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―昔馴染みの二人―


「す、スカーレット、お前何を言い出すんだ!?昔の話はやめろよ!?」


 焦ったようにフューリーはキャリーを止めようとする。


 ……フューリーはあまり昔の話を掘り返されたくないらしい。

 キャリーは少しムスッとした感じで答えた。


「何よ、とっても可愛かったんだからいいじゃない。本当に美少女のように可愛かったのに……今はこんなにたくましくなって……」


 何故か涙ぐむように言うキャリーに思考が止まる。


 ――は?美少女?


 フューリーへの形容に相応しくない言葉が聞こえた。


「お前は何目線なんだ!?姉か!?それとも親か!?」


 フューリーが顔を青くしながら言っているが、キャリーは悔しそうに続けた。


「きっと昔の天使みたいに可愛い美少女のまま育ってたら今回の作戦にも選抜されてた筈なんです!輝くような銀の髪と宝石のように綺麗な紫の瞳ですし!」


 何故だろう。ものすごくフューリーの容姿を褒めているのに、最初に言われた言葉で褒められていると素直に思えない。しかも何故か目の前にいるフューリーを見ているようで見ていない感じがある。気のせいだろうか。

 フューリーは真っ青だ。


 キャリーのものすごい褒め言葉に、聞いていたみんなは眉を寄せた。


「天使みたいに……」

「可愛い……?」

「そうなの……?」

「……今からは想像ができないな……」

「……フューリーが……美少女?」

「……どうやったら……美少女なの……?」


 それぞれ呟きを漏らしながら、フューリーを見る。


 どう見たってお世辞にも可愛いという形容詞はつかない。せめて言うのであれば綺麗な顔をした高身長の男、というのが精一杯だろう。


「全員俺を見ないで下さい!」


 そんな顔色の悪いフューリーを意に介さず、キャリーは機嫌良さげに笑っている。


「本当に可愛かったんですよ。あ、写真見ますか?魔石に刻んであるんです」


「はあ!?なんでんなもん魔石に刻んでんだ、スカーレット!?」


 キャリーの言葉にぎょっとしながらフューリーが突っ込む。

 それに対してキャリーは事もなげに言った。


「天使みたいに可愛いからよ」


「お、お前……こ、この……可愛い子好きめ!メーベルさんにしとけよ!?」


 フューリーもキャリーがメーベルさんを可愛がっているのを知っているからそう言うが、当たり前に答える。


「もちろんカリナの写真も入れてあるわよ。それは見せられないけど」


「俺に拒否権はねぇのか!?」


「カインの可愛さを広めたいからないわね」


 ……可愛さを広めたいのは何の為なんだろうか。考えない方がフューリーの為な気がする。


「んなもん広めんな、スカーレット!なんだ!?これは俺への罰なのか!?」


「!そうよ、罰よ、罰。だから止めちゃ駄目よ」


「完璧に今思いついたろ!」


 スカーレットが魔石の付いたペンダントを懐から取り出す。


 フューリーはなんとか阻止しようとキャリーからペンダントを奪い取ろうとして、隣にいたギート先輩に動きを止められる。


「え!?ギート先輩!?」


「「見たい……」」

「「見たいわ……」」


 先輩達も俺もシオンもキャリーにそう言うと、キャリーは満面の笑顔で頷いた。

 フューリーの顔からさぁっと血の気が引いた。


 キャリーがあんなに言う程のフューリーの幼い頃の写真なんて見てみたいに決まっている。


「はい。どうぞ」


 キャリーは魔石に魔力を流して映写魔法の術式を発動させた。


「ちょっと待て、スカーレット……!」


 ギート先輩に抑えられているフューリーが動こうとするが発動された魔法はもう止まらないし、ギート先輩の腕から逃れられる訳もなく、映写魔法によって写真が中空に映し出される。


