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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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通達と誤算


 ユーヴェンに剣帯の監視を頼むとふたつ返事で頷いてくれた。

 これで兄もアリオンも刺繍した剣帯を使っているか確認できる。騎士団事務員であるユーヴェンを避ける事は難しい。


 騎士団棟と事務棟の分かれ道でユーヴェンと別れた後、魔道具部署へと向かった。


 魔道具部署へ入ると黒髪に翠玉の瞳のカリナはとても可愛い笑顔を浮かべながら近寄ってきてくれる。


「おはよう、ローリー」


「おはよう、カリナ」


 挨拶を返すと私を見ながら首を傾げた。


「魔道具の眼鏡で色変えてるの?どうして?」


 私の短い伝達魔法では詳細まで伝えられなかった。これから説明しようと口を開く。


「うん、これはね」


 その時慌ただしい様子で壮年の男性が入ってきた。魔道具部署の部署長だ。


「おはようございます」


 入口近くにいた私とカリナが挨拶すると、部署長は私に目を留めた。


「ああ、おはよう、ガールド、メーベル。ガールドは……流石騎士団隊長の妹だな。もう対策をしているのか」


「はい」


 慌ただしく入ってくる部署長は珍しいと思っていたら、恐らく朝に事件の通達があったのだろう。

 そして通達があったという事はあの情報だけで終わらなかったと思われる。


 ――まあ、お兄ちゃんから聞いた訳じゃなくて……情報を聞いたのが私とアリオンだからなんだけど……。


 カリナはそんな話をしている部署長と私を不思議そうに見ている。


「ならいい。気をつけるように」


「はい、ありがとうございます」


 部署長の言葉に頷くと、部署長は部署内を見回した。


「皆、もう揃っているな。緊急の話があるから席に座って聞いてくれ」


 そう言われたので席に座る。


 きっと事件の件だろう。


「今朝騎士団から通達があった。今城下に犯罪者集団が潜伏している可能性がある。犯罪者の狙いと思われているのは他国で珍しい髪色や目の色の女性……。今確認されている手段はナンパだ。だが、今現在行方不明になっている者はいない。それは安心してほしい。だが用心する事に越したことはない。目立っていないだけで子供や男性も狙われている可能性がある。ナンパも追っ払われている事例が多い事から、容姿確認の手段に使われている程度の可能性もあると言われた。具体的には髪色は赤、銀、白金などだ。目の色は青、赤、紫、金など。他国で珍しいと言われている色を持つものは気をつけるように。なるべく一人で出歩かないようにしてくれ」


 その話に息を呑んだ。青い瞳だけではなかったのだ。

 おじさんは昔の事件を覚えていたから青い瞳の事を言ったのだろう。そしてあの辺りでは青い瞳の女性に声を掛ける事が比較的多かったのかもしれない。


 今まで発覚しなかったのもきっとそのせいだろう。声を掛けられる容姿に特徴がない、ただのしつこいナンパだと思っていたのだ。


「ガールドのように色変えの魔道具を使うのも効果的だろう。ああ、王宮では外して大丈夫だぞ、ガールド」


「あ、はい」


 急に部署長に水を向けられて驚きながら答える。眼鏡の魔道具を外して、発動も終わらせ机の上に置いておく。後でしまおう。


 部署長は皆を見回して言った。


「これから騎士団の巡回はさらに強化される。だが個人個人でも気をつけておけ。この事は各団体に周知された。直に王都民全てが知るだろう。変な輩にナンパをされた者が居れば申し出てくれ。騎士団に伝えておく。もう伝えている者はいい」


 部署長の言葉に皆が頷く。私はもう伝えているからいいだろう。


「では就業時間になったらよろしく頼む」


 そう言って部署長が席へと向かう。


 まだ就業時間まで少しある為、にわかに部署内がざわついた。

 何人かは部署長の元へ向かっている。きっとしつこいナンパにあった人達かもしれない。


 カリナが早足で私の元へと来る。


「ローリー、魔道具の眼鏡……この事知ってたからだったの……!?」


 心配そうに私に聞くカリナに眉を下げて笑う。


「うん、そうなの……。昨日アリオンと居る時に一緒にそんな情報を聞いたのよ。その時は青い瞳の事だけだったんだけど……他の珍しい色も狙われてたのね……。だから発覚が遅れたのかも……」


