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―机の下の隠し事―


 すーすーと規則的な可愛い寝息が聞こえてくる。すぐに眠ってしまうくらい眠たかったらしい。


 ローリーと繋いでいる手を親指で軽く撫でると、少し口元が緩んだ。すごく可愛い。

 あんまり寝顔をじっと見るのも悪いので本を少し移動させて俺からもあまり見えないようにしておく。


 そうしているとユーヴェンが小声で問い掛けてきた。


「ローリー寝たのか?」


「おう、寝た」


 その問いに振り向いて小声で答える。

 手を繋いでいる事がバレないように注意しながら体をユーヴェン達の方に向けた。バレたらからかわれるのは必至だ。


 ――キャリーとメーベルさんは同じ側に座ってるから……あんまり見られたらバレるかもしれねぇけど……。


 まあさっき騒いでいたシオンやユーヴェンにバレるよりいいだろう。


「というかなんで寝不足だったんだ?」


 シオンが不思議そうに聞いてくるので、朝ローリーが言っていた理由を答える。


「メーベルさんと話してたら目が冴えて眠れなかったって言ってたな」


「あ……うん、そうなの……」


 メーベルさんは苦く笑いながら頷いた。


「へえー」


 メーベルさんの言葉に相槌を打ったシオンは、また俺に目を向ける。


「てかアリオン……お前のローリーへの態度が変わり過ぎててほんとにびっくりなんだけど……」


 そう言ってくるシオンに首を傾げる。


「変わったか?」


 そう聞き返すが、俺も考えてみればローリーに素直に気持ちを言っているからそれは変わっているのだろう。


 ――ローリーが大事って所は変わってねぇが……。


 シオンが呆れたように突っ込む。


「変わってるって。そりゃローリー至上主義は変わってねぇけど。でも前は大事にしてても自分が付き合うとかひとつも考えてなさそうだったし」


 シオンの言葉に頬を掻く。


 それはシオンの言う通りだ。俺は……この気持ちをしまい込んでおくつもりだったのだから。今はそんなつもりはひとつもないが。


 ――というかこんな可愛いローリーを俺以外に見せたくもねぇし……。


 机の下で繋いでいるローリーの手をすりっと撫でる。袖を掴んできたローリーが可愛過ぎて殺されるかと思った。


 ――しかも俺と話したいから起こしてくれって言うんだもんな……。あー…………抱き締めてー……。


 ローリーが可愛過ぎて反射的に抱き締めたいなんて思ってしまった。みんなの前だからやらないが。


 ――……駄目だな。一回抱き締めたらすぐ抱き締めたいって考えるようになっちまった……。


 コートを着ている間くらいならいいかと考えて、デートの時なんて何度も抱き締めてしまった。


 その軽々しく抱き締めていた所為もあってローリーを泣かせる事態になったのは反省している。

 もうローリーの話を止める気はないが、あの時のローリーの行動には息の根を止められそうになった。


 ――あの抱き着き方は……たぶん思いっ切り…………む、胸が……!


 デート前日のローリーの抱き着き方もやばかったのだ。あの時はコートを着ていたからそんなに感じなかったし、何かを考えてしまう前に離れたが。


 ……まあコートを脱いだ後、腕にぎゅうっと抱き着かれた時はちょっとどうしようかと……思ったけれど……。


 ――いや!な、なんも考えてねぇ、けどな……!


 そう、なんにも考えてなど……いない。


 ……でもまあ……そう何度もああやって抱き着かれるのはやばいので……止めた。


 ――……そういやローリー……俺の……考えちまう事聞いたから……。もしかして抱き締めんのもうやめて欲しいとか思ってたり……すんのかな……。


 ちらっと視線をローリーにやると、幸せそうな顔で寝ている。……可愛い。


 前は抱き締めるのもされたいと言っていたが、俺の話を聞いてちょっと……嫌……だと思われるのはダメージが大きいけれど……でも考えが変わった可能性もある。

 聞いた方がいいのだろうが……。


 ――ローリーの……やだ、って……破壊力高いんだよなぁ……。


 いや、言い方を工夫すればいいだけだ。軽く抱き締めるくらいの方がいいか、とか……。


 ――……あー……それでやだって言われたら……俺どうすりゃいいんだ……。


 大体額にキスされるのも抱き締めるのもまたしてほしい……なんて言われたのはやばかったのだ。


 ――ローリーって俺にされる事ほんとに嫌がらねぇどころか……またしてって言ってきやがる……!


