素直になること
「カリナ、ユーヴェンと色んな話ができてよかったわね」
私がそう話し掛けるとカリナはカップを持っていた手をピタリと止めて少し頬を染めた。可愛い。
晩ご飯を三人で和やかに食べ終えるとユーヴェンは帰っていった。また明日迎えに来るのでよろしく頼んでおいた。
今日のカリナは気負わずにユーヴェンと楽しく話せていたようでよかったと思う。
今はお風呂に入り終わって私の部屋でハーブティーとお菓子を用意して少し話す予定だ。
「ふふ、カリナにユーヴェンを紹介してよかったわ。今日とても楽しそうだったもの」
そう屈託なく言える事に嬉しさを感じながら言うと、カリナは顔を赤くする。
「べ……別に……その……ろ、ローリーと話しするのも楽しかったもん!ユーヴェンさんと話したからって楽しかった訳じゃないもん!」
カリナは赤い顔を背けてそう言う。恥ずかしがっている事が丸わかりだ。
「ふふふ、そうね」
思わず笑いを零すとカリナは口を尖らせた。
私はベッドに座って、カリナには椅子に座ってもらっている。小さいテーブルを持ってきてそこにハーブティーを入れたポットやお菓子を置いた。
カリナはずいっと身を乗り出す。
「私の事よりローリーの事だよ!昨日のデートどうだったの?」
「え!?えっと……ゆ、ユーヴェンが聞いてきたから……だ、だいぶ話したと……思うん、だけど……」
そう、ユーヴェンも気になったのか何をしたか聞かれたのでちょこちょこ話した。買い物をした事や市場で情報を聞いた事、それからビンスさんのお店に行ったとかそんな感じだけだけど。
――さ、流石に額にキスとか手にキスとかいっぱいされたなんて恥ずかしくて言えないし……!
それでもカリナにはもう少し詳しく言おうと思っていたけれど、改めてまた話そうと思うと恥ずかしくてつい目を泳がせた。
カリナはにっこりと笑う。
「ローリー、私に話したい事あるんでしょ?聞きたいな」
先程恥ずかしがっていたカリナの姿はもう見えない。
可愛い満面の笑顔で問い詰められている感覚がする。
絶対に逃れられそうにない視線を感じながら、赤くなった顔を俯かせて話し始めた。
***
「ふふふ、とっても楽しかったんだね、ローリー」
昨日のデートの事をさっきよりは詳しく話すとカリナは楽しそうな笑顔でそう言ってくれた。
「う……うん……。その……すごく、楽しかったの……」
もじもじしながら答えると、カリナが感慨深そうに呟いた。
「額にキスで一睡もできなかったローリーが一日で大人になっちゃったなぁ……」
「か、カリナ!その言い方なんか恥ずかしい!」
カリナの言葉に思わず突っ込むと、楽しそうに笑った。
「ふふふ、ごめんね。ローリーとブライトさん、とってもいちゃいちゃしてるから」
「い、いちゃいちゃ……!?」
その言葉に目を見開いて顔が真っ赤に染まる。
「だって抱き締められたり額や手にキスをいっぱいされてるのにいちゃいちゃしてない訳ないよ?」
にこにこ笑っているカリナに恥ずかしくなって顔を手で覆った。
「う……!は、恥ずかしい……!」
――確かにそうなんだけど……!い、いちゃいちゃ……!
昨日はすごくアリオンと距離が近くて、何度も額や手にキスをされた。それでアリオンの唇の感触を覚えてしまった。
――そ、そんな事覚えちゃってよかったのかしら……!?
恥ずかしくて堪らない。
――でも嫌じゃないし……!
顔が赤く染まっていく。頭がのぼせそうだ。
「ふふふ、でもされて嬉しいんでしょ?」
カリナの問いに目を泳がせて頷く。
「…………うん」
昨日のアリオンと過ごした時間はどれも幸せだった。
――最後の方はマイクとカールに吹き込まれていた事がバレてアリオン怒ってたけど……。
それでも怒っていたのも私の為だ。マイクとカールの事とかはカリナには言っていない。流石に心配させてしまうだけだし、変な事を吹き込まれていたと言うのも恥ずかしい。
――そ、それに……アリオンあの時すごく色気があったし……!
