友人達からの学び
カリナの質問に顔が赤くなりそうなのを必死で堪えながらどう答えようかと思ってハッとする。
――まずいわ……!私、ユーヴェンともアリオンと同じ感じで飲み物とか食べ物の交換してた!
顔を赤くしているカリナは男性と接した経験がほとんどない。だから……間接キス、のような事をするなんて事も経験がないのだろう。なのに目の前で私達がしていたから驚いたのかもしれない。
赤くなりそうだった顔はむしろ青くなる。
――私……ユーヴェンは今はどうでもいいのに……!
今まで一つも気にしていなかったのに、今はアリオンの事を急に意識しまくっている。
なんだかカリナに悪い事をしていた気がしてきて変な汗が流れる。どう伝えたらいいのだろう。
――やっぱりアリオンの言う事をちゃんと聞いとくんだったわ……!
ユーヴェンも止まっている。カリナの様子を見て、流石のユーヴェンも気にしたのだろう。
私とユーヴェンが止まっているとシオンが軽く言った。
「そういえばローリーってよくアリオンとユーヴェンに飲み物とか食べ物少しちょうだいって言ってたよなー」
シオンの言葉に肩が跳ねる。バレてしまった。
――でも言わない訳にもいかないし……!シオンが言うの途中で止めたりなんてしたらなんか変だし……!
カリナは大きく目を見開いた。
「……そう、なの……?」
呆けた感じでカリナが聞いてくるので私は肩を縮こませながら返す。
「…………えっと……全然気にしてなかったから……その……ほら、カリナ達とする感覚で……私してたのよ……」
そう、昔から仲が良かったアリオンとユーヴェンに対して普通に友達同士の感覚でやっていたのだ。
「あ、そっか……」
カリナもそれを聞いて納得したように頷く。カリナも仲の良いスカーレットとほとんど居たようだから、私もその感覚だとわかってくれたみたいだ。
「私ユーヴェンよりアリオンに頼む方が多かったから!」
少しでも安心させたくて更に情報を付け加えると、ユーヴェンも乗ってきた。
「確かに!だってアリオン、ローリーの好きそうなものをまず頼んでたもんな!」
「え?」
初耳の情報に思わずユーヴェンを見る。
「まあそういう時は大抵食べるスプーンとかもらえたら二つもらったりしてたけど……」
……確かに私が好きそうな物をちょうだいと言ったらアリオンは私にもらっておいたと言ってスプーンなどを渡してくれた。なんなら私が気に入るともっと食べていいぞ、なんて笑っていた。
「あー、確かにアリオンって大抵ローリーの好きそうなもん頼むんだよな。ローリーが迷いそうなものとか」
シオンまでユーヴェンの話に乗るので私は黙り込む。
――な、なんで……新たなアリオンの想いを教わってるの……!?
そんな事をしてくれていたなんて思ってなかった。ただアリオンが頼んだものはなんでも美味しそうに見えてよくちょうだいと言っていたのだ。
「そうそう。でもアリオンが好きなもん頼んでもさ、ローリー興味深そうにしてそれもちょうだいって言ってたよなー」
「アリオン、ローリーの好きそうな味じゃねぇぞって言いながらもあげてたな」
「結局ローリー、ほんとだって言って苦い顔するのによくやってたんだよ」
「だったなー」
ユーヴェンとシオンが楽しげに喋る話に恥ずかしくなってきて震えてしまう。
カリナに安心してもらおうとしていたはずなのに、今はカリナの方が心配そうな顔を私に向けていた。
――だって……アリオン私の好きそうなものを頼む事多かったから……!つい……!
