考えなしな発言
ユーヴェンが考えるように目を泳がせる。
「カリナさんやスカーレットさんがアリオンに言ったということは……みんなで遊んだ時?」
「うん。ユーヴェンさんが来る前に噂の話で……ブライトさんがローリーに迷惑がかからないなら自分がどんな誤解されてもいいなんて言うから……驚いちゃって……」
カリナが苦笑しながら言った聞き慣れていた過保護なアリオンの言葉でさえ、今は前とは違った意味が溢れてきてカアッと顔が赤くなった。
「あー……アリオンって昔からローリーに過保護だったもんな。まあ好きだからだったんだけど」
ユーヴェンの言葉に顔が赤くなる。
『俺の過保護、全部お前を好きだったからなんだよ』
――あ、アリオンのバカ、バカー!
しかもアリオンに昨日言われた言葉まで思い出してしまって顔から炎が出そうだ。
とさっとカリナの肩に顔を伏せる。そうするとカリナは頭を撫でてくれた。
「……ローリーって恋愛事にあんまり興味なさそうだったのに、今はだいぶアリオンの事意識してるよなー。そんなに顔真っ赤にしてちゃ俺でもわかるよ」
「うるさいわよユーヴェン!」
笑いながら言ったユーヴェンをギッと睨んでやる。
――アリオンが気持ちをすっごく伝えてくれるんだから恥ずかしくなるのよ!
睨んでも笑っているユーヴェンにカリナの冷えた声がかかった。
「ユーヴェンさん、考えなしな発言はやめようね?」
カリナはユーヴェンににっこりと笑っているが、目の奥は笑っていない。
ユーヴェンはビシッと背筋を伸ばした。
「は、はい。すみません……!」
ちらりとカリナを見ると、私には優しく笑ってくれた。
――ユーヴェンってば……カリナを怒らせる事ばっかり言うんだから……。
そこが考えなしな発言、なのだろうけど。
カリナはふうっと溜め息を吐いた。
「ユーヴェンさんはローリーとブライトさんと仲がいいのも分かるけど、遠慮なくものを言い過ぎだからね?突っ込み過ぎちゃ駄目だよ。二人の秘密にしときたい事もあるんだから」
カリナの言葉に熱がのぼる。
「あ、そうかぁ……。二人の秘密か……。なんか……寂しいような感慨深いような……」
ユーヴェンもそう言うので耐え切れなくて叫ぶ。
「もー!カリナもユーヴェンも!わざわざ言わないでよー!」
カリナは少し意地悪だ。でも仲が良いからこそのやり取りなので嫌じゃない。
カリナとユーヴェンは楽しそうに笑った。
「ふふ、ごめんごめん」
「いやー、嬉しくってさ」
にこにこ笑っている二人に頬を膨らませる。
「もう!……あ、そうだ、ユーヴェン。アリオンの魔導グローブ、いつ消耗するか見といてよ」
ふと頼もうと思っていた事を思い出したのでユーヴェンに頼んでおく。
……朝に頼むのは魔導グローブに術式を入れた事を言わなければならないと考えてやめたのだ。そういえば恋人同士がやるような事だったと思い出して恥ずかしくなってしまった。
早めに言おうとは思っていたけれど、さっきつい口を滑らせたのでもう頼むしかない。
「ん、おう。あ、ローリーが入れたって言ってたな。次も入れるのか?」
ユーヴェンが頷いてくれたので、私はアリオンへの文句もついでに言う。
「そのつもり。だってアリオン、たぶんかなり適当に術式入れてたわよ、あれ」
「え、そうなのか?てっきり家族に入れてもらってるんだと思ってたけど……」
私の言葉に目を見開いたユーヴェンは顔を歪めた。ユーヴェンもアリオンの魔法の雑さはもちろん知っている。
「最近帰ってなかったじゃない。フェリシアさんの彼氏さんに会うのが嫌だったのよ、アリオンは」
大きく息を吐く。
全く自分で雑な術式を入れるくらいだったら頼んでくれればよかったのにと思う。
告白される前でも自分で入れていると知っていたら、絶対にアリオンを説得して入れていた。
「あー……確かにあんまり帰ってなかったな……。ったく、あいつは自分の術式雑なのわかってるくせに……」
ユーヴェンも大きく溜め息を吐く。
「アリオンって魔力量多いから雑でもそこまで問題なく発動できちゃうんだもの……」
私とユーヴェンで頭を抱えていると、カリナは目をパチパチとさせた。
「そんなに雑なの?」
「雑よ。得意魔法以外は全部雑」
すかさず答えた私にカリナは「全部雑……」と呟く。
「やる気あったらあいつはできるはずなんだけどなぁ……」
「そうよね。だって治癒魔法とかは大得意だもの、アリオン」
ちゃんとやればできるのにやらないのだから質が悪い。
「そうなんだね……」
カリナも私達の話に苦笑している。
「アリオンは術式を適当に描いてても、魔力で足りない部分を補って発動させるのよ。全く、綺麗に描けば無駄な魔力もいらないし、発動させるのも早くなるはずなのに……」
アリオンの適当な魔法発動の仕方を話す。
――騎士は危険もある仕事なのに……。心配させたくないならそこもちゃんとしなさいよね!
