―溶け込む雑談―
確かに俺はリックさんに憧れていたから同じようにしたいとは思っていた。
けれど……それだけではない。
俺は頭を抱えた二人の先輩に自分の気持ちを話す。
「ルノー先輩、ギート先輩……その……俺は……ガールド隊長に……み、認めてほしいと……思っているので……」
今思うとリックさんへの憧れだけではなく、ローリーの兄だからこそ認められたいと思っていたのもあるのだろう。
――諦めようって……俺本当に心の底から思ってたのか……?
今考えると不思議でしかない。
――いやたぶん……付き合ったら流石に諦めたと………………駄目だ、想像するだけですっげえ嫌だ!考えたくねぇ!
本当にユーヴェンがローリーを友達としてしか見ていなくてよかった。心の底から安堵する。
俺の言葉に顔を上げたギート先輩が深く頷く。
「……なるほど……愛か」
はっきりと言われた言葉に、流石に顔を赤くする。
――あ、愛……!いや……そりゃ……す、好きだし……い、愛しいとは……お、思ってるけど……!?
他人から言葉にされてしまうと恥ずかしい。
ルノー先輩もうんうんと頷いて同意を示す。
「そうか、妹さんへの想いでやってるのか……。ブライトは大好きなんだな、ガールド隊長の妹さんが」
その言葉にむず痒くなりながらも頷く。
「……は、はい……。その……付き合っては……ないんですけど……」
付き合っていない事は言っておかなければ。……付き合っていると思われたままにしておくとリックさんが怖い。
「お前……そこで肯定すんの、流石だな……」
フューリーがボソッと呟いた。
事実なんだから肯定しかないだろう。……まあ確かにフューリーは否定しそうだ。
「付き合ってないのかー」
「それなのにあの距離を許されているんだな……」
この前の朝の事や昨日の事だろう。ポリポリと首を掻く。
「で、フューリーは?」
「はい!?」
ルノー先輩に突然水を向けられたフューリーは素っ頓狂な声をあげた。
「そうだな。フューリーはどうなんだ?最近キャリーと仲睦まじくしているが」
ギート先輩の言葉に思わず笑いが零れる。やはり仲直りしたフューリーとキャリーはそう言われる程仲が良いのだ。
「な、仲睦まじく……!?そ、そんな事ないです!!昔から知ってるから……ちょっと気が知れてるだけで!」
まあフューリーの言う通りだろう。
――キャリーの方はフューリーの恋を応援する気満々だったもんな……。…………不憫だ……。
流石に不憫なのでそれは先輩達には黙っていよう。
「なんだ、告白はまだしていないんだな。喧嘩ばかりだったのに急に仲が良くなっているから、付き合い始めたのかと思っていた」
「うぐっ!」
ギート先輩の遠慮ない突っ込みにフューリーが沈む。
昔馴染みだという情報がないと、確かにいきなり仲良くなったように見えても仕方がない。
「昔から知ってるって言っても、ずっと突っ掛かってたろ?昔は仲が良かったのか?」
ルノー先輩は酒を飲みながら聞く。
こんな風にしながらもルノー先輩もギート先輩も広場の方に注意は向けているのだからすごい。
俺は不自然にならないように注意しながら、広場の方へと意識を向ける。
「はい……昔は普通に、友達みたいな感じで……」
フューリーは落ち着かなさそうにそう答えた。
「なんで急に昔みたいに戻ったんだ?」
ルノー先輩が首を傾げて聞くと、フューリーはバツが悪そうに言った。
「それは…………スカーレットにずっと……悪い事をしていたと……気づいて……」
フューリーの言葉に二人共目を瞬かせる。
「悪い事をしていた……?……まさか……仲が良かったのにフューリーの方から一方的に突っ掛かっていたのか?」
ギート先輩が眉を顰めて聞くと、フューリーは眉を下げて頷いた。
「……そう、です……」
それにルノー先輩も顔を歪める。