 さっきの推測を交えながら話すと心配そうな顔だ。

 しまった。笑って大丈夫だと言うべきだった。


「ローリー、一人で来たの……?」


 それに首を振る。


「ううん、ユーヴェンに迎えに来てもらったの。昨日アリオンが頼んでね。だから大丈夫よ」


 私がそう言うとカリナは顔を緩めた。


「そっか、よかったぁ……」


「ユリアさんやダリルさんも青い瞳に近いから気をつけてね……」


 私の言葉にカリナはコクリと頷く。


「うん、わかった。けど、ローリーは深い青色なんだからいっぱい気をつけないと駄目だよ」


「うん、わかってるわ」


 私の目をじっと見つめて言うカリナにしっかり首を縦に振る。

 それにカリナは安心したように微笑んだ。


 そこに部署の同僚が寄ってくる。


「ガールドさん、その魔道具って……」


 部署長に私が話し掛けられていたので気になったのだろう。


「あ、これは……」


 眼鏡を手に取りながら買ったお店や他に何があったのかを同僚と話している内に就業時間になった。


 ***


「昨日そんな事があったんだね……」


 お昼休み、お弁当をカリナと一緒に食べながら昨日聞いた情報を話す。

 カリナは不安そうに私を見た。


「昨日……ブライトさんとデートだったのに……大丈夫だったの?」


 たぶんそれはそのままデートができたのかと言う意味だろう。

 デートの事を思い出して、少し顔が赤く染まった。


「だ、大丈夫……。その……ちゃんと、その後も……デート、したわ……」


 思い出すだけで頬が緩んでしまう。


 カリナはとても楽しそうに微笑んだ。


「ふふ、とっても楽しいデートだったんだね」


 カリナの言葉に顔を真っ赤にしながらコクリと頷いた。


 お昼ご飯を食べ終わった所で話し掛けられる。


「あ、ガールドさん、ちょっと聞いてもいい?」


 魔道具部署の同僚と先輩達だ。以前アリオンに迎えに来てもらった時に、その事を楽しそうに尋ねてきた人達の内の三人だった。


「はい、大丈夫ですけど……」


 もしかしたら朝同僚が聞いてきたのと同じで魔道具の質問だろうか。

 そうだったら答えられる事は答えておきたい。


「あの、私は席を外しましょうか?」


 私が頷くとカリナがそう言う。けれど皆首を振った。


「大丈夫よ、メーベルさん。気になったこと聞くだけだから。あ……ガールドさんが答えたくなかったら答えなくてもいいからね」


 その言葉に目を瞬かせる。


 ――何の……話なのかしら……?


「あのね……私達は噂で聞いただけなんだけれど……」


「?」


「ガールドさん、朝……騎士団事務員の人と一緒に出仕してきたって……ほんと?」


 目を見開く。これは……ユーヴェンと二人で出仕したのが裏目に出ただろうか。

 たぶん噂が広がっているような気がする。少し面倒な事になっているのかもしれない。けれど安全の為だからやめることも無理だ。


 それでもわかってもらおうと口を開く。


「……本当です。あの……私……今日の朝、部署長が言っていた事を昨日直接聞いたんです。それを心配したアリオン……騎士の友人が、騎士団事務員の友人に送り迎えを頼んでくれて……だから、今日の朝一緒に来たんです」


 私がそう言うと三人は大袈裟に頷いた。


「そっか!そうよね!部署長が一人で出歩くなって言ってたもの!」


「事件のことを知ってたら、一人で出仕するの危ないものね、ガールドさん!」


「騎士の友人ってあの橙色に近い茶髪の男前の人でしょ?ガールドさんの事が心配だから、友人に送り迎えを頼むに決まってるわね!」


 大きめの声に驚きながら目をパチパチとさせる。


「えっと……はい……」


 すると今度は三人の内の一人が少し声を潜めて聞いてくる。


「あ……ガールドさん。……もしかして……昨日、騎士の人とデートしてたりしたの?」


「ちょっと、突っ込んで聞き過ぎよ」


 聞いた人は脇腹を小突かれていて、くすっと笑ってしまう。別に聞かれても嫌じゃない。


 たぶん噂を少しでも薄めようとしてくれている。大きな声で言ったのはその為だろう。

 私がアリオンの事を頬を赤く染めながら友人だと言ったから、こんな噂が流れるのはよくないと思ってくれたのかもしれない。


 いい職場で幸せだなと思いながら答える。


「ふふ、大丈夫です……。……その……昨日……き、騎士の友人と……デート、してました……」


 私が頰を染めながら言った言葉に、三人はとても嬉しそうに微笑んだ。


「そっか、そっかぁ」


「それはよかったわね」


「ふふ、いいじゃない」


 照れくさくて頬を掻く。


「あ……ありがとうございます……」


 私のお礼に三人は笑ってくれた。

 また、と挨拶を交わして三人は去っていったけれど、他にも問題はある。

 こんな噂はユーヴェンにもよくないだろうと考えてカリナを見た。

 カリナはむうっとした顔で何か考え込んでいる。

 

「カリナ……?」


 カリナの事だからくだらない噂に怒っているかもしれない。眉を下げながらカリナを見る。


 そうしているとカリナがガバッと顔を上げて私の肩を掴んだ。


「ローリー!今日から事件が解決するまでローリーの家に泊まらせて!」


「ええ!?」


 カリナの急な申し出に、目を丸くして素っ頓狂な声をあげた。


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