 本当に俺はどうすればいいんだろう。


 ――付き合ったら……俺……付き合う前以上の事はするって言っちまった……。


 ……なんてやばい約束をしてしまったのだろう。


 ――あん時は付き合う前に抱き締めたりとか……額や手にキスとかするつもりじゃなかったんだよなぁ……!


 自分の首を自分で思いっ切り絞めている。


 途方に暮れているとローリーの手が俺の手をきゅっと握ってきた。寝息を立てているので無意識なのだろう。……可愛くて堪らない。


 少しローリーの方を見ているとシオンがニヤつきながら突っ込んでくる。


「それが今じゃローリーに猛攻してんだもんな、びっくりするよ」


 流石にクラスメイトであるシオンにずっと見守られていたのが恥ずかしくて眉を寄せた。


「……そりゃ……好きだって気づいたら……そうなる、だろ……」


 鈍感だった俺の所業を知っているシオンに歯切れ悪く答えると、シオンは長く息を吐いた。


「はあー……それも信じらんねぇ……。七年ぐらい気づいてなかったのに……」


「な、七年ってな……」


 どうして一年次からだと決まっているんだ。……ユーヴェンが気づいたぐらいだからクラスメイトが気づくのは当たり前ではあるが……。


「だってどう見てもアリオン、一年次の頃からローリーの事好きだったし」


「……うっせぇ」


 軽く答えたシオンにそっぽを向くと、楽しそうに笑われた。


「図星だなー。どう気づいたんだよ?」


 それにはキャリーが笑いながら答えた。


「私とカリナがローリーとブライトの様子を見てて、好きな人への接し方みたいって言ったからよ」


「ブライトさんローリーの事しか考えてなかったから……。ブライトさんがローリーを好きだって思われてるの理解できるって言っちゃったんだよね」


 キャリーとメーベルさんの話に首を掻く。


「まあ……それで改めて考えてみたって感じだな……」


「へえー。言われて考えた……って、アリオン俺達も散々言ってたのになんでキャリーとメーベルさんに言われた時にはちゃんと考えるんだよ?ひどくね?」


 俺の答えに不満そうに返すシオンに目を細める。


「お前らは俺をからかってるところがあっただろ。笑いながら言われたってからかってるな、ぐらいしか思ってねぇよ」


 こいつらクラスメイトは笑いながら「ローリー好きなのいい加減認めろよー」と言ってきていたのだ。

 そんなんからかっているとしか思えなかった。


「ぐっ……!」


 シオンは自覚でもあるのか呻いて眉を寄せた。


「まあ……カリナさんとスカーレットさんはそんな風にからかう感じじゃないよな……」


 ユーヴェンまで頷くのでシオンは肩を縮こませる。言い方に問題があったとは思っているらしい。


「しかしスカーレット、否定されたらそのまんま信じてるんだもんな。こいつすっげぇわかりやすいのに……。意外と信じやすいよな、お前……」


 フューリーがキャリーに突っ込んでいる。そう言うフューリーも俺とローリーがわざと恋人っぽくして見せたと言うのに、わざわざ俺を呼び出していた。

 あんなん見ただけで俺の気持ちはバレバレだったと思うが。


「うっ……。だってローリーもブライトも普通の友達って言ってるんだもの……。こんな感じが二人の普通なのかなって思ったのよ……」


 キャリーは目を逸らしながらフューリーに返す。それに俺は苦く笑った。


「まあ……俺もそん時は自分の気持ちに気づいてなかったし……」


 自分の気持ちに気づかずにローリーに接していたのだ。一度俺達の様子を見ただけでは気づきにくいとは思う。


 キャリーは不安そうにメーベルさんに問い掛けた。


「カリナは、気づいてた……?」


「え?私は……信じられないなぁって思ってたけど……その時は間違えちゃったって思ってた事があったし……ローリーが言うならそうなんだろうなぁって……」


「そうよね……。なんかローリーもブライトが過保護なの当たり前な感じだったもの……」


 ……それはそうだろう。俺は昔からローリーに過保護にしていた。


「あー……まあアリオンがローリーに過保護なのは昔からの当たり前だから……」


「だよな……」


 ユーヴェンとシオンもそう同意すると、キャリーは安堵したようだった。

 ……別に俺の気持ちがバレバレだったからって、気づかなかった事に反省しなくていいと思う。

 少し複雑な気分で息を吐いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ローリーが自覚する日を楽しみにしながら読んでいたので、自覚した日にはやったーー!よかったぁ!と思わず声に出しました。 ローリーが自覚してからはトントン拍子に進んでしまうのだろうか、それは少…
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