……ローリー」
カリナはむっとしていたと思ったらにっこりと可愛らしく笑って私を呼んだ。
「どうしたの、カリナ?」
不思議に思って首を傾げると、カリナは更に笑みを深めて言った。
「ローリー、ブライトさんとの間接キス意識しちゃってたでしょ?」
「!!」
カリナの言葉に目を見開く。
――き、気づいてたの、カリナ……!?
思わずちらっと袋に入れている水筒を見る。……アリオンがかっこよくブラックを飲んだ場面を思い出して俯く。
――お、思い出しても……だ、だめだわ……!
「今まではぜーんぜん気にしてなかったみたいだけど、気持ちに気づいちゃったら気にしちゃった?」
にっと笑ってくるカリナに口を曲げる。
「か、カリナは……鋭すぎるの……!」
「ふふふ。最初は普通にしてたみたいに見えたけど、ブライトさんが戻って来たらローリーとっても可愛い顔してたんだもん。気づいちゃった」
可愛く笑いながら言ってくるカリナに目を逸らす。
もしかしてカリナが間接キスの事を言ってしまったのを申し出たのは、あわあわしていた私を助けてくれたんだろうか。あれにはとても助かった。
けれど更にカリナはにやにやと笑って私を覗き込んだ。
「それに机の下で手を繋ぎながら寝ちゃって……ブライトさん、動けないことがみんなにバレないよう振る舞ってたんだよ?」
「うにゅ……」
私が離し難くなったアリオンの手をにぎにぎしていた所を見られていた時の事を思い出す。
カリナもスカーレットも私をとても微笑ましい笑顔で見ていた。
……私の気持ちを言っていないスカーレットにも私の気持ちは見通されていたような気がする。
「帰り際も二人で部屋に残って何してたのかなー?」
「あう……!」
カリナのお見通しな問い掛けに変な声を漏らしてしまった。
昨日あれだけ自分のしてきた行為が恥ずかしくてまたできるのかと思ったのに、アリオンにねだってしまった抱擁。
――だ、だって……さ、寂しかったんだもん……。
アリオンに会ってしまったら恥ずかしさよりも、もっと近寄りたいという感情の方が強くなった。特に今日はみんなの前だからとアリオンは距離を保っていたのだ。
頭を撫でてくれたのだって軽くだったし、手も繋いだけれど私が寝ていたから体感的には少しだった。……寝てる間ずっと幸せな心地ではあったけれど。
だから私は……もっと、アリオンを感じたいと思ってしまったのだ。
――す、すごく恥ずかしい考えしてたわ……!
でもアリオンの抱擁は私をすっぽり抱き締めて心地良かった。頭も優しく撫でてくれるアリオンに心が満たされていった。
――アリオン……好き……。
アリオンが目の前にいなければ心の中でも言える。思い出すだけでも好きだという感情が溢れていく。
――また……き、キスも……し、して……欲しい、な……。
アリオンの甘く微笑みながら触れる優しい額や手へのキスは、心臓が破裂しそうになるけれど……でももっと、と思って……。
――はっ!な、何を恥ずかしい事考えているのかしら!?
アリオンへの想いが暴走気味である。
顔を赤くさせていると、にやっとカリナが笑った。
「あ、やっぱり何かしてたんだ」
「!!……か、カリナのバカー!」
カマをかけられた事実に気づいてカリナに怒る。
「ふふふ、ごめんごめん」
カリナは怒る私に笑いながら過って魔道具部署に入っていく。私ももうっと言いながらカリナに続いて魔道具部署に入った。
――あとでカリナもユーヴェンの事でからかってあげるわ……!
カリナをからかった仕返しなのだろうけど、ちょっとカリナは色んなことに気づき過ぎる。
だから今日は寝る前に根掘り葉掘り聞こうと決意した。
鳴り響いた13時の鐘を聞きながら、私達は仕事へと戻った。
アリオンが抱き締めてくれた余韻が体に残っていて、あたたかい気持ちで仕事に臨んだ。
読んで下さりありがとうございます。
更新がおそくなり申し訳ないです。
これからも読んで頂けると嬉しいです。