問い詰められた時の近さは思い出すだけでもドキドキしてしまう。あんな風に問い詰められたなんていくらなんでも話せない。
「それにしても……剣帯に刺繍したいって言い出しちゃうなんて、ローリーはブライトさんの事とっても大事に思ってるんだね」
その言葉に顔を俯かせてハーブティーを飲む。耳まで熱い。
「だって……し、心配だったんだもん……」
「そうだね。心配だよね……。……でも、信じてるんでしょ?」
優しく言ったカリナに力強く頷く。
「うん、もちろん」
「私もね、信じてるよ。スカーレットの事も、ブライトさんの事も、ローリーのお兄さんの事も」
微笑んで頼もしい言葉をくれるカリナに私も微笑み返した。
「うん。一緒に居てくれてありがとね、カリナ」
「私こそありがとう、ローリー」
カリナが一緒に居てくれてよかった。そう思って笑みを溢した。
「ローリーがブライトさんに言えなかったイヤリングってそれ?」
カリナがベッド脇のテーブルに置いてある青い菱形のイヤリングを指差す。
「うん……なんか……お、お揃いっぽくていいなあって思って買ったんだけど……なかなか言い出せなくて……」
手を弄りながら答えるとカリナはふふっと笑った。
「恥ずかしくなっちゃったんだね、ローリー」
また顔が赤く染まる。きっと喜んでくれると思うけれど、なかなか言えなかった。
「うん……」
そう思うと一昨日と昨日、アリオンに言えなかった言葉を思い出す。
思い出すと自分の情けなさに少し落ち込んでしまう。
「どうしたの?ローリー。何かあったの?」
カリナは心配そうに私を覗き込んだ。私の様子にすぐに気づいて心配してくれるカリナはやっぱり優しくてとても心強い。
「あのね……わ、私……お、一昨日……その、アリオンに……い、言おうと……思ったの……。その……あ、アリオンを……だいぶ、す、す、好きに……なってきてるって……」
声が途中で裏返りながらもカリナに話し始める。ぎゅうっと自分の手を握った。
「うん」
カリナの優しい相槌に落ち着いて、私はカリナをちらりと見る。真剣に聞いてくれている。
「でもね……言えなかったの……」
きゅっと唇を噛み締めた。
「ローリー……」
カリナは眉を下げている。
「昨日もね……言えなかったの……」
しゅんとして肩を落とす。
アリオンにあとでと言ったのに、結局言えなかった。
アリオンが帰る前に聞いてくれた時にも、また今度と延ばしてしまったのだ。
――あの時は……アリオンが思ってる事聞いたら恥ずかしくなって……。
けれど伝えておけばよかったと今になって後悔している。
「ローリー、隣にいってもいい?」
カリナの言葉にコクリと頷く。するとすぐ隣にきて、私が握り締めていた手に自分の手を重ねてくれた。
「大丈夫だよ、ローリー。ローリーは伝えようとしてるから、いつかちゃんと言えるようになるよ。自分の素直な気持ちを伝えるのって……なかなかできないものだもん」
「カリナ……」
穏やかな表情で話すカリナに安心する。
ちゃんと伝える気持ちがあれば大丈夫だという事だろう。隣に座ったカリナの肩に少しだけ頭を預ける。
「私もね……なかなか素直になれないから」
カリナの苦笑交じりに言った言葉に、さっきの事を思い出す。
「…………そうね。カリナってすぐにユーヴェンへの態度否定する……」
「ローリー、余計な事は言わなくていいの!」
ムッとして言ったカリナは私の頬を摘む。
「ふにゃっ!」
いきなりで思わず変な声をあげた私をカリナは意地悪な笑顔で見てからパッと手を離す。
なんだか少しアリオンを思い出した。色々な場面でアリオンを思い出すのは、その思い出が濃いからだろう。
口を尖らせた私にカリナは楽しそうに笑った。
「ローリーが余計な事言うからだよ?」
にっこりと笑うカリナは少し怖い。けれど頬を膨らませて反論する。
「事実だもの。カリナ、スカーレットに頑張るって言ってたのにー」
私がそう言うと、スカーレットとの会話を思い出したのかバツが悪そうな顔をする。
カリナだってスカーレットの話を聞いて頑張ると言ったのだ。カリナの場合はまずは少しだけでも素直になる事からだろう。
――まあユーヴェンが素直過ぎるから相性はいいのかもしれないけど……。
そう考えてくすっと笑った。
読んでいただきありがとうございます。
更新がなかなかできずに申し訳ないです。
少し体調を崩してしまいまして……数日は毎日更新できないかもしれません。
また体調が良くなったら毎日更新に戻します。
これからも読んでいただけると嬉しいです。




