アリオンの弱点
「……というかなんで知っちゃ駄目なのよ、みんな知ってるのに……」
アリオンへと不満の目を向けながら言う。私だけ知らないなんて嫌に決まっている。
「……勝手に話されたんだ……。……何度も言われんの恥ずかしいだろ……」
アリオンは少し恥ずかしそうに目を逸らす。
そんなアリオンが可愛くて更に興味が湧いた。
さっきの話はカリナとスカーレットが教えてくれると言ってくれていた。他にもあるのなら聞いてみたい。
「ふーん……。ね、ユーヴェン、シオン、また教えてよ。アリオンの私に黙ってた事。さっき話したっていう話も氷山の一角なんでしょ?」
「おい、ローリー!」
私がユーヴェンとシオンに言うと、アリオンが咎めるような声を出した。それににっこりと笑って返す。
「あんた色々やってたんでしょ?教えてもらわなきゃよね?」
「ぐっ……!」
アリオンが呻くとシオンが陽気に頷いた。
「別に俺はいいぞー」
「あー……俺は……アリオンが、よければ……?」
ユーヴェンはちらちらとアリオンを気にしている。流石にアリオンと仲が良いから気にしているのだろう。
アリオンは悔しそうな顔からすっと目を細めてシオンを見て……何故か爽やかに笑った。
「……シオン、お前俺の自主訓練のメニュー知りたいって言ってたよな?一緒にやるか!」
「え!?い、いやそれは……ただどれぐらいやってんのか気になっただけでやりてぇ訳じゃねぇぞ!?」
シオンがガタっと音を立てながら身を引く。顔も引き攣っている。
私はその様子に驚いてアリオンを見ると、ふっと笑った。
「ははは、遠慮すんなって!決まりだな!一緒に訓練やろうぜ!やる時に引き摺ってでも一緒にやらせてやるよ!嬉しいだろ?」
「その爽やかな笑いやめろ、アリオン!か、勝手にローリーに言ったりしねぇから!」
シオンが発言を撤回すると、アリオンは満足気に笑う。
「そうか。残念だな」
そのアリオンの全く残念そうに思っていない声にキッと睨む。
「アリオンあんた……!」
今のは思いっ切りシオンを脅していた。そんなに言わせたくないのだろうか。
「なんだ、ローリー?なんかあったか?」
にっこりと質の悪い顔で笑ったアリオンに眉を寄せて悔しがる。
「くっ……!…………シオン、そんなにアリオンの訓練ってやばいの……?」
シオンが発言を撤回せざるを得ないアリオンの訓練が気になる。
顔を青褪めさせたシオンが遠い目をしながら答えた。
「……自主訓練の模擬戦に付き合わされただけでも地獄なんだよ……」
「お兄ちゃんの稽古の弊害がここにも……!」
きっとお兄ちゃんと二時間近くぶっ続けで模擬戦なんてしているからだ。
――シオン普通じゃないって首振ってたものね!やっぱりアリオンってお兄ちゃんと同類だわ……!
「ローリー、知らねぇ方がいい事もあるんだ。諦めろ」
悔しくてむっとしているとアリオンが澄ました顔で言った。
ジトーっとアリオンを見ながら考える。
――どうやったらアリオンの考えを覆せるかしら……。
今までの事を思い出してアリオンの弱点を探し出す。
そして思い付くが、少し恥ずかしい。
――でも、絶対にアリオンのやらかしもっと聞きたいもの……!
そう思って自分に気合いを入れた。
「……アリオン」
アリオンを小さく呼ぶと、ふっと笑いながら私を見る。
してやったりな顔にちょっとムカついたので、羞恥心を引っ込めてアリオンの袖を掴む。
きょとんとしたアリオンの耳元まで背伸びする。
「な、ローリー!?」
私の行動にアリオンが驚き叫ぶ。耳が真っ赤な事に口端を緩ませた。
そして両手を耳元に持っていてそこで囁く。
「アリオンの事……いっぱい知りたいんだけど……だめ……?」
「……っ!!」
アリオンの息を呑んだ音が聞こえた。
やっぱり耳元で言うのは効果があるようだ。
――ふふん。この前耳元は駄目みたいな事を言ってたものね……!