 映し出された写真の中には銀の髪と大きな淡い紫の瞳の幼い子がいた。4、5歳だろうか。かなり幼い。少しだけ長めの髪も相まって本当に美少女にしか見えない。

 しかも目を潤ませてぬいぐるみを抱いている。……これは本当にフューリーなんだろうか。


「うわ……まじか……」

「本当に美少女だわ……」

「これは天使みたいに可愛いってのも頷けるわね……」

「……これが本当にフューリーなのか?」

「信じられませんよね……?」

「ぬいぐるみ抱いてるしな……」


「ああっ!?スカーレット……お、お前なんで……あの時の写真持ってんだ!?」


 各々感想を言っていると、フューリーが声をあげる。覚えがあるのだろう、フューリーは恥ずかしさからか顔を真っ赤に染めていた。


 もう見終えたのでギート先輩がフューリーを離すと同時にフューリーは頭を抱えた。


「それはこのカインにときめいたからよ。カインのお父さんがくれたの」


 ときめいたという言葉が悪夢のような使われ方だ。美少女のような自分にときめいたと言われても嬉しくないだろう。

 キャリーのうっとりした顔が更に悲壮感を募らせる。


「あのくそ親父……!」


 ギリッと歯を鳴らしながら恨みを込めた声で言う。


「ちょっと、私はカインのお父さんに感謝してるんだから怒っちゃ駄目よ。ふふ、私のぬいぐるみを踏んじゃったからって目を潤ませながら謝るカイン……とっても可愛かったわ。あの頃は素直で私の後ろをとてとて着いてきて……本当に可愛かった……。それがいつの頃からか少し生意気を言うようになって……成長したわよね、カイン……!」


 涙を滲ませながら言うキャリーはなんだか幼い子を見守ってきた母親みたいな事を言う。


「あれだな!?親目線だな、お前!?やめろ、俺の過去を暴露すんなよ、スカーレット!」


 フューリーはキャリーを必死で止めようとするが、首を振られて拒絶されている。


「嫌よ。ほら、数年に渡って突っ掛かってた罰だもの。あ、笑顔のカインもとっても可愛かったんですよ、これです」


 フューリーは罰と言う言葉が出ると途端に口をつぐむ。困らせていたのはわかっているから言えないのだろう。


 みんなが覗き込むとキャリーはまた映写魔法を発動させる。


 ――複数入れているのか……。……フューリーがこんなに美少女っぽくなかったら……キャリーはフューリーを好きなのかもって思う所なんだけどな……。


 次に映し出されたのはにっこりと笑っている幼いフューリーだ。前の写真と同じく美少女だった。


 ――まあ……エーフィや姉さんには及ばねぇが……。


 ローリーの幼い頃もきっと可愛いんだろう。見てみたい欲が湧くが、きっとリックさんは見せてくれない。


 ――ローリーも美少女なんだろうな……。


 俺がそんな事を思っている間もフューリーは頭を抱えて唸っている。


「なんで俺の過去の写真を何個か刻んでんだ!?俺の傷を広げてぇのか!?」


「可愛いんだもの。あの頃のカインはカリナに匹敵できちゃうぐらい可愛かったわよ?まあカリナの方が流石に上だけど」


「そんな事を満面の笑みで言われても嬉しくねぇ!しかも結局負けてる!」


 フューリーは耐え切れなくなったのか机に突っ伏した。


「大丈夫だって、フューリー。美少女だったぞ!」


 シオンがそんな言葉を掛ける。たぶんその励ましは間違っている。フューリーは更に落ち込んだ。

 ギート先輩がフューリーを慰めるように背中を擦っているが、肩は震えている。


「でしょ?」


 目を輝かせたキャリーがシオンに同意してまたフューリーの幼い頃の話をし始める。

 みんな結構乗り気で聞いていた。……不憫だ。


 ……キャリーが昔は可愛かったと言っていたのはもしかして見た目だったんだろうか。

 いや、一応素直で後ろを着いてくるのが可愛かったと言っていた。


 ――でもなんか……今と印象が違いすぎて……喜んでいいのかどうか微妙だな……。


 フューリーもその事に気づいたのだろう。だから顔を青くしていたのか。


 想い人が自分の写真を持ち歩いているという嬉しいはずの状況なのに、フューリーは全く嬉しそうではない。むしろ絶望した表情だ。


 ……まぁこれは絶望するだろう。


 フューリーは真っ青な顔を机からゆっくりと上げながら恐る恐るといった感じでキャリーに聞く。


「スカーレット、お前……お前ってまさか……俺と仲直りしたの……お、俺の……見た目が……昔は可愛かった、からなのか……」


「え?……それは…………その、流石に突っ掛かられてたら……写真持ち歩くの……よくないかも、と……思って……」


 キャリーはそう言って目を泳がせる。

 どうしてだかは考えない方がフューリーの為になる気がする。

 しかしフューリーは考えてしまったようだ。


「……小さい頃の、俺の写真を……持ち歩く、為……?」


 愕然とした様子のフューリーに、流石にキャリーも駄目だと思ったのか言い募った。


「……あ……その…………それだけじゃ、ないわよ……?その……昔から普通に仲良かったんだし…………戻りたいとは思うものじゃない?カインだってそうだったから……私に普通に話し掛けるようになったんでしょ?」


 フューリーは戻りたいだけではないだろうが、流石にここでは言えないだろう。


「…………うん……そうだな……」


 フューリーは弱く微笑みながら頷いた。


 ……哀愁が漂っている。


「…………不憫ね」


 ジュード先輩がポツリと零すように呟いた言葉が胸にみ入った。


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