バレてなかったから今までそうしていたんだろうけど、今度からはそうはさせないと決意する。
「それは確かに不安だね……。その事を聞いたから入れる話になったの?」
そう聞いてきたカリナにピタッと止まる。
「…………それは……その……。……カリナには……あとで言う……」
カリナには聞いて欲しいと思う。少し頬が熱を持った。
――剣帯に刺繍したいなんて……は、早かった、わよね……!?い、一応カリナにも……聞いてみたいわ……。
結局アリオンの家族と一緒に刺繍もする事になったので、それも一緒に話したい。
「ふふ、うん」
カリナは嬉しそうに頷いてくれたので、私も頬を緩めた。
「え!?俺は仲間外れ!?」
目を丸くして言ってくるユーヴェンをキッと睨む。
ユーヴェンに言ったら剣帯への刺繍の事が鋭いアリオンにバレそうな気がするのでなしだ。
「聞きたかったらアリオンに聞きなさい!私からはユーヴェンには言わない!」
それに単純にユーヴェンに言うのは恥ずかしいので、聞きたかったらアリオンから聞いて欲しい。
「ええー!なんでだよー!?アリオン教えてくれなさそうだぞ!?」
確かにそれはあるかもしれない。けれど譲る気はない。
「カリナに話したい女同士の話なの!」
そう言ってカリナに抱き着く。
ユーヴェンはぐっと押し黙った。そして息を吐く。
「わかったよ……」
そんな私とユーヴェンのやり取りをカリナはくすくすと笑って楽しそうに見ていた。
ユーヴェンは口を尖らせて拗ねた様子だ。
「なんか俺だけ知らない事が増えていくなぁー……。お前ら俺に初めて会った時の事も内緒にしてたし」
ジトッとした目で見てくるので目を伏せて答える。
「だって……アリオンに黙っててくれって言われたんだもの……」
「アリオンもなんでローリーに会ったこと俺に何にも言わなかったんだろ。別に一目惚れしたからって黙ってなくても……」
ムスッとしながら言うユーヴェンは仲の良いアリオンに内緒にされていた事にいまいち納得できていないようだ。
そんなユーヴェンにカリナが微笑みながら言う。
「ふふ、きっとローリーと会った事は自分の中に秘めておきたかったんだよ」
カリナの話に私まで恥ずかしくなる。
ユーヴェンは目をパチリとして頷いた。
「あー……それはわかるかも。俺も最初アリオンにカリナさんの事なかなか言えなかったし」
「!!」
ユーヴェンの言葉にカリナがカッと顔を赤く染めた。それを見た私は素早く移動するとユーヴェンの額をバチンと叩く。
「ってぇ!いきなりなんだよ、ローリー!」
不満そうなユーヴェンをギロリと睨みつけて怒る。
「あんたは自分の発言の意味をよく考えてから口に出しなさい!」
ユーヴェンは私の言葉に目を瞬かせると、顔を真っ赤に染めた。
遅まきながら自分の発言の意味に気づいたようだ。
――考えて行動しなさいって言ったばかりだって言うのに!
素直に何もかもを言い過ぎるのはユーヴェンの悪い所だ。それが良い方に転ぶこともよくあったけれど、今回は急にそんな事を言われるカリナの事を考えられてないので駄目だ。




