惚気
「そりゃよかった……」
「そうだね。よかったよ……」
遠い目をするアリオンとユーヴェンにむっとする。
「何よー。あんた達が私に隠そうとしたのが悪いんでしょ。だから有り難く頂くわね」
そう言って奢ってもらった二つのケーキを自分の方に引き寄せた。
「はいはい、どーぞ」
「うん、どーぞ」
二人はコーヒーを飲みながら勧めてくる。私は満足した顔で頷いて早速食べ始めた。まずはフルーツたっぷりのタルトからだ。
「だからアリオン、言ったじゃないか。もしバレたらとことん怒られるよって」
「お前が言わなければバレずに処理できるかと思ったんだよ」
「結局自分からバラしたじゃないか」
「それは悪かったって」
「まあ、結局黙ってた俺も同罪だけどさ」
ユーヴェンとアリオンはそんな言い合いをしている。その話に途中になっていたフューリー対策の為に口を挟んだ。
「そういえば、別にその噂消さなくてもいいわよ」
「え?でもローリー困らない?」
驚いたように言ってくるユーヴェンにケーキを食べながら返す。
「別に困らないわよ。今はあんた達と遊んでる方が楽しいし」
チラッとアリオンを見る。このユーヴェンの様子だとフューリーの事は言ってないのだろう。
恐らくフューリーと顔を合わせやすい部署にユーヴェンがいるからだろう。憶測だからあまり話さないようにしているのかもしれない。それを肯定するように、アリオンは肩を竦めた。
「まあ、好きな人でもできたら言うわよ」
渇いた笑いを零しながら言う。そんな日が来る気がしないのは気のせいだと思いたい。
「そういえば、ローリーからそういう話聞いたことないよな。アリオンもだけど」
「ユーヴェンだってカリナと会うまではそんな話なかったわよ」
そうジトッとした目で見ながらいうと、ユーヴェンは破顔した。突然のことに驚く。
「いやー、昨日のカリナさん可愛かったなー」
デレっとした顔で話し始めるユーヴェン。あの顔を見ると無性にはたきたくなってくるのは何故だろう。
「私は昨日その場にいたから、アリオンに心ゆくまで話してあげたらいいんじゃないかしら、ユーヴェン」
「はあ!?お前、それは逃げじゃ……」
「しっかり聞いてあげてね、アリオン」
「昨日の報告をアリオンにするって話だったもんな!」
そう言ってアリオンに向き直るユーヴェン。アリオンは私を縋るような目で見ている。
私は頑張って、という意味を込めて笑顔で手を振った。
アリオンの絶望するような細い声がして、ユーヴェンのカリナに対する惚気が聞こえてくる。
あの惚気は聞く気にはなれない。アリオンもそうなのだから、私もそうでもおかしくないだろう。
……なんだか甘いものが沢山食べたい気分だ。ケーキを二つ平らげた私は、このお店特製のパフェを頼んだ。
ユーヴェンの話が終わった頃には日が傾きかけていた。本を読んでいた私は、机に伏せて疲れているアリオンととても満足そうにしているユーヴェンを見て、正反対の様子に苦笑する。
どうしてだか、胸焼けしたように気持ちが落ち着かなかった。きっと甘いものを食べ過ぎたのだろう。
窓から入った夕日が眩しかった。