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―友人への激励―


 男達はそんな事をひとつも知らずにクッキーを分けながら話している。


「そんなに言われる程素直かなぁ?……あー、でも……ユーヴェンは元から素直だけどさ、俺達クラスメイトはアリオンをずっと見てたって言うのもあるかもなー」


「俺?」


 シオンの話に自分が出てきたので思わず目を向けた。


 シオンが素直な事と俺が何の関係があるのだろう。


「おう。だってあんだけわかりやすいのにローリーにはアリオンの気持ち一つも伝わってなかったんだぞ?気持ちははっきり伝えないと何も伝わらないってよぉっく学べたぜ」


「は……」


 シオンが俺に向かって言った言葉に二の句が告げない。なんだその理由は。


「……はっきり伝えないと何も伝わらねぇ、なぁ……」


 そう言ったフューリーはちらっとキャリーを見た。キャリーもその視線に気づいたのか見返すが首を傾げている。しかもすぐフューリーは視線を外してシオン達を見た。……意気地なしめ。

 そんな二人をメーベルさんはキラキラとした目で見ていた。


 ――ありゃメーベルさんにもフューリーの気持ちバレてんな……。


「あーだからシオン、メリアに猛攻してたんだ」


 ユーヴェンの言葉にメーベルさんの肩が跳ねた。


「でも俺就職してからは……伝えてたのに、たぶんうまく伝わってなかったみたいなんだよな……。それか見限られたか……」


 シオンが落ち込み始めるのでとりあえず励ます。


「マイナス思考はやめとけ。とりあえず会いに行くんだろ?」


「おう……」


 シオンが少し立ち直った所でメーベルさんに少し目を向けた。

 キャリーが話し掛けている。


「カリナ、どうしたの?」


「あ……えっと……。なんでもないよ……」


「そう……」


 キャリーの心配そうな声に、メーベルさんが落ち込んでいるのがわかってしまう。


 なんとなくだが見当がつく。


 ――たぶんユーヴェンの……ゴート嬢の呼び捨て呼び、だな……。


 その瞬間に肩が跳ねたので気づいてしまった。キャリーはフューリーの方を向いていたから気づかなかったのだろうが。


 メーベルさんもだいぶユーヴェンを意識しているらしい。


「カリナさん?」


 ユーヴェンもメーベルさんの様子に気づいたようだ。心配そうな顔をしている。


「なんでもないよ。私の分も置いておくね」


 そうやって笑いながらクッキーを紙ナプキンの上に置いた。


「そっか……」


 ユーヴェンは心配そうにしているがこれ以上は突っ込めないだろう。


「アリオン、クッキー……」


「おう……」


 分け終わって俺にクッキーを戻すユーヴェンは少し落ち込んでいる。きっとなぜメーベルさんが落ち込んでいるかわからないからだろう。


 ――……しかしこれは……言えねぇな……。


 まあ一応昔から仲の良い友人であるユーヴェンだし、ローリーがメーベルさんを紹介したのもあるのでどうするか少し考えてみる。


 一つだけ思い付いてフューリーを見た。……たぶんまた巻き込む事になるがいいだろう。


「そういやユーヴェンにしては珍しくフューリーを苗字のままで呼んでんな」


 そうやってユーヴェンに話し掛ける。


 ユーヴェンはいつも知り合うと距離が近いのだ。だから本当に珍しい。


「ん?そういえばそうだな……。なあフューリー、名前で呼んでいいか?」


「突然だな、グランド!?」


 フューリーが驚くように言うとユーヴェンがカラッと笑う。


「俺もユーヴェンでいいから!」


「ああ……。まあ、別に構わねぇけど……」


「よっし!よろしくな、カイン!」


「おう……」


 すぐにユーヴェンに順応するフューリーは変化に強い。


 メーベルさんは顔を少しだけ俯かせながらクッキーを食べた。

 やはり呼び捨てが気になっているようだ。キャリーがそれを驚いたように見ていた。


 ここからが本番だ。けれど口を開く前にユーヴェンが言ってくる。


「あ、アリオンとシオンもカインと仲良いし名前でいいだろ?」


