兄の溺愛
ほくほくとした気分でお昼を迎える。朝にアリオンやスカーレット、シオンに会えてよかったと思う。……ついでに兄にも。あの後は少しだけ訓練を見学してから魔道具部署へと向かった。
――稽古してるアリオン……かっこよかったわ……。
思い返すと、兄と稽古しているアリオンは真剣でいつもかっこいい。
でも……気持ちに気づいてから初めて会ったアリオンは、何もかもキラキラとしていてかっこよく見えた。
――あ、アリオンって……あんなに、かっこよかった……かしら……!?
……今過去を思い出してもアリオンはいつでもかっこよかったように思える。
――うっ……これが……す、す、す……好き……になる……っていう事なのね……!
軽く首を振って心を落ち着けながら、息を整えるように吐いた。
カリナと一緒にご飯を食べようと、お弁当を持って立ち上がる。
近くまで来ていたカリナと目が合うと、なぜかきょとんとしている。それに私は首を傾げた。
「ローリー、カリナさん」
呼ばれて後ろを振り向くと、ユーヴェンが魔道具部署の入り口に立っていた。
***
「お兄ちゃん!」
部屋を開けると同時に兄を見つけて走り寄って睨む。
「どうしたんだい、ローリー?」
にこにこと笑っている兄に対して頬を膨らませながら詰め寄る。
「私が寝不足だからってわざわざ騎士団食堂の個室取らないでよ!」
ユーヴェンが呼びに来た理由はなんとも恥ずかしいものだった。
兄が食堂の個室を取ったから少し寝たらいいと言っていると言われたのだ。
この騎士団食堂の個室は主に食事をしながらの会議等に使われると聞いたことがある。なのに個人使用なんて恥ずかしい事この上ない。
「別に使ってないんだからいいじゃないか。ちゃんと理由も正直に言ったよ?」
兄は悪びれる様子もなくにっこりと笑って答えた。
そんな兄に更に声を大きくして糾弾する。
「それが一番恥ずかしいのよ!公私混同の上に職権乱用してるじゃない!もー!」
「僕がローリーを大事に思ってるって知らしめないといけないからね」
「なんでそんな事を知らしめる必要があるのよ!」
「それは僕がローリーを溺愛してるからだよ」
「なんなのよ、それ!」
収まらない恥ずかしさに口が止まらない。この状態の兄は何を言っても無駄だとは思うけれど文句は言いたい。
するとガチャっと個室の扉が開いた。そこに居たのはアリオンとスカーレット、そしてシオンだ。
「ローリー、落ち着けよ。大きい声だから外までお前の声漏れてるぞ。それにリックさんだって寝不足気味なお前を心配したんだ。俺もローリーの事は心配だったしな」
苦笑交じりに言ったアリオンの言葉に胸がきゅうっと締め付けられる。
「アリオン……」
アリオンを見上げながら呼ぶと柔らかく微笑まれた。
息が、苦しい。
「な?」
そう優しく促されてしまうと、何も言えなくなってしまう。
兄を責められないのが悔しくて口を尖らせる。
「……アリオン、またお兄ちゃんの味方……」
むーっとしながら言うとアリオンは目をパチクリとさせる。
――アリオンって……お兄ちゃんと似てるところがあるからかよく庇うのよね……。
それがなんだか面白くない。前に兄に拗ねていると突っ込まれてしまったが、アリオンが兄を私より優先している気がしてしまうのだろう。
きっとこれは……嫉妬、している、という事だと思う。
――そんな事はないって……ちゃんとわかってるのに……アリオンと仲が良いお兄ちゃんに嫉妬……しちゃうわ……。
アリオンは私の拗ねている様子に顔を赤くした。……そういう所は可愛い。
まあアリオンに免じて許してやろうと思って兄の傍に行って……兄を盾にするようにしてアリオンを眺める。
アリオンはそれにきょとんとした。
――ち、近くで接するの……し、心臓止まりそうなんだもの……!
