―フューリーの謝罪―
コーズ先輩もテーブルに座ってキャリーに話し掛ける。
「キャリーってフューリーとは昔馴染みだったのね」
「はい、そうなんですよ」
少し居心地悪そうにフューリーは目を泳がせている。キャリーとコーズ先輩の間にはフューリーとギート先輩がいるからだろう。気まずそうだ。コーズ先輩の隣にはジュード先輩が座っている。
ルノー先輩は俺の隣だ。
ジュード先輩もキャリーに問い掛ける。
「でもキャリー、ずっとフューリーと喧嘩してたじゃない……。どうして急に仲良くなったの?」
その質問にフューリーは肩を縮こませる。ルノー先輩とギート先輩はじっとフューリーを見つめた。
俺も一緒に責めるように見ておく。謝ったのだろうか。フューリーは小さく首を振った。
まだ謝ってはいないらしい。
キャリーは苦笑いしながらジュード先輩に答える。
「それはカインが突っ掛かってきてたから、私もつい言い返してただけで……別にカインが突っ掛からないなら私も普通に話しますよ。昔から結構仲良かったんです」
その言葉にジュード先輩とコーズ先輩が目を丸くする。シオンも驚いたようにフューリーを見た。
「え?そうなの?それってフューリーが一方的に突っ掛かってたって事?」
「ちょっと、フューリーそんな事してたの?」
二人の先輩から更に責められるように見られたフューリーは更に肩を小さくする。
「う……はい……」
そう答えたフューリーを見てキャリーは目を瞬かせた。
「それについては聞いた俺らが怒ったぞ」
ルノー先輩が言うと、驚いたようにキャリーがフューリーに問い掛ける。
「え、カイン怒られたの?」
「おう……」
そのフューリーの落ち込んだ様子にキャリーは楽しそうに笑った。
「ふふ、しゅんとしてるわね。ルノー先輩、ギート先輩、ありがとうございます」
キャリーがお礼を言うとルノー先輩とギート先輩が気にするなと言うように頷いて応える。
「ああ。それで、フューリー……」
ギート先輩がすっと目を細めてフューリーを促す。さっさと謝れと目が言っている。
フューリーはこくりと息を呑んでから、キャリーに向き直る。
「あのさ……スカーレット……。この前まで……何年もずっと……突っ掛かってて……ごめん……」
そう言って頭を下げるフューリーに、キャリーは目を丸くした。
「え……カインが突っ掛かってた事をちゃんと謝るなんて……どうしたのよ?熱でもあるの?……あっ、ルノー先輩とギート先輩に怒られて気にしたの?」
キャリーはフューリーが突っ掛かっていた事を謝るなんて全く思ってなかったようだ。
反省の気持ちがあるはずなのに、キャリーには一つも伝わっていない。
――もっと謝るしかねぇな……。
キャリーは今は突っ掛かられていた事を気にしていないようだが、まさか謝罪をする訳ないと思われているのは微妙な気分だろう。
「おお……」
「まさか……」
「これは……」
「やばいわね……」
先輩達の呆れたような声が俺にはよく聞こえた。フューリーは肩を落とす。
隣のギート先輩にぽんと肩を叩かれていた。
「……いや……俺……仲良かったのにいきなり突っ掛かるなんて……スカーレットを混乱させたかもしれねえって気づいて……ずっとスカーレットに悪い事してたなって、思ったんだ……。本当に……ごめん、スカーレット」
それでもちゃんと謝るフューリーに、キャリーは微笑んだ。
「大丈夫よ、カイン。別に怒ってないわ、ああしてた理由わかってるもの」
「え!?」
キャリーの言葉にフューリーが驚きの声を漏らす。
周りにいる俺達も目を丸くした。まさかキャリーはフューリーの気持ちに気づいていたんだろうか。
固唾を呑んで見守っていると、キャリーはにっこり笑った。
「カイン、女性が苦手になったんでしょ?」
その言葉に、一瞬沈黙が落ちた。
「……へえ?」
間が抜けたフューリーの声が場に音を戻す。
キャリーは更に続けた。
「だから旧知の仲の私にも突っ掛かるようになったのよね?今は頑張って克服しようとしてるんでしょ?」