アリオンに言った内容は恥ずかしかったけれど、弱点を知れてよかったかもしれない。
それにアリオンは私のだめ?と言う言葉にも弱いっぽいのでダメ押しだ。
「……顔真っ赤になったな、アリオン……」
「耳元で何言われてるんだろ……」
「……あの距離で言われるとか……やべぇな……」
「手段を選ばないわね、ローリー……」
「ローリー大胆……」
みんなが何か言っているけれど、気にしたら恥ずかしくなって負けてしまう。
ここまでしたのだ。アリオンを頷かせるまでやめる訳にはいかない。
「……アリオンの事……どんな事でも知りたいの……」
「くっ……!」
更に言葉を重ねるとアリオンが呻いた。ちょっと手応えを感じる。
「……アリオン、お願い……」
頼むのと一緒にもう少しアリオンに近づいた。
アリオンの耳に唇が触れそうになって、緊張してふっと息を吐き出してしまった。
「!!わ、わかった!わかったから!聞けばいいからやめろ、ローリー!」
アリオンは耳に息を吹きかけたられた事にびっくりしたのか、私の手首を掴みながらガタガタっと椅子ごと離れる。
……たぶん手首を掴んだのは、寄り掛かるようにしていた私が倒れないようにだろう。
「ローリーが勝った……」
「アリオンを捻じ伏せた……」
ユーヴェンとシオンの呟きに勝利の喜びが湧き上がる。
にんまりと笑って背伸びしていたのをやめて椅子にちゃんと座る。すると掴んでいた手首をアリオンが離して、自分の耳を隠すように手で覆った。
でも顔は真っ赤なので頬が緩む。
「ふふ、ありがとアリオン」
満面の笑みでアリオンにお礼を言うと、真っ赤な顔のまま睨んできた。
「こ、断れねぇように言ってきやがって……お前は……!」
「なんのことかしら?という訳で、また教えてね、ユーヴェン、シオン」
アリオンにとぼけた返しをして、にこにことユーヴェンとシオンに頼む。
「まあ……アリオンがいいなら……」
「うん……俺も……」
ユーヴェンとシオンは苦笑交じりに言ってきた。その視線は私ではなくアリオンにある。
「嫌なんて言わないわよ。ね、アリオン?」
笑顔でアリオンに念押ししながら首を傾げると、アリオンは悔しそうに顔を歪めた。
「ぐう……!…………はあー……言わねぇよ……」
諦めて大きな溜め息を吐いたアリオンに満足してユーヴェン達の方へと向く。
「ほら、ね?」
ユーヴェンとシオンが顔を引き攣らせながら首を縦に振った。
「おー……おっそろしい……」
ぽそりとフューリーさんが言った言葉が聞こえた。流石にやり過ぎたのかと恥ずかしくなる。
――みんなの前で……アリオンの耳元で話しちゃったものね……!
そう思っているとダンッと大きな音がした。
「いって!」
「カイン、今何か言った?」
「な、何も言ってません……」
「ふふふ、そうよね?」
……流石スカーレットである。ダンッという音は足を踏んだのだろうか。
――うーん……スカーレット……フューリーさんに厳しいわ……。
さっき何かが引っ掛かった気がしたのだけれど気のせいだったように思ってきた。
――スカーレット、フューリーさんの元カノの話題を変えたような気がしたんだけど……。
でも今の様子を見るとなんだか本当にカリナが可愛かったのを思い出して私の話題に移っただけのような気もしてくる。
――……まあ、何かあったらスカーレットも言ってくれるわよね。
それまでは見守っていようと心に決めた。
ちらっとアリオンを見ると、じっと私を見ていてドキッとする。……ちょっと拗ねたような顔をしているのに頬が赤くなっていて可愛い。
まだ耳を抑えている。
――……い、息を吹き込んじゃったのは……恥ずかしいわ……。
……自分がアリオンにやられたら悲鳴を上げていると思う。
――あう……!そ、想像しちゃ駄目よ……!
耳が赤く染まりそうなのを静かに深呼吸をして落ち着かせた。
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これからも読んで頂けると嬉しいです。