「うわー……まじか。よく許してくれたな、キャリー。仲が良かったのにいきなり突っ掛かられるなんて意味が分からねえだろ。キャリーの方から怒って縁を切られても不思議じゃなかったぞ」
「う……」
先輩達からの糾弾に、フューリーも肩を落とす。
確かにそんな危険はあった。それでもキャリーは仲直りしたかったんだろう。
ローリーと一緒にフューリーとキャリーの喧嘩を見た時、キャリーはちゃんとフューリーに対応しようとしていた。それは昔仲がよかったからこそ、戻りたかったんだと思う。
――俺もローリーと喧嘩ばっかりでまともに話せねえとか……すっげえ嫌だな……。
そんな事を思いながらフューリーに聞く。
「……お前あんな態度とってた事、キャリーにちゃんと謝ったのか?」
俺の問いに肩を揺らしてフューリーは目を泳がせた。
「…………まだ……」
その返事に、フューリー以外の全員が溜め息を吐いた。
「それはちゃんと謝れ」
「そうだぞ。告白より何よりそこからだな」
ギート先輩とルノー先輩からそれぞれ忠告をもらったフューリーは項垂れながら頷いた。
「はい……」
そんなフューリーとルノー先輩は肩を組んだ。少し声を潜めてにっと笑う。
「ほらほら、今のキャリーはどうだ?」
広場の方を軽く指し示すルノー先輩に、フューリーは目を丸くする。
「え!?」
ギート先輩もニヤッと笑いながらフューリーに言う。
「キャリーも今日は騎士服ではなく釣るためにめかし込んでいるからな」
その言葉に先程のキャリーを思い出したのか、フューリーは顔を赤くした。
確かに今日のキャリーは珍しく髪を下ろし、スカートを履いていた。きっちり化粧もしていたと思う。
――……駄目だな、めかし込んだキャリーの話題で昨日のローリーを思い出しちまう……。
昨日のローリーはすごく可愛かった。
最初は俺と二人きりの家の中で普通に着替えてくるなんていうローリーの無防備な一面に困ってしまったが……。
――まあ……あれは俺も浮かれて気づかなかったのも悪いけど……。
けれど以前俺が選んだ服やブローチを着けて、どう?と尋ねてくるローリーはものすごく可愛かった。
――しかも俺の事かっこいいって言ってくれるし……!
触れた髪もさらさらで、俺が買った髪飾りを着けたいなんて言ったローリーが可愛すぎて死ぬかと思った。
考えていてハッとする。意識は広場にやっているが、少し関係ない事を考え過ぎた。
今は仕事だ。それとついでにフューリー。
パッとフューリーに目を向けると、目をウロウロとさせていた。それでもキャリーがいる広場の方に意識は向いているようだ。広場に向ける視線のが長い。
「いや……その、えっと……」
けれどもフューリーはきちんとした言葉は出さない。
ルノー先輩はバシッとフューリーの背中を叩く。
「それぐらい言えるようにならねぇとなー。ほら可愛いとか綺麗とか言えよー?」
「見た時にそれぐらいは言わないと駄目だな」
ギート先輩も頷いて言うので、フューリーは情けない顔で呻いた。
「うぅ……!」
それを呆れた様子で見ていると、ルノー先輩がカラッと笑う。
「ブライトはどうなんだ?デートの時、妹さんにちゃんと言ったのか?」
「こふっ……。急に振るのやめて下さい……!俺はそりゃ……ちゃんと言いましたよ……」
少し飲んでいた酒を零しそうになってしまった。
「流石だな」
「おう、フューリーも見習えよー」
二人の先輩の言葉に少し照れて頬を掻く。
フューリーは悔しそうにしながら俺を指差した。
「で、でも……こいつは告白してますし……!」
「ぐっ!フューリーお前何を言い出すんだ!?」
まさかここでバラされると思ってなかった俺はバッとフューリーの方を向く。
「いいじゃねぇか。もう色々と目撃されてんだからバレるの時間の問題だろ」
その言葉に眉を寄せる。確かにそれはそうだ。
手を繋いでいる所まで目撃されている。
付き合ってないと言ったけれど、それに近い関係なのではと推察できるだろう。




