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素直じゃない言葉


 エーフィちゃんとフェリシアさんに抱き着かれていると、アリオンとフォルドさんが戻ってきた。


「何してんだ……エーフィも姉さんも……」


 私達の状態を見てアリオンは少し呆れたように言った。


「ローリーちゃんを愛でてる」


「うん!ローリーちゃん可愛いんだもん」


 姉妹の二人からそう言われて顔を赤くする。


「そりゃローリーは可愛いけどな。あー……でもそろそろ帰らねぇと。遅くなっちまうのはな……」


 ふいっと視線を逸らすアリオンに、きっと早く晩御飯を食べたいと思ってくれているかもしれないと思うと胸がぎゅっとなりながら頷く。


「あ、うん」


「そっか、そうだね」


「そうね」


 エーフィちゃんとフェリシアさんもそう言いながら離れてくれた。


 ――……みんなにアリオンとの事、知られてるの……やっぱり恥ずかしいわね……!


 顔を赤くしながら帰る準備を整えると、玄関先までみんなで見送ってくれる。


「ふふ、また来てね」


「うん、楽しみにしてるね」


 フェリシアさんとエーフィちゃんがウインクをしながらそう言ってくれる。きっと剣帯の事も言っているのだろう。

 それに笑みを漏らしながらコクリと頷いた。


 フェリシアさんはそんな私に優しく笑んでから、アリオンに話し掛けた。


「……アリオン」


 名前を呼んでちょいちょいとフェリシアさんが手招きをする。


「何だ?」


 アリオンがフェリシアさんの傍による。内緒話のようだから、エーフィちゃんやフォルドさんと話をしようと向き直った。


「あんた、ローリーちゃんと家に二人きりだからってやらしいこと」


「んなんやるわけねぇだろ!この馬鹿姉!」


「なによ、人の忠告を!私はローリーちゃんが大事だから言ってるのよ!?」


「少しぐらい自分の弟を信用しろ!」


「あんなに可愛いローリーちゃんの前であんたを信用なんてできないわよ!」


「ろ、ローリーが可愛いのは同意するが……流石に、付き合う前から……変な事しねぇから……」


「その恥ずかしがってんのが怪しいのよ!」


「姉さんが変な事言うからだろ!」


「…………あんたって……もしかしなくともかなりじゅんじょ」


「姉さんもう黙っとけ!ほら、もう帰るから!」


 少し言い合うようにこそこそとフェリシアさんと話していたアリオンがこちらに来る。

 フェリシアさんも溜め息を吐きながら来た。


「もー、仕方ないわね。今巡回強化してるんでしょ?あんたは大丈夫なの?」


 フェリシアさんの心配の声に頷きながら答える。


「俺は巡回強化に動員されてる。騎士団には優秀な方達が多くいるから大丈夫だ」


 アリオンがすぐに返した言葉に、フェリシアさん、エーフィちゃん、フォルドさんも心配そうに眉を寄せた。

 けれど一瞬した心配そうな顔を伏せて、フェリシアさんは緩く微笑みながら言う。


「そう……気をつけなさいよ」


「お兄ちゃん、気をつけてね……」


 エーフィちゃんはきゅっと眉毛を上げて強がった顔をしていた。


 やっぱり家族だから、心配な気持ちが湧くだろう。


 ――本当に、偶然会えてよかったわ……。


 知らないは……知らないで、悲しくなってしまうだろうから。


「わかってる。姉さんとエーフィも気をつけろよ。ヴァンおじさんとガイア兄さんにも言ってるから、何かあったら言っとけ」


 アリオンがそう言うと、フェリシアさんが眉を寄せて嫌そうな顔をした。


「……ちっ、最近ガイアがよく訪ねてくると思ったらそれね……!ヴァンおじさんはいいけど、ガイアはやめなさいよ、あんた!」


 舌打ちしながら言ったフェリシアさんに、私は目をパチパチさせた。

 目が合ったエーフィちゃんは苦笑いをしている。


 アリオンは呆れたように言った。


「姉さん、まだ根に持ってんのか……?」


「私の可愛い親友を奪ったあの男をそうそう許せる訳無いでしょ!?」


 そう言ったフェリシアさんにハッとする。そういえば昔、フェリシアさんがガイアさんに怒っていた。

 学園の頃に知り合った、とても仲の良い親友とも言える子と付き合い始めたと。可愛い子なのに、誑かして……!!と言っていたと思う。


 ……けれど確か……だいぶ前だったような、気がする。


 アリオンはジト目でフェリシアさんを見ながら言った。


「……もう四年は経って……」


「はあ!?何か言った!?」


 フェリシアさんがアリオンを睨みつけながら怒る。アリオンはその剣幕に顔を背けた。


 ……やはりけっこう前だった。


「…………姉さんって俺の事言えねぇと思うんだけど……」


 アリオンが辟易した感じで言うと、フェリシアさんはピシャリと告げる。


「あんたは家族!私は親友!親友の私が許さなくっても問題ないの!でも家族は許してくれないと困るでしょ!」


 一理あるような気もするけれど、親友にも許された方が嬉しいとは思う。言えないけれど。


 アリオンは口を曲げながら呟いた。


「……屁理屈……」


「うるさいわよ、アリオン!」


 一喝したフェリシアさんに、アリオンは軽く溜め息を吐いた。


