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余韻


 朝の光がカーテンをすり抜けて仄かに部屋を照らすのが、薄い視界の中でわかった。


 そっと目を開けて、まだ微睡んでいる瞳で時計を見る。

 まだ6時だ。仕事には早い。


 もぞりと動いてベッド脇のテーブルを覗く。


 そこにはアリオンにもらったガラス瓶の飴と、昨日もらったばかりのネックレスが置かれている。それと……アリオンには言えなかった、お揃いっぽいイヤリング。


 昨日はなんだか夢見心地のまま寝てしまったけれど、確かにある想い出に口元が緩む。昨日のアリオンとのデートを思い出して、きゅっとシーツを握った。


 ――すごく楽しかったわ……。次は……いつ、会えるのかしら……。


 きっと今日からは新しい情報で騎士団は大変だろう。たぶん暫く会えない。


 少し寂しくなるけれど、目を瞑って昨日の事を思い出す。

 するとなんだか言いようのない想いが湧いて、ベッドの中で身悶える。


 ――アリオン甘かった……!可愛かったしかっこよかったし……!


 思い出しただけでも全身が赤くなりそうだ。


 ――あ、アリオン抱き締めてくれるし、ひ、額にキス、とか……手にキス……とか……い、いっぱい……!


 心臓が激しく音を鳴らす。


 アリオンがコート越しじゃないと抱き締められないみたいな事を言っていたけど、それでよかったかもしれない。

 私も今思い出すとなぜあんなに近くにいられたか分からなくなってくる。


 ――あの時はアリオンの……近くにただ……いたい、だけだったのに……。


 アリオンの唇の感触だって覚えてしまった。


 枕に顔を伏せる。


 ――慣れないとって思ってたけど……なんか……あれ……な、慣れるのかしら……!?


 いくらされてもドキドキしてしまう。


 ――アリオンとキス……。……付き合ったら……。


 ふにっと自分の指で唇を抑える。


 アリオンの綺麗な顔が近づいて……アリオンの唇が……私の唇に重なって……。


 バタバタと足を動かす。頭がのぼせそうだ。


 ――ま、まだ考えるのは早いわ……!


 ぎゅっと足を抱き締めて、ちらりと自分の体を見る。


 ――……アリオンって……抱き締めてくれてる時……どう……思っていたのかしら……。


 私はアリオンに抱き締められると逞しくて安心して心地良いなんて思っていたけど……アリオンも私を抱き締めている時は……何か思っていたのだろうか。


 ――…………よく抱き締めてくれたし……悪くは……思ってないわよね……。できれば心地良いって思ってくれてたら……。


 そう考えてしまって顔を両手で覆う。


 ――何考えてるの!私ってば!


 ベッドの上をゴロゴロと転がる。


 ――す、スカーレットが好きになってきたらそういうものって言ってたけど……ほんとに!?


 なんだか考え過ぎている気がする。


 ――あ、アリオン考えちゃうって……い、言ってたし……。……つ、付き合い始めたら……アリオンの大きい手で……ふ、触れられ……。


 ボンッと顔に熱が上る。


 私は何を考えているのだろう。先にアリオンをちゃんと好きになる事を考えなければ。


 とりあえず早いけれど仕事へ行く準備をしよう。


 ガバッと起き上がって熱さを冷ますために顔を洗いにいった。


 ***


 朝ご飯も食べて準備もし終わった。後はユーヴェンが迎えに来るのを待つだけだ。


 制服の下に着けたネックレスを軽く握る。


 あると思うだけで心強い。


 ――またデートの時は見えるように着けましょ。


 今から次のデートの事を考えるだけでワクワクする。


 けれど……その前に事件が解決しなければいけないだろう。それにふうっと息を吐いた。


 ――星祭りまでに……解決して欲しいわ……。


 そうしたら……憂いなく、アリオンとデートができる。

 その時にはちゃんと昨日買ったイヤリングも着けていこうと考えていると、チリンと玄関のベルが鳴った。


 確認すると金の髪に榛色の目、ユーヴェンだ。


 魔道具の眼鏡をかけて色替え魔法を発動させると、鞄を持って玄関へ向かった。扉を開けるとユーヴェンが立っている。少し心配そうな顔だ。


「おはよう、ユーヴェン」


 挨拶をすると眉を下げた顔で聞いてくる。


「おはよう、ローリー。大丈夫か?」


 心配するユーヴェンに笑って答える。

 

