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兄気質のアリオン


 スカーレットは魔導グローブから顔を上げてフューリーさんを睨み付けた。


 ……もう少し早ければ顔が赤いままだったのに、と残念な気持ちが湧いた。


「こんな雑な術式入れとくんじゃないわよ!魔法の発動速度が変わって騎士の仕事にも影響出るでしょ!?」


「うっ……」


 スカーレットの仕事を引き合いに出した糾弾にフューリーさんは呻く。

 流石スカーレットだ。フューリーさんが気にする事柄をわかっている。……まあアリオンも同じ感じだけど。


「カインにも魔法の練習が必要ね……!もう二度とこんな雑な魔術式入れさせないわ!ブライトと一緒に練習させましょ、ローリー!」


 スカーレットが私に振ってくるので笑って頷く。


「ええ、わかったわスカーレット。頑張りましょうね!カリナも一緒に教えましょ」


 スカーレットと一緒に魔法成績首位を競っていたというカリナなら、きっと助けになってくれると思って声を掛けた。


 何かを考えていたカリナは私の声掛けにパッと顔を上げて笑う。


「……うん、教えるの頑張るね!」


 そうやって頷いたカリナにスカーレットも微笑む。


「決定ね。拒否は受け付けないわよ、カイン?」


「…………はい……」


 フューリーさんは悄然と頷いた。


 そんなフューリーさんにアリオンが声を掛ける。


「カイン、一緒に魔法の練習頑張るか」


「……おう…………」


 フューリーさんは肩を落としたまま苦笑いで応じた。きっと魔法の事をバラす気はなかったのだろう。


「問題児が二人もいたなんて……」


 シオンはアリオンとフューリーさんを交互に見ている。二人共居心地悪そうに身動ぎした。


「なー。でも……カリナが教えるなら俺も教えようかな……」


 その言葉にアリオンが真顔になる。カリナも昨日した話を覚えている為か困惑しているような顔だ。


「ユーヴェン学年首席だったもんな……。…………ユーヴェンって役に立つのか?学年首席だったのに教えてもらった覚えないけど」


 首を傾げたシオンにユーヴェンが不貞腐れる。


「酷いぞ、シオン」


「だって俺、ユーヴェンが教えてんの聞いた事ねぇもん」


 アリオンの話からするとたぶん役に立たないのは事実だ。


 ユーヴェンを疑っているシオンにアリオンが答える。


「俺がユーヴェンが教えようとしたら遮ったりしてたからな」


「なんでだ?」


 アリオンの話にシオンが眉を寄せて聞く。


 そんなシオンにアリオンは肩を竦めて呆れたように言った。


「ユーヴェンの説明は感覚的過ぎんだよ……。キャリーも聞いたろ?」


 振られたスカーレットも困ったように笑う。伝達魔法をどう教えていたのか興味がある。


「ふふ、確かにそうね。感覚的な説明だったわ……。まあ実際にやっている時は多少役に立ったけれど……伝達魔法の理論説明をしている時にここはビューンってなってるから……とか言われた時はどうしようかと思ったわ……」


「え!?わかんなかった!?」


 遠い目で言ったスカーレットにユーヴェンが叫んだ。


 私はスカーレットの話にポカンと口を開けてしまった。


 ――ビューン……?理論説明でビューン?


