否定と疑惑
「あ、着いたよ」
カリナがそう言って、お店に入る。いつもの男二人と行く居酒屋とは違って洒落たお店にワクワクしてしまう。
席に通されてメニューを見ると、美味しそうな名前が沢山並んでいた。
「どれも美味しそうね。この白身魚の葉物包みホワイトソース煮……とかすごく食べてみたい」
「ふふ、いいね!食べたいもの色々頼んじゃお!」
どれがいいか話しながらメニューを決め頼む。頼んだお酒がきたところで乾杯した。
白のスパークリングワインは甘さもありながら爽やかな味だ。いつも飲むエールとは違う美味しさがある。
みんなお酒を一口含んだ後、スカーレットが言いにくそうに話し出す。
「そういえばローリー。あなたブライトと付き合ってる噂が流れてるのだけど……」
「え?そんな噂が流れてるの?でも、ローリー友達だって言ってたよね?」
カリナも驚いたのか目を見開いている。二人共私を心配そうに見たが、対する私は苦笑した。
「ああ、そうみたいね」
そう落ち着いた様子で言うと、二人共顔を見合わせた。
「ローリー、知ってたの?」
「ええ」
カリナの言葉に頷く。昨日知ったばかりだが既知の情報だ。それに対する対処も決めた。だが、思ったよりスカーレットが耳にしたのが早かったな、と思う。
「一応違うんじゃないかしらって言ってみたけど……」
スカーレットは眉を下げながら言う。それにどう答えるか考えながら、スカーレットが早く耳にした理由を聞いてみる。
「……スカーレット、もしかしてアリオンを避けなくなったから質問攻めされたんじゃない?」
「よくわかったわね、その通りよ。色んな女の子に聞かれちゃってね。それで噂も聞いたのよ」
私はもしかしたらフューリーさんから質問攻めにあったのかもと思ったが、そうか、女性に人気があるならそちらからもあるか。
少し当てが外れたが、得心がいった。フューリーさんには余計なことをしたアリオンが私は彼女じゃないとバラしている。女性達からなら噂を聞いたのも納得できた。
「避けなくなったからって、もしかして好きなんですか、って聞かれちゃって困ったわ。否定してたら、魔道具部署の亜麻色の髪の人が彼女って聞いたことあります!って言われてね。ローリーのことだと思ってそれは違うんじゃって言ったら……更に大騒ぎになっちゃって……」
その先は言われてなくても想像できてしまう気がする。
「……アリオンを好きな疑惑が深まったのね」
人は想像する生き物だと誰かが言っていたような気がする。想像たくましい女性達はスカーレットのその言葉に色んな意味で色めき立ったろう。
「そうなのよ……」
疲れた顔で頷くスカーレット。人気者は大変だと思う。
「災難だったね、スカーレット……」
カリナが苦笑しながら労る。
「悪気があるわけではないし、みんな可愛いんだけどね。はあ、謝ることが増えたわ……」
「それはスカーレットのせいじゃないでしょう」
そう言いながらも、アリオンが顔を引き攣らせるだろうことが想像できてしまう。フューリーさんから睨まれる事柄が増えてしまったのだから。スカーレットの前では出さないだろうから、明日アリオンの好きなクッキーでも持っていこう……そう考えた。
「……それに否定してくれたスカーレットには悪いけれど、その噂そのままにしといていいわよ。今日はその話をしようと思ってたのよ。思ったより早くスカーレットの耳に入っちゃったけど。もっと早く言っておけばよかったわ。ごめんなさい」
否定させてあらぬ誤解を生ませてしまって悪いことをした。そう思って頭を下げる。
「謝らなくていいわよ!私も迂闊だったし……。でもローリー、それでいいの?」
「……そうね。んー……ちょうどいいから……(アリオンのフューリーさんという)男避けに」
フューリーさんに言ってしまったとはいえ、もう一度その噂が耳に入れば彼女持ちだと認識されて突っかかってくることもなくなるかもしれない。
そう私は考えているが、アリオン自体は噂をそのままにすることにあまりいい顔してなかったから、聞かれたら否定するかもしれないなあ、と思っている。まあ、積極的に消そうとしなければ別にいいけど。
アリオンが小言を言う想像をして溜め息を吐く。