「へいへい。でも、今日市井の人からの情報で青い瞳を狙う犯罪者が入り込んでいる可能性が出た。だから嫌だろうがなんだろうが受け入れてくれ」


 アリオンの言った言葉にみんな目を見開く。


「それ!!ローリーちゃんが一番危ないじゃない!」


 途端に心配そうに見るフェリシアさんに、大丈夫だとわかってもらえるように笑う。


「ローリーはユーヴェンに送り迎え頼んである。ローリーだってわかってるからむやみに出掛けたりしねぇよ」


 アリオンが言った言葉に続くように私からも告げる。


「ええ、大丈夫です。私もちゃんと気をつけます。だから、フェリシアさんもエーフィちゃんも、リリアさんも気をつけて下さい」


 フェリシアさんとエーフィちゃんは眉を下げながら私を見た。


「ローリーちゃん……」


「だから今日色変え魔法使ってたんだね……」


 エーフィちゃんの言葉に頷きながら苦笑した。


「まあな……。でも今の所聞いたその情報だけだ。もしかしたら他にも狙われているかもしれねぇから、油断すんなよ」


 アリオンがそう言うと、フェリシアさんがしっかりと頷く。


「わかっているわ」


「うん、私も気をつけるね!」


 真面目な顔で頷いたエーフィちゃんに、アリオンは顔を緩めた。


「おう。いい子だ、エーフィ」


 そう言いながらエーフィちゃんの頭を撫でるアリオン。


「えへへ」


 エーフィちゃんも嬉しそうに笑っている微笑ましい光景に、私も顔が緩んだ。


 エーフィちゃんの髪を撫で終えて髪を梳くアリオンに、きっとエーフィちゃんやフェリシアさんの髪をいつも結っていたからこその癖なのかもしれないと思い当たる。


 ――……なんか、今日だけでも……色んなアリオンを知れて嬉しいわ……。


 そんな事を思って笑みを漏らしていると、フォルドさんがアリオンに真剣な顔で向き直った。


「アリオンくん、僕も頼りないかもしれないけど、僕にとっても大切な君の家族を守るよ」


 そう言ったフォルドさんを、アリオンは厳しい顔で見て……口を開く。


「…………ちゃんと守り切ってくれないと許さないですから、スタンさん」


 言うと同時に後ろを向く。後ろにいた私にはアリオンのぶすーっとした顔は丸見えだ。


 フォルドさんはアリオンにそう言われた事に顔を明るくして、力強く頷いた。


「ああ!!」


 その言葉を聞くと同時に叫ぶ。


「じゃあローリー行くぞ!」


「ふふ、うん」


 思わず笑いながら頷くと、アリオンは玄関の扉を開けた。

 そんなアリオンに、フェリシアさんが声を掛ける。


「ちゃんと無事に終わったら、すぐに帰ってきなさいよ。ローリーちゃんもまた、待ってるわね」


 その言葉にアリオンが振り向く。


「お兄ちゃん待ってるからね!ローリーちゃんも!」


 フェリシアさんとエーフィちゃんからの私への言葉に頷いて返事をする。


「アリオンくん、また。ガールドさんも機会があったら」


 フォルドさんの言葉に、頭を下げながら返事をする。


「はい、また」


 アリオンもフェリシアさん達の方を向いて返事をした。


「すぐに帰るようにするよ。ローリーも連れてくる。…………スタンさんも、機会があったらまた」


 最後はぽそっと言う。フォルドさんは嬉しそうに頷いていた。


「アリオンってば……!仕方ないわね……」


 微妙な言い方だったからか、フェリシアさんは溜め息を吐いていた。


「へいへい。ま、母さんにもよろしく」


 アリオンは軽く返事をしながらそう言った。


「わかっているわ」


 フェリシアさんが頷いたのを見ると、私の手を繋いでから外に出る。少し顔が赤くなってしまった。


「じゃあね、ローリーちゃん、お兄ちゃん!」


 エーフィちゃんが元気な別れの挨拶にアリオンと私は手を振って返して、アリオンの実家を後にした。


「ふふふ」


「何笑ってんだよ、ローリー」


 思わず笑みを漏らしていると、アリオンに突っ込まれる。


「アリオン、フォルドさんに守り切らないと許さないって言ってたけど……ビンスさんの所で市民に被害は出させないって宣言してたから、守り切るのは当たり前じゃない。騎士団の存在意義って言ってたもん」


 だからあれは、アリオンなりに許すと言ったも同然だ。一般市民に被害を出すなど騎士団は許さない。

 しかもちゃんと名前まで呼んでいたのでバレバレだった。


 アリオンが睨んでくるのでにっと笑ってやる。


「ローリー、そういうのは気づかなくていいんだよ!」


「ふふふ、アリオンいい子」


 笑いながらそう言うと、アリオンは顔を逸らす。


「やめろ、バカローリー」


 耳が赤いので私に意図がバレて恥ずかしがっている。


「照れてるわね、アリオン」


「うっせぇ……」


 憎まれ口を叩くアリオンを、可愛く思う。


「ふふふ」


「ふん」


 私の止まらない笑いに、アリオンが不貞腐れたようにそっぽを向いた。

 それでも、手は優しく握ってくれている。


 夕暮れの魔導灯が灯り始めた街中を、アリオンと手を繋いだまま歩いた。


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