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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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頬が緩む贈り物


「ローリー、魔術式頼むな。お前が入れてくれるなら、俺のより丁寧だろうし。あ、俺が思ってたより数増えてんだから、無理はすんなよ」


 アリオンが脱線していた話を戻すようにそう言った。

 話しているとつい脱線して色んな話をしてしまうのは、アリオンとの日常だ。


 私は息を吸ってから頷く。


「わかってるわ」


 私は元から四つ魔術式を入れるつもりだったから大丈夫だ。


「ん」


 頷いたアリオンに微笑んでから、術式を描き始めた。


 三組の魔導グローブの魔石にそれぞれ術式を入れ終えて、息を吐く。


「ふう……これでどうかしら?」


 そう言ってアリオンに笑って渡す。綺麗に描いて入れられたと思う。

 アリオンも微笑み返して受け取ってくれた。


「ん、流石ローリー。綺麗な魔術式だな」


 入っている魔術式を見て優しく目を細めながら言ってくれるので安心する。


 ――しっかり丁寧に描いたかいがあったわ……。


「うん。アリオン、使ってみて大丈夫か教えて?」


 丁寧さではなく使い心地も重要だ。もし駄目そうなら入れ直さないといけない。


 ――アリオンって大雑把過ぎるから……丁寧過ぎて駄目とかあるかも……。


「あ、おう。使ってみるよ」


 アリオンは魔導グローブを着けながら立ち上がる。


「お、やっぱり丁寧だから魔力行き渡りやすいな」


 一つ一つの術式を発動させながら、そう言ってくれるアリオンに安心する。


「大丈夫?アリオン、使いにくくはない?」


 アリオンにそう話し掛けると、私の方を振り向いて笑った。


「いや、使いやすい。すぐに慣れそうだ」


「ならよかった」


 アリオンの言葉に安堵する。

 ほっとすると、少しだけ目が眩んだ。


 ――丁寧に描こうと思って、ゆっくり描き過ぎたかしら……。


 魔力を想定より使ってしまったらしい。けれどこれくらいなら、このまま少し休んでいれば回復するだろう。


「ありがとな、ローリー。魔力は?」


 アリオンが魔導グローブを外しながら隣に座って聞いてくる。


「ふふ、平気……」


 ついパッと笑ってそう言うと、アリオンは私の顔を覗き込んで眉を寄せた。


「……予備の分までの三組分も入れてくれたから、少し辛そうだぞ。手、貸せ」


 やっぱりアリオンは誤魔化せないらしい。眉を下げながら大人しく手を差し出す。

 アリオンは私の手を握ると、すぐに術式を描いて魔法を発動させる。握っていた右手を、アリオンは優しく両手で包んだ。


 アリオンの大きな手から、暖かくて優しい魔力が流れてくる。ほわほわと体も暖かくなった。


「ん……」


 魔力が満たされていくと、少しだけ眩んでいた視界が元に戻る。


「ったく、無理すんなって言ったのに」


 眉を寄せたまま不貞腐れたように言うアリオンに、申し訳なく思いながら謝る。


「う……ありがと、アリオン……。目の色も変えてくれてるのに」


「俺は魔力量多いのが特技みたいなもんだからいいんだよ」


 すかさずそう返すアリオンにふっと笑ってしまう。


「うん……」


 アリオンの暖かい魔力を感じていると、大きな溜め息を吐かれた。


「はあ……ローリー、俺昨日注意したばっかだぞ……もうちょっと魔力分配ちゃんとしろ」


 案の定小言を言われるので目を逸らす。


「うう……大丈夫だと思ったのよ……」


 私の言葉にずいっとアリオンが私の目を覗き込んできた。


「それだよ、それ。よく言うけどな、無理し過ぎなんだよ。頑張ってくれるのは嬉しいけど、あんまり無理すんな」


 心配そうに揺れる灰褐色の瞳に肩を縮こませた。

 つい癖で平気だと答えてしまったけれど、やっぱり素直に言うべきだったらしい。


「うん……わかった……」


 反省しながら答えると、コツンと額を当てられた。

 優しい灰褐色の瞳が目の前にある。胸がきゅうっと締め付けられた。


「……また無理しそうだけどな、お前。伝達魔法送れるくらいは残しとけよ。伝達魔法来たらすぐに駆け付けっから」


「うん……」


 優しいアリオンの言葉に頷くと、額を離される。もう少し近づいたままでもよかったと思ってしまった。


 すぐに駆け付けると言ってくれるアリオンは、心強い。


「ん……戻ったか?」


 アリオンが魔法発動が終わったのを見て言う。


 魔力はほぼ満杯まで戻っている。流石アリオンだ。


「大丈夫。ありがと」


 魔力を目一杯渡してくれたアリオンに私は微笑んだ。


「少し休むか」


 アリオンは微笑み返しながら、繋いでいた手を優しく撫でる。そのまま手を握り込んでくれた。


 その仕草に笑みを漏らしながら、アリオンを見上げて言う。


「うん……まだアリオンの欲しいもの買ってないから、考えてね?」