にこにこと笑っているキャリーはこんなに鈍感だっただろうか。自分相手だと見えなくなるものなのか。いまいちわからなくなってきた。
フューリーは目を思い切り彷徨わせたあと、息を吐いた。そして口を開く。
「えっと……おう……。そう……かな……」
……肯定する事に決めたらしい。
不憫だ。やっぱり。
「かなって……。自分の事なのにわかってなかったの?」
キャリーが困ったように笑って突っ込む。
「……お前に悪い事したのは……本当だから……。ごめん……」
何度も謝るフューリーに、キャリーは優しく笑った。
「大丈夫よ。これからも仲良くしてくれたらいいわ」
その言葉にフューリーは安堵したように頬を緩ませる。
「おう……。ありがとう、スカーレット」
そんな二人を眺めていると、コーズ先輩がギート先輩に話し掛けた。
「……ねえ、ちょっと」
「何だ……」
「キャリーは鈍感なの……?」
その問いにギート先輩は俺とシオンに目を向けた。シオンは内緒話ができるようにこちらに寄る。
「……どうなんだ?」
シオンと目を合わせてから小声で答える。
「……他人の恋路には鋭そうだったんですが……」
「……自分の事にはこの通りみたいです……」
「そう……」
俺とシオンの答えにコーズ先輩は眉を下げた。
「…………不憫だな……」
ギート先輩のぽつりと零した言葉に、ジュード先輩が溜め息を吐く。
「…………きっとフューリーに突っ掛かられてたから、そんな風に自分を見てるなんて露ほども思ってないのよ。突っ掛かってくるような奴が自分の事を好きだなんて普通思わないわ。私達は端から見てるからわかるだけよ」
ジュード先輩の言葉に目を瞬かせる。
確かにそうかもしれない。キャリーは自分を好きだからフューリーが突っ掛かってきていたなんて思いもしていないのだろう。
――俺も好きなのになんで突っ掛かるのかわかんねえって思ってたもんな……。
キャリーも突っ掛かってきていたのだから自分を好きではないと思っていそうだ。
「……そんなもんか……」
ジュード先輩の言葉にルノー先輩がそう言う。
「そんなもんよ」
それに肩を竦めてジュード先輩は言い切った。
「なるほどね……」
コーズ先輩も納得したように頷いている。
これはフューリーは相当頑張らないと意識さえしてもらえないだろう。
昔馴染みという関係性があるからこそキャリーは仲直りしたが、それと同時に昔馴染みだからこそそれ以上の関係性を考えられていない。
――フューリーにあとですげえ頑張らないといけねぇぞって……忠告しとくか……。
……何気にフューリーの事を応援してしまうのは、俺もそれなりにフューリーと仲良くしているからだろう。ふっと笑みが漏れた。
「キャリー、よく許したわね、フューリーの事」
ジュード先輩がキャリーにそう話し掛ける。
フューリーは肩を揺らした。許してもらえない可能性もあった事を自覚しているのだろう。
キャリーは切れ長の琥珀色の目をパチパチさせながら答える。
「え……それは…………カイン、昔はとっても可愛かったんです」
「え?」
「は?」
聞き慣れないフューリーへの評価に先輩達が声を漏らした。
きっと昔は可愛かったと言っていた話だろうと思っていると、何故かフューリーは顔を青くしていた。
――この前言った時は嬉しそうにしてたのになんでだ……?
そう思っているとキャリーは目を輝かせて続けた。
「昔は本当天使みたいに可愛くて!守ってあげたくなる可愛さだったんです!だからカインがもし困ってるなら協力したいなと今でも思ってるんですよね」
……天使みたいに可愛い……?
てっきり幼い頃は仲が良くて一緒に遊んでいたから『昔は可愛かった』と言ったと思っていたが……何故こんなにキャリーは目を輝かせて言っているのだろう。
不思議に思っていると、フューリーは更に顔を青くしていた。
遅くなりました。読んで頂きありがとうございます。
これからも読んで頂けると嬉しいです。




