特別な『好き』
自覚したと同時に心臓が激しく鳴って、顔が真っ赤に染まる。
カリナに更にぎゅうっと抱き着いた。
優しく頭を撫でてくれているカリナに気づいた事を告げようと、大きく息を吸う。
「……か、カリナ……わ、わたし……」
「うん」
優しい微笑みをたたえて聞いてくれるカリナを真っ直ぐ見る。
顔はとても熱いし、心臓が締め付けられてぎゅうっとして言葉が詰まった。
それでもカリナに言う為に言葉を絞り出す。
「……わ、私…………あ、あ、アリオンの……事……す、す、す、す、す……す……き、だわ……」
吃って分かりにくい私の言葉に、カリナはふわりと笑んだ。
「うん、そっか」
相槌を打ってぽんぽんと優しく背中を叩いてくれているカリナに、涙を滲ませながら目を泳がせる。
「ゆ、ユーヴェンが……好きだったはずなのに……わ、私……あ、アリオンの……事も……す、好き……だった……みたい……。……わ、私……あ、アリオンの……『特別』が……欲しいって、思ってた……」
カリナは柔らかい声で私に教えてくれる。
「人の気持ちって複雑だから、色んな気持ちが絡まるんだよ。ほら、スカーレットも言ってたでしょ?スカーレットも、失恋したばっかりなのに好きになるのはおかしいって思ってたって。でも、本当は失恋した話を聞いてくれた時から惹かれ始めてたって……」
「……うん」
そうだ。だって私もスカーレットの話を聞いている時に既視感があった。……それは、きっと……私がアリオンに前から惹かれていたから。
「……ローリーはどうだったの?」
聞いてきたカリナに顔が真っ赤に染まる。少し顔を俯かせながら思い出す。
「…………わ、私……ユーヴェンの事は……き、気づいた時から……あ、諦めなきゃって……思ってて……」
そう言うとカリナはなんとも言えないような顔をしながら頷いた。私が諦めようとしていた話題には微妙な気分になるんだろう。
「…………うん……」
「…………カリナ、そんな顔しないで……。わ、私……もう……あ、アリオンが……好きだもの……」
カリナの背中を私もぽんと叩くと、カリナはこくりと頷く。
「……うん。わかってる……。私も人の事言えないもん……。だけど……諦める選択させちゃったから……つい……」
そう言って眉を下げるカリナに微笑む。
「……わ、私……それでよかった……ううん、それが、よかったの……」
諦めようと思っていなければ、どうなっていたのだろう。……きっと鋭いアリオンはそれに気づいて……自分の気持ちを押し殺したと思う。
だって、アリオンは……ずっとそうしていたから。
――そんなの、嫌。……アリオンに……告白されないなんて……嫌……。
きゅっとカリナの服を掴んでしまった。
「ローリー」
カリナの驚きを含んだ声に、少し顔を逸らしながら答える。
「だって……アリオンを……す、す、す、好き……に、なったの……し、幸せだもん……」
私の言葉にカリナは花が綻ぶように微笑んだ。
「そっか、そうだね。ローリーとっても幸せそうだもんね」
「うん……。そう、なの……」
カリナに顔を赤くしたまま頷くと、ふふっと笑みを漏らした。
「じゃあ、続きを教えて?」
にこっと笑って促すカリナに少し恥ずかしくなって身を引きながら続きを話す。
「……えっと……あ、アリオンが……飲みに誘ってくれて……その……誘ってくれたのも……わ、私が落ち込んでるってわかってたから……なんだけど……」
「ふふ、流石ブライトさん。よく見てたんだね、ローリーの事」
「……うん……」
「ふふ」
アリオンを思い浮かべるとどうしても顔が赤くなる。
なんでもない風を装いながら飲みに誘ってくれたアリオン。それで私がユーヴェンが来る事に不安を覚えたのもすぐにわかってくれたアリオンは……どれだけ、私の事を見てくれていたのだろう。
そして、私をナンパから助けてくれた。怒気を孕んだアリオンの声と、大きな背中。
アリオンが来たとわかった途端にほっとした。
「アリオンが……助けに来てくれた時……すごくほっとして……嬉しかったの……」
「ブライトさんがローリーを助けたヒーローだったんだね」
「!!……た、たぶん……」
「ふふふ」
カリナの楽しそうな笑顔にジトッとした目を向ける。
「…………そう言うって事は……カリナもユーヴェンをヒーローだと思ったのね?」
「!!ち、違う、もん……!」
カリナは顔を赤く染めながら横を向く。耳まで真っ赤だ。
「へえー、そっかぁ……ふーん」
にやにやと笑いながらカリナに相槌を打つ。
カリナの表情は正直だ。
カリナはそんな私をちらっと見て口を尖らせた。
「…………ちょ、ちょっとだけ……思った、だけだもん……」
少しだけ言葉でも正直になったカリナににっこりと笑う。
「そうなのね。ちょっとだけ、ね」
カリナは可愛いなぁと思いながらこくこくと頷いた。
「うう……。ローリーだって思ったんでしょ?」
私の見守るような笑顔に呻いたカリナが今度は聞き返してくる。
それに目を彷徨わせてから答えた。
「…………だって……助けてくれたアリオン……かっこよかったもの……」
私の答えにカリナは目をパチパチとさせて、感嘆するように言葉を漏らす。
「…………ローリーって素直……」
……まあカリナよりは素直だとは思う。それを言ったらカリナにまた頬を摘ままれそうなので言わないけれど。
でも私の場合は私に素直に気持ちを伝えるって言ってくれたアリオンに私も応えたいと思っているというのもある。
「……アリオンが素直に伝えてくれるから……その……少しでも素直になりたいなって……思ってるの……」
カリナにその事も伝えると、カリナは少し悩ましげに目を伏せた。
「そう……なんだ……」
ユーヴェンも素直だから、カリナも考えているのかもしれない。それに少し口端が緩む。
急かさずに見守っていよう。
そのまま話を続ける。
「うん……。……アリオン……助けてくれた後にね……助けてほしいならいつだって行くって言ってくれたの……」
さっきも思い出した事を、もう一度思い出す。
「うん」
カリナの相槌に頬を緩ませる。
「それが……とても心強くて、頼もしくて…………眩しかった……」
あの時迷いなく言い切ったアリオンに……私の心は暖かく満ちたのだ。
そっと目を閉じる。
『困らねーよ。お前が助けてほしいなら、いつだって行く』
何度思い出しても、決して色褪せないアリオンの真剣な灰褐色の瞳。
私はそれが眩しくて、嬉しくて頬を緩めた。
きっと、あの時にはもう。
「…………私……あの時から……アリオンに……惹かれ始めて、たのね……」
ゆっくりと目を開いて呟いた。
諦めようと思っていた。そこにアリオンが私の気持ちを救うように飲みに誘ってくれて、そしてナンパからも助けてくれた。でも……きっとそれは、きっかけに過ぎなかったんだと思う。
私は……いつも私に優しくて、甘やかしてくれて、助けてくれるアリオンが……大好きだったから。
――私……きっと、少しのきっかけですぐに特別な『好き』に傾いてしまうくらい……アリオンの事……大好きだったもの。
昨日……もう一昨日になりますが更新できずに申し訳ないです。
また今日中に今日の分ともう一話を更新したいと思います。
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