煌めいた心
「ふふふ、ローリー顔真っ赤だね」
カリナが楽しそうに笑いながら言ってくるので思わず顔を背ける。
「うっ……」
「ブライトさん、ローリーをとっても大切にしてるもんね。一昨日もローリーを迎えに来た時びっくりしたんだよ」
カリナの言葉にパッと振り向いて、身を乗り出す。
「カリナ!その……アリオンと何を……話したのか……き、聞きたいわ……!」
私の勢いに驚いたのか一瞬目を大きくしたけれど、すぐに頷いて笑ってくれた。
「うん、もちろん教えるよ」
その返事に顔を明るくしてお礼を言う。
「ありがとう、カリナ」
それに優しく微笑み返してくれたカリナは早速話し始める。
「まずね、ブライトさんをスカーレットがローリーが緊急事態って呼び出したらほんとすぐに来たんだよ」
「え?」
目をパチパチとさせる。カリナとスカーレットはなぜそんな文言で呼び出したのだろうか。
「家に来るの5分も経ってなかったんじゃないかな?」
その言葉に目を丸くする。アリオンが今住んでいる所からカリナの家までだとそれなりに距離はあったはずだ。連絡をもらってすぐに飛び出して走らなければそんなに早く来るのは無理だろう。
顔が赤く染まっていく。
――あ、アリオン……ちょっと落ち着けばそんなの有り得ないってわかるはずなのに……!
カリナの家に居てスカーレットも一緒にいるのだ。怪我や何かがあったとしても、ちゃんとその旨を書くはずである。だから緊急事態だけしか書かないなんて有り得ない。
冷静に考えられないくらいに私の事を気にしてくれているのは嬉しくて口元が緩みそうになる。
「ど、どうして……そんな文言で呼び出したの……?」
それでもカリナとスカーレットの思惑が気になったので聞くと、カリナは中空に目を向けた。
「んー……ローリーが起きる前に迎えに来て欲しかったし……あと興味本位で?」
そう言ってにっこりと笑うので、アリオンもカリナとスカーレットにからかわれた事がわかってしまった。それに苦く笑いながら、アリオンの想いの強さを確認できてよかったとも思ってしまう。
――アリオンってば……本当に私が嬉しくなることばっかりしてくれてる……。
「そう、なの……」
手を組んだり解いたりしながらカリナに相槌を返すと、カリナは更ににっこりと笑った。
「それでね、とっても可愛かったローリーを見た事を私とスカーレットが自慢したらすっごく悔しそうな顔してたんだ」
「!!」
――あ、アリオンの様子をき、聞くのって……心臓に悪いわ……!
唇に力を入れて耐えていると、カリナは更に続ける。
「一番可愛いローリーはブライトさんが見てるんだから許してね?って言ったら、ブライトさん顔を真っ赤にしてたよ?すっごく可愛いローリーを見てたから思い出したんだろうね」
くすくす笑うカリナに震えてしまう。
――は、恥ずかしい……!
アリオンの様子を聞いているだけなのに私にまでダメージが入っている気がする。
――あ、アリオン……い、いつも可愛いって言ってくれてるけど……一体どんな場面を思い出したのかしら……!?
熱くなった頬を手で押さえる。
「あ、でもやっぱりローリーの無防備無自覚には困ってたから、これからはちゃんと気をつけようね?私達が注意したって言ったらとっても安心してたもん」
「うぐっ……はい……。気をつけます……」
昨日の話を聞いたらわかる無自覚さに肩を落とす。
「うん。それからね……」
その後も続くカリナから聞くアリオンの行動と言動に私は翻弄されてしまった。
カリナは終始楽しそうに笑っていた。
――わ、私……次に……アリオンと会う時、だ、大丈夫なの……かしら……!?
ただでさえアリオンがす、好き、だと気づいてしまったのに、色んなアリオンの様子を聞いてしまって会った時に普通にいれる気がしない。
でもアリオンに避けているとか誤解はされたくないから、頑張って普通でいるしかないのだけれど。
――アリオン……気にし過ぎちゃう事があるから……。
だからあまり誤解されるような対応はしたくない。
話し終えて、歯磨きや片づけをしてから入ったベッドの中でそんな事を考えていた。
――……でも……アリオンには……会いたいな……。
目を閉じて、瞼の裏にアリオンを思い描く。橙色に近い茶髪と灰褐色の瞳。鼻筋が通った綺麗な顔が無邪気に笑った。
――好き……。
思い描いただけですぐに浮かんだ言葉に頬が火照る。心臓が大きく音を鳴らしていた。
***
パチリと目を開く。
まだ暗い部屋の中で枕元に置いてある時計を見ると、まだ5時前という早さだ。
ぐっと顔に力を入れる。
――ぜ、全然っ寝れないわ……!
隣で寝ているカリナはすうすうと安らかな寝息を立てているが、私はアリオンが好き……と気づいた事が衝撃過ぎて寝れなかった。
ちらりとベッド脇のテーブルに目を向けるけれど、まだ明るさが足りなくて置いてある物の輪郭しか見えなかった。
それでも頭の中にすぐ思い浮かべられるくらい、記憶に焼き付けている。
ベッドの中に入ってから、ずっと私はアリオンの事を思い出していた。
どうして気づかなかったのかわからないくらい、私はアリオンの事を想っていた。
――ユーヴェンが好きだった期間と被ってないって思い込んじゃってたから……。
スカーレットの話も聞いていたのだからもっと深く考えればよかったと思う。
それにリュドさんに言われていたコロッといってしまいそうというのも、先に好きだったのなら耐えようとしていた意味がなかった。
アリオンに話を聞いてもらっていた時……私はアリオンが……私の事を好きでいてほしいと……きっと心の奥で思っていた。
だから……勘違いしたかったから、勘違いしそうだと思ったのだ。
――うう……私……本当に、鈍感……!
アリオンのわかりやすいと言われている気持ちに気づかなかっただけじゃなく、自分の気持ちにも気づかなかったのだ。
思い返していると私は顔が熱くなっていたり、胸がきゅっと苦しくなったりしていたのだ。でもそれはアリオンの行動が甘やかされるようで恥ずかしいからだとずっと思っていた。
でもそうじゃなかった。アリオンが好きだから、そんな想いを感じていたのだ。
アリオンの行動に胸が跳ねたのはあんな事をされたことがなかったからだと思っていたけれど、それだけじゃなかった。アリオンが好きだから……私は胸を跳ねさせたのだ。
何度も苦しくなった心臓も、きゅうっと鳴いた胸も、火照った顔も……全て私がアリオンを好きだと教えてくれていた。
なのに私はユーヴェンが好きだからと、それをされたことがない行動への反応だと決めつけてしまっていた。
――もっと早くに……気づいていれば……付き合えたかしら……。
そう考えて……唇を嚙み締めた。
――無理だわ……!言える気がしないもの……!
アリオンに面と向かって告白するなどできるのだろうか。
――ちゃ、ちゃんと星祭りには……こ、告白できるように……心の準備を……!
……直前で逃げないように、アリオンを遠くからでも見て心を慣らしておこうと最初の作戦を立てた。
それに遠くから見る時に心の中で『好き』と言う練習をしよう。
そんな事を考えていると、カーテン越しの太陽の光が仄かに部屋を照らし始める。
ガラス瓶の飴やネックレスが光を受けて煌めいた。