「わかってるよ」


 アリオンと繋いでいる手をぎゅっと私からも握り返しながら、問い掛ける。


「ね、寄り掛かっていい?」


「いいよ」


 すぐに頷いてくれるアリオンに嬉しくなりながら、アリオンの腕に寄り掛かる。

 アリオンの逞しい腕は、安心する。


「ふふ」


 思わず笑みを零すと、上からポツリと声が降ってきた。


「……可愛い……」


「!あ、アリオン……」


 降ってきた声にすぐアリオンの顔を見る。すると、愛し気に緩んだ笑みを浮かべていた。

 心臓が跳ねる。


「ローリー、可愛いよ」


 低くて心地良い声で言うアリオンに、思わず悪態をつく。


「アリオンのバカ……」


 アリオンは私の返しにくつくつと笑いながら、繋いでいた手の指をするりと絡めた。

 アリオンの骨張った指が私の指をすりっと優しく撫でる。


 その仕草に恥ずかしさを覚えながらも、アリオンをもっと感じたくてアリオンの腕に擦り寄った。


「ん、休めよ」


 そう柔らかく言ってくれたアリオンに、覚悟を決める。アリオンの腕に寄り掛かりながら絡んだ手をぎゅっとした。


「うん……アリオン、あのね」


 紙袋の中でプレゼント包装された物を掴む。


「どうした?」


 いつもように優しく返したアリオンに胸を高鳴らせながら差し出した。


「あの……これ、あげる」


 アリオンは目を瞬かせながら私が差し出した物を受け取る。


「なんだ?」


「プレゼント……したく、なったの」


 驚いたアリオンにそう言うと、嬉しそうに目を細めた。

 絡めた手を一度優しく撫でてからほどくと、丁寧に頭を撫でる。


「ありがとな。……開けていいか?」


 アリオンの溢れたような笑みに、そわそわしながら頷く。


「うん」


 喜んでくれるだろうかと期待と不安が入り交じる中、アリオンがプレゼント包装を解いていく。

 

 ――よ、喜んでくれるとは思うけど……やっぱり緊張する……!


 包装を解き終わったアリオンは、ペンダントが入った箱を取り出して開けた。


「!これ……!」


 箱を開いたと同時に灰褐色の目を見開いた。そしてバッと私を見てくる。


 そこにあるのは先程買った青の魔石がついたペンダントだ。


 少し恥ずかしくなりながら、アリオンに話す。


「アリオン、見てたでしょ?」


 私の言葉に少し詰まって、首を掻く。


「買って……くれてたのか」


 改めてペンダントを見たアリオンの嬉しそうな顔を見ながら、私は告げた。


「うん、だって……私の、瞳の色……でしょ?」


「!!」


 また私を見て顔を赤く染めるアリオンに顔が緩む。


 ――やっぱり、私の瞳の色だと思って見てくれてた……。


「う、嬉しかったから……」


 はにかみながら答えると、アリオンも優しく顔を緩めた。


「おう……。お前の瞳の色に似てるなって思ってたんだ。だから、見ちまった」


 頬を赤く染めて微笑むアリオンに、心臓が跳ねる。


 そんなアリオンに説明をする為に、ペンダントに触れて話し始める。


「あのね、これ……こうするとペンダントトップ外れるの。それで懐中時計用のこのチェーンにつけられるの」


 箱の中に一緒に入れてくれていた懐中時計用のチェーンを持って、一度つけて見せる。


「ほんとだな」


 物珍し気に見ているアリオンに、恥ずかしくて視線を落としながら言う。


「あの、だから……いつも、身に付けられるかなって……」


 アリオンがこちらを向いたのが分かった。


「その、いつも身に付けててくれると嬉しいなって」


 ペンダントトップをペンダントに戻しながら言う。

 戻し終わるとアリオンが私の頬に優しく触れた。


 その仕草にパッと顔を上げる。


「ローリー」


 柔らかく笑んで私を呼ぶアリオンに、心臓が早鐘を打つ。灰褐色の瞳が優しく私を見つめている事に堪らなくなって、唇に力を入れる。


「すげえ……嬉しい。いつも身につけておくな」


 アリオンの言葉に満面の笑みが溢れた。


「うん」


 ――アリオン、喜んでくれた……。


 嬉しさに顔を際限なく緩ませる。


 アリオンはペンダントを箱から取り出して、顔の位置でペンダントの魔石をじっと見て言う。


「これ、魔力も入れてくれたんだな」


 はにかみながら言うアリオンに微笑みながら頷く。


「うん、入るって言ってたから……」


 アリオンは私を振り向いて見つめながらにっこりと笑った。


「嬉しい…………が」


 ペンダントを持った反対の手で頬を挟まれる。アリオンの指が頬に沈んだ。


「ひゃ、ひゃににょ!?」


 こうされた原因は理解していたけれど、思わずそう声が出る。


 アリオンはにっこりとした笑みのまま、私の頬をふにふにと指で押す。


「これ、結構魔力入ってるんだが?ローリー?」


「ふみゅ……」


 笑っているのに笑っていない笑顔のアリオンに、呻きながら目をゆっくりと逸らした。


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