「大丈夫よ。今の所何にもないもの。それにユーヴェンが送り迎えしてくれるんでしょ?それ以外で勝手に出掛けたりしないわ。色変え魔法も使ってるし」


 そう言って眼鏡の魔道具を見せるように少しだけ持ち上げた。

 魔道具店で買った魔道具なので、色を変えていてもかなり自然に見えるように調整されている。眼鏡型だけれど、横から見ても問題ない。


 ユーヴェンは私の様子に安心したように笑った。


「まあ、そうだな。ローリー心配だし、解決するまでは毎日送り迎えするよ。アリオンにも頼まれてるからな」


 そう言うユーヴェンをじっと見る。


 ユーヴェンへの気持ちを吹っ切ったと思ってから、初めて会う。

 つい見つめてしまうけれど、そこにあるのは……何かを終えた後の残滓のような、優しい気持ち。


 ユーヴェンは私の視線に不思議そうにしながら言ってくる。


「どうした、ローリー?とりあえず行こうぜ。なんかあるなら歩きながら聞くけど」


 その言葉に笑いながら首を振って歩き出す。


「なんでもないわ。ほら行きましょ、ユーヴェン」


 清々しい気持ちで朝の冷えた空気を吸い込んだ。


 あの切なくて焦がれる焦燥感も傷みも、今はユーヴェンに対して感じなかった。


 ――この前一緒に帰った時でさえ……アリオンの話をユーヴェンにたくさんしちゃってたものね。


 胸が跳ねたと思ったけれど……あれは、本当にそうだったのだろうか。


 ――……こそこそ隠れてたからびっくりしただけなような気もするわ。


 だって……アリオンには、会えると思っただけで口元が緩んだのだから。


「なあ、ローリー。昨日さ……」


 ユーヴェンが話し掛けてきて途中でピタッと止まる。

 なんだか無理をして黙っているような顔だ。


 ――そういえば……アリオンが私に聞くなって言ったって言ってたわね……。


 確実にそれだろう。私にアリオンの事を聞きたいのに黙っているのだ。

 その証拠に聞きたそうにしながらちらちら私を見てくる。


 ……その視線がうるさい。

 けれど今は……ちょっと言う気になれないので、別の話を持ち掛ける。


 ――朝……昨日の事詳しく思い出し過ぎたわ……!


 今言ったらすごく赤面してしまいそうだ。せめてカリナがいる時に言いたい。

 アリオンの話をするとなったら恥ずかしくなってしまいそうなので、カリナに頼りながら話したい。ユーヴェンに真っ直ぐ聞かれるばかりしていたら、すぐに逃げ出してしまいそうだ。


 とりあえず今日の事を持ち掛ける。


「ユーヴェン、あんた今日晩御飯食べていきなさいよ」


「え?」


 ユーヴェンが驚いたように目を見開くのを見て思い当たる。

 そういえばカリナと一緒に帰る事は黙っていた。


「…………俺……それしたらアリオンにすっげえ恨まれそうなんだけど……」


 ユーヴェンは顔を引き攣らせて言う。


 その言葉に、ユーヴェンもアリオンの気持ちをしっかりわかっているという事実を思い知ってしまって人知れず心にダメージを負う。


「ユーヴェンも知ってる人も一緒に食べるのよ!まあ送り迎えしてくれる御礼だとでも思っときなさい。あと昨日の内にアリオンには言ってるから怒られないわよ!」


 それだけではないけれど。カリナの為でもある。


「へえー、誰だ?」


 軽く聞いてくるのでふっと笑う。


「今は内緒よ。あんたも知ってる人」


 ユーヴェンはパチパチと目を瞬いてから頷く。


「わかった。楽しみにしてるよ」


 こうやって素直なのはユーヴェンの良い所だ。


「ええ。それで早速だけど頼みがあるのよ」


 ユーヴェンにアリオンと兄を監視してもらわなければいけないので頼んでみる。


 ユーヴェンは困ったように笑った。


「……ローリー、もしかしてそれのお礼も既に含まれてる?」


「ふふ、よろしく」


 ユーヴェンの言葉ににっこりと頷いた。



遅くなりましたが更新しました。

最近更新が遅くなる事が多くて申し訳ないです。

これからも頑張りますので、読んで下さると嬉しいです。

よろしくお願いします。


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