スカーレットの話
「スカーレット、お待たせ」
「別にあまり待ってないわ」
私とカリナが先に通用門の所で待っていたスカーレットに声を掛けると、笑ってスカーレットが返す。
今日はスカーレットとカリナと私で美味しい夕食を食べようと、仕事終わりに待ち合わせていた。
「ふふ、じゃあ行こう」
カリナがそう言って歩き出す。今日はお洒落な料理が食べれるレストランに行く予定だ。
「ええ、行きましょ」
私も頷いて歩き出すと、スカーレットに肩を叩かれる。
「ねえ、ローリー。……あのね、ブライトに謝ったわ」
「え?」
この前の言い方だと、避けないという話だったからそう言われて驚く。スカーレットは誤解だと知らなかったはずだ。
「私が避けてるのは悪かったし。避ける原因も誤解だったのかもと思って」
そう言って視線を彷徨わせている。きっと考えてくれたんだろう。嬉しくなって笑みが零れる。
「そっか。……あのね、昨日聞いたんだけど。アリオンはあなたとフューリーって人が喧嘩をしてると思って、止めようと焦ってあんな風に声を掛けたって言ってたわ」
「え?そうだったの?」
切れ長の琥珀色の目が見開かれる。その後手で顔を覆って深く息を吐いた。
「……なら私の完璧な勘違いじゃない。……あー……あの日は隊初日だったわね。みんな傍観してたからてっきり知ってるものだと……。配慮が足りなかったみたいね。もう一度謝る……」
俯いて反省しきりのスカーレットに私は笑う。
「大丈夫よ。アリオンはそんな事で怒ったりしてないから。自分も気をつけるべきだったって言ってたわ」
「うっ……その大人な言葉が突き刺さるわ……。これはケジメだから、また明日謝っておくわ」
「ふふ、律儀ね」
大きく溜め息をついてしょげているスカーレットの背中をぽんと叩く。
「でもよかった。ブライトさんと仲直りしたみたいだね、スカーレット」
そう言ってカリナも安堵したような笑みを浮かべた。
「ええ。むしろなんだか私とカインのくだらない争いに巻き込んだみたいで申し訳なくなってきたわ……。ローリーとユーヴェンさんの話を聞いてからちゃんと思い返してみれば、騎士団の女性騎士にあれをやってる姿もそこまでは見かけてなかったのよね。事務の女性にはしてたけど」
その話に苦笑しながら、スカーレットの話に出てきた人物について考えてから、はっと気づいて聞いてみる。
「あれはアリオンなりの敬意を持った女性への接し方なのよ。……そういえば、スカーレットはフューリーって人と仲が良いの?」
「……なんで?」
少し眉を寄せて不思議そうな声で返される。
「いや、喧嘩するほど仲がいい、とも言うし。それに……カインってフューリーさんのことよね?名前で呼ぶほど仲がいいのかなって」
「ふふ、カイン・フューリーさんはスカーレットの昔馴染みなんだよ。私は見たことあるくらいで、直接会ったことはないんだけど」
カリナが楽しそうに笑いながら答える。カリナも会ったことがないのに知っているということはやっぱり仲が良いのだろうか。
……え、もしかして昔からスカーレットのこと好きなの?それにしては愛情表現幼稚じゃない……?変わらないものなのかしら……。
内心で驚いているとスカーレットが苦く笑った。
「そうなのよ。カインとは父の仕事の関係で昔から顔馴染でね。学園も一緒だったわ。昔は普通の友達みたいな関係だったんだけど、いつの頃からか何かと突っかかってくるようになって……私とどっちが女性に人気があるかとか競いたがるのよ。それで私も負けず嫌いだからつい、女性に優しくして人気をとるようにしちゃうのよね。同僚の女性騎士にはしないんだけど、事務の子は喜んでくれるから……あと負けたくないし」
「……スカーレット……アリオンのこと言えないわね……」
苦笑しながら言うとスカーレットは小さく呻く。
「悪かったわよ……。でもブライトは騎士という仕事の同僚にもするのか、って思っちゃってたのよ!」
「つい癖が出ちゃうって言ってたから、許してあげて」
「わかってるわ……」
しょんぼりするスカーレットに気にしないで、というように背中をぽんぽんと叩く。きっとアリオンも許すだろうから。