「……ああ」


 呑気なユーヴェンを思わずジト目で見る。

 俺はユーヴェンの為に行動を起こしてやろうと言うのに……本人は平和なものだ。


「いいぜー。よろしくカイン!」


 シオンまでそう言った事にフューリー……カインが慄く。


「お、おう……。なんか……グランド……あー……ユーヴェンってすげぇな……」


「ユーヴェンは昔からこういう奴なんだよ……。話したら友達認定だからな。諦めろ、カイン」


「お前も慣れてんだな……」


「そりゃユーヴェンとは長い付き合いだからな」


 そう答えてからユーヴェンの方へと向く。


「そういやお前、なんでメーベルさんはさん付けなんだ?」


「え」


 俺の言葉にユーヴェンがピタリと止まった。

 メーベルさんも一瞬クッキーを食べる手が止まる。


 キャリーが軽く俺を見る。それに小さく頷いた。そうしたら任せると言うように頷き返される。

 キャリーの名前を出さなかったのはわざとだ。


 ――それにカインがなぁ……キャリーを呼び捨ては嫌な顔をしそうなんだよな……。


 メーベルさんは少し顔を俯かせたままクッキーを食べている。


 ユーヴェンはそんなメーベルさんを眉を下げて見ながら俺の問いに言いにくそうに答えた。


「あー……その……カリナさんは…………呼び捨てとか嫌かなぁ……って思って……」


 たぶんユーヴェンなりに男性が苦手なメーベルさんに気を遣ったのだろう。そして今はシオンやカインがいるのでその理由も言えない。


 ユーヴェンはちらりとメーベルさんを気にしているが、メーベルさんは俯いたままキャリーの服を掴んでいた。

 同じ側にいるからよく見える。


 少しだけ、踏み込むか。


「メーベルさんはユーヴェンから呼び捨てにされるのって嫌なのか?」


 そう聞くとピクリと反応する。少し難しそうな顔をして俺の方を見た。

 疑うような目だ。俺がどうしてそんな事を聞いたのかはバレていそうである。


「な、なにを聞いてるんだよ、アリオン!そんな聞き方したら……その……い、嫌だって言いにくいだろ!」


 ユーヴェンの言葉にメーベルさんが顔を上げた。難しそうな顔のままだ。


「あ……ご、ごめんカリナさん……」


 謝ったユーヴェンにメーベルさんは少し視線を外して答えた。


「……別に嫌じゃないよ」


「……え?」


 小さな声で言ったメーベルさんに、ユーヴェンは間の抜けた声を漏らした。

 メーベルさんはそれしか言うつもりがなかったのだろう、またクッキーを食べ始めた。


 ユーヴェンはそんなメーベルさんを見て顔を明るくしていく。


「あ、あの!じゃあ……その……お、俺……カリナさんの事、呼び捨てで呼んでもいい!?」


 勢いつけて言ったユーヴェンに、一瞬動きを止めてからなんでもないような感じでメーベルさんは返事をする。


「いいよ」


「ありがとうカリナさん!あ……いや……か、カリナ……」


 ユーヴェンははにかみながら言う。それにメーベルさんの肩が少し震えていた。

 キャリーも微笑ましくメーベルさんを見ている。


「あ、あの……お、俺もユーヴェンでいいから!あ……か、カリナ……がよければ……だけど……」


「……わかった……」


 メーベルさんはユーヴェンの言葉に小さく頷いていた。


 なんとか作戦は成功したようだ。ほっと一安心する。

 カインの件はメーベルさんの呼び方の話を振るのに怪しまれないようにだったが、たぶんうまく作用したんじゃないだろうか。


 ――ローリーにもあとで詳しく教えてやろう。


 見れなかった事を悔しがるかもしれない。けれどローリーを起こしてからは不自然だし、ローリーが起きるまで待っていたらメーベルさんの様子を放置した事をローリーに怒られるだろう。


 きゅっとローリーの手に力が入って俺の手を握る。少しだけローリーを覗くと幸せそうな顔で寝ていた。

 それにふっと微笑んだ。



二話目です!

これからも読んで下さると幸いです。


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