ユーヴェンは笑顔で私に言ってくる。
「俺にはあんまりそういう事言ってこなかったよなー」
アリオンに甘えていた話をしたユーヴェンを睨んで反論する。
「ゆ、ユーヴェンはゲテモノ食いだもの!」
「う……」
自分でもわかっているのかユーヴェンは目を逸らした。
カリナやスカーレット、フューリーさんがユーヴェンを目を瞬かせながら見る。
ユーヴェンはバツが悪そうな顔をしていた。
「確かにユーヴェンって普通頼みそうにないもの頼んでたよな……」
シオンも頷いてくれるので更に言い募る。
「そうよ、それでまずいって言いながら食べ進めるじゃない、毎回!それを見てたら欲しいなんて言わないわよ!」
ユーヴェンは見た目や名前で選ぶのだ。それが大抵どう考えても美味しくなさそうなものだった。
捨てるのは勿体ないからと最後まで食べるのだけれど、駄目だこれ……と言いながら食べていた。
「美味しいもんの時は言ってきてたじゃないか!」
「美味しそうに食べてたら食べてみたいって思うに決まってるでしょ!」
ユーヴェンは舌が馬鹿な訳ではない。美味しい美味しいと嬉しそうに食べていたらちょっと食べてみたくなって当たり前だ。
「ふふ、ローリーってば……美味しいものに目がないんだね」
おかしそうに笑ったカリナにハッとする。カリナに説明中だったはずなのになんだかユーヴェンとの喧嘩になってしまっていた。
「……カリナ……えっと……その……全然、気にせずにやってたの……」
カリナになんだか申し訳なく思いながら説明すると、優しく笑ってくれた。
「ふふ、わかってるよローリー。学園時代、いつもブライトさんと……ユーヴェン、と一緒にいたんだもんね」
……カリナはユーヴェンを呼び捨てするのにまだ慣れていないらしい。ユーヴェンの名前を言う時は少し恥ずかしそうだ。
「俺も……全然気にしてなかった……」
ユーヴェンも申し訳なさそうに肩を落としている。
「……アリオンはローリーに軽々しくやるんじゃないって最初の頃に説教してたけどな……」
シオンに言われた出来事に目を泳がせた。クラスメイトの前で言い聞かせるようにアリオンに説教されて気にし過ぎよ、と言ったのは昔だけれど覚えている。
「う……。……軽々しくやってて……ちょっと反省してるわ……」
「俺も……反省してる……」
私とユーヴェンがしょげているとカリナが焦りながら首を振った。
「あ、あの……その……私がちょっと驚いちゃっただけだから……。三人で仲良かった証拠でしょ?ふふ、仲良くて羨ましいだけだよ」
そう笑ってくれるカリナに安心する。
そんなカリナにスカーレットも微笑んだ。
「ふふ、そうね。私達もよくやったものね、カリナ。仲が良かったらやるわよ。……私とカインも……やった事あるものね!」
スカーレットが目配せをしながらフューリーさんに言っている。たぶんスカーレットもカリナに特別な事じゃないと印象づけたいのだ。助かる。
けれどフューリーさんは少し恥ずかしそうに返した。
「え……。それだいぶ小せえ時……」
「あるものね!」
フューリーさんの発言に被せるようにスカーレットはもう一度言った。有無を言わせない笑顔である。
「お、おう、あるある!」
フューリーさんはハッとして大きな声で頷く。
カリナも流石にスカーレットが無理やり頷かせた事がわかったのか苦笑いしていた。
そこでガチャリと扉が開いた。
パッと向くとアリオンだ。目が合うと笑ってくれる。みんなもアリオンを見た。
少し時間がかかっていたみたいだけどどうしたのだろう。
アリオンは私の前にミルクが入ったポットと砂糖を置きながら言った。
「悪い、ミルクあっためてもらってたら少し遅くなった」
その言葉に目を丸くしてもう一度ミルクを見る。確かに湯気が立っている。
「え、わざわざ温めてもらったの……?」
わざわざ頼んでくれたんだろうか。アリオンはふっと微笑った。
「今日寒いからな。快くあっためてくれた。いっぱい入れても大丈夫だぞ」
確かに水筒は保温できるようにはなっているけれど、冷たいミルクを入れればどうしてもコーヒーの温度は下がる。でも温かいミルクを入れればそんな事はない。
「うん……」
食堂の人の親切に感謝しながらアリオンを見る。色々気づいてくれるアリオンは気遣い屋さんでとても優しい。
――アリオン……優しくてかっこいい……。
アリオンにきゅんとしていると、柔らかく微笑まれて心臓が跳ねる。
ぽわぽわし過ぎるとみんなに気持ちがバレてしまうかもしれないので必死に平静を装った。