兄はわかっているのか少しおかしそうに笑っていた。そんな兄をパシッと叩いてからまたアリオンを眺める。
アリオンはなぜか本やら上着などを持っている。……なぜだろう?読むのだろうか。それはアリオンと話せなくなってしまうから少し嫌だ。今はもっと話したい。
でもその中には私があげたクッキーの袋も見えたのでそれには頬を緩める。
私の笑みにアリオンは灰褐色の目を細めて笑った。また心臓が跳ねる。
いつまでも見ていられるけれど、流石に見つめ合ったままというのは恥ずかしいので目を伏せる。
そんな中カリナがスカーレットに声を掛けている。
「スカーレット、フューリーさんは一緒じゃないんだね?」
カリナの不思議そうな問いに、顔を上げてそちらを見た。スカーレットは目を瞬かせている。
「え、カリナ……すごくがっかりしてたから……会わないようにと思って連れてきてないわよ?」
「す、すごくじゃないよ!ちょっぴり!ほんのちょっぴり残念に思っただけ!スカーレットと仲のいい人だもん!挨拶したいの!」
カリナの食い気味な反応にハッとして私も兄の盾から出てスカーレットの所へと行く。
「あ、私も……ちゃんとした挨拶交わしたことないから……挨拶したいわ」
そう、今日の朝だってちゃんとした挨拶ができなかった。この辺りできちんとしておくべきだろう。
アリオンの方を少し伺うと、仕方なさそうに肩を竦めた。
そんな仕草にアリオンが嫉妬していた事を思い出して、頬が火照りそうだ。
急いでスカーレットに目を向けると少しだけ悩んだ後頷いた。
「そう……。じゃあ……ちょっと引きずって連れてくるわ」
「ひ、引きずらなくていいわよ!?スカーレット!?」
朝の光景を思い出して止める。フューリーさんはそういえば顔が青くなっていたけれど大丈夫だったんだろうか。
――はっ!写真は嬉しそうに頬を少し緩めてスカーレットと映ってたわね……!
という事は大丈夫だったのだろう。フューリーさんも流石騎士である。タフだ。
「平気よ、平気!だってカインだもの!」
そう言ってスカーレットは個室から出て行った。
……それは引きずって連れてきても大丈夫という事だろうか。……スカーレットとフューリーさんはやっぱり気の置けない仲なのだろうなと思う。……それ以上、というのは……今の所望みが見えなかった。
「カリナさん、いいの?」
ユーヴェンが心配そうにカリナに問い掛けた。カリナは苦笑交じりに答える。
「大丈夫。心配しないで。もう写真見たんだから!」
力強く頷いたカリナに安心した所でアリオンとシオンの方へと向かう。カリナとユーヴェンは他にも話を交わしていたので、その間にスカーレットとフューリーさんの事で気になっていた事を聞いておこうと思ったのだ。
シオンもスカーレットとフューリーさんの噂は承知だろう。騎士団に回っているらしいし、シオンは昔から耳聡かった。
「ねえ……スカーレットって……フューリーさんに関して……いつもあんな感じなの……?」
声を潜めて聞くと、アリオンとシオンは遠い目をした。
アリオンも声を小さくしながら哀愁が漂った声を出す。
「……俺はフューリーが不憫にしか見えねえ……」
「俺も……。…………フューリーの恋を応援するってキャリーが言った時は……ついもらい泣きしそうになったぜ……」
「そ、そうなの……」
シオンからの情報に口の端を引き攣らせた。
――恋を……お、応援されるなんて……。
好きな人からなんの拷問なんだろうか。
――アリオンに応援されるとか……気持ちを言ってくれないなんて嫌だもの……。
アリオンは憐憫の眼差しで扉を見ていた。きっと引きずられて来るだろうフューリーさんは……やっぱり不憫に思う。
すみません、投稿漏れしてました!
更新がかなり遅くなってしまい申し訳ありません。
読んで頂きありがとうございます。
これからも頑張りますので読んで頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。