 理解できなくて眉を寄せる。カリナもポカンとしている。


 ユーヴェンの目をパチパチさせている顔に、アリオンが鋭く突っ込む。


「理論をビューンでわかる訳ないだろ!ユーヴェン、お前頭いいんだから他人にもわかりやすいよう説明する努力をしろ!」


「そうか……。わかった、頑張るよ」


 アリオンの言葉にしっかりと頷くユーヴェン。


 しかしアリオンは眉をひそめて問い返した。


「……ほんとにわかったのか、お前……」


 アリオン的には信じられないらしい。


 ユーヴェンは首を縦に振ってから口を開いた。


「ビューンとかは駄目なんだろ?」


「……おう」


 ユーヴェンの様子を伺うようにアリオンは肯定する。


「だったら……ヒューンは?」


「駄目に決まってんだろ、この馬鹿!」


 ユーヴェンのとぼけた返しにアリオンが叫んだ。


 そんなユーヴェンに思わず呆れた顔をして呟いた。


「ビューン……ヒューン……何が違うのよ……」


「ビューン、ヒューン……ふ、ふふふ……」


 カリナはおかしそうに笑っている。どうやら面白かったようだ。


「感覚的過ぎる……」


「アリオンがユーヴェンの説明を遮ってたの正解だったな……」


 フューリーさんとシオンも呆れた目をユーヴェンに向けていた。


「数学の証明や魔法理論構築もお前いつも満点取ってたろ!それと同じように説明すんだよ!」


「……あれ小難しい言い回しするから……俺的にわかりやすくしようと……」


「むしろ難しくなってんだよ!まずそれを自覚しろ!」


「ビューンが一番わかりやすいのに……」


「お前以外には通じねえ!」


「えー……」


「えー、じゃねえ!」


 アリオンとユーヴェンの言い合いにみんなで笑ってしまった。


 ***


 暫くするともう休憩時間が終わる時間に近づいてしまった。


 みんなが動く為に立ち上がると、隣のアリオンから溜め息が漏れた。


「なんで俺ユーヴェンに怒っちまったんだ……」


 髪を掻き上げながら悔やんでそうなアリオンに笑いを零す。


「ふふふ、アリオンお兄ちゃん気質だから」


 そう言うとアリオンがちらっと私を見た。


 アリオンの切れ長で灰褐色の瞳に見つめられると、胸が締め付けられる。

 少し身を屈めたアリオンが小さな声で話す。


「ローリーともっと話したかったんだけどな……」


 その寂しそうなアリオンの声に心臓が跳ねた。


 アリオンと同じ気持ちなのが嬉しい。


 ――わ、私も……もっと、話したかった……もん……。


 でもユーヴェンに怒っているアリオンもかっこよかったし……なんかいつも通りで嬉しかったから……別にいいんだけど。


「…………んと……また……差し入れ持ってくるから……」


 アリオンを見上げながら小さく返すと、アリオンは目を見開いてから嬉しそうに顔を綻ばせた。


「おう、ありがとな。ローリーとまた会えんの、嬉しい」


 その笑顔に胸が詰まる。


 ――アリオン……す、す、す……す……!


 …………心の中で呟きたい気持ちはあるのになかなか最後まで呟けない。

 アリオンの言葉にはこくりと頷くようにして返した。


「近づいていちゃいちゃしてるわね……」


「ふふ。ね」


「……カリナ、また可愛い話聞けるの?」


「もちろんだよ。とぉっても可愛い話があるんだ」


「それはとっても楽しみだわ」


 ちらりとみんなの様子を見ると、カリナとスカーレットは私達の方をとてもいい笑顔で見ながら話している。

 ……カリナには私の気持ちを知られているし、スカーレットにも気づかれている気がしてならない。


 ユーヴェンとシオン、フューリーさんは三人で話していた。


「…………ユーヴェン、カイン……なんか俺泣けてきた……」


「今度はどうしたんだよ、シオン……」


「もしかしてアリオンとローリーがいい感じだからか?」


「え?またゴートさんの事を思い出してとかじゃなくか?」


「ユーヴェンの言う通りだよ……!でもそれについても泣けてきた……」


「やめろ、泣くなシオン!もうすぐ訓練始まるんだからな!?」


「俺やユーヴェン……ずぅっとアリオンの事見守ってたんだよ、カイン……!」


「話はそのまま続けるのな!?」


「だよな……。なんか感慨深くなるよ……」


「ずっとなんの進展もなかったのに……!」

「諦めてそうな感じだったのに……」


「「なんか今の二人を見ると泣けてくる……!」」


「やめろ、二人共!泣くな!お前等のあの二人に関する事のシンクロはなんなんだ!?」


「ずっと一緒に見守ってたらなー」

「仲間意識が湧くんだよ」


「あとでクラスの奴等にも教えて……」


 大きな声で話していた三人の話に恥ずかしくなっていると、シオンがそんな事を口走り始めて焦る。


 ――ええ!?く、クラスのみんなに知れ渡るの!?


 そんなシオンにアリオンの鋭い声が飛ぶ。


「おい、シオン」


「はっ!」


 シオンはしまったという感じで口を抑えた。

 カリナとスカーレットの話は聞こえなかったけれど、三人の話は途中から声が大きくなって聞こえている。


「あんまり言い触らすな。……まだ付き合ってねぇんだよ」


 アリオンはシオンにそう釘を刺す。私もアリオンに同意する。


「流石にクラスのみんなに……逐一報告されるの恥ずかしいわ……」


「えー……仕方ねぇなあ、わかったよ……」


 口を尖らせるシオンに、にっこりと笑って付け足す。


「メリアにならいいわよ」


「うっ……!お、俺が伝えられるよう……が、頑張る……」


「ふふ、そうしなさい」


 シオンの返しに満足して頷いた。



読んで頂きありがとうございます。

昨日もう一話更新すると言っていたのに遅くなってしまって申し訳ないです。

今日は遅くなるかもしれませんが、次の話を途中まで書けているのでもう一話更新します。

これからも読んで頂けると嬉しいです。


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