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懐かしい思い出


 身体強化系は全て駄目だ。敏捷の術式と干渉する。

 風の術式が入っているので、他の現象魔法も入れない方がいいだろう。干渉する可能性が高い。

 それなら……。


「アリオン、治癒の術式は?すぐに治癒できるの便利なんじゃない?」


 アリオンは目をパチパチとさせた。


「ああ……確かにそうかもな。今の術式には干渉しねぇし、治癒の術式なら慣れてるから使いやすいか……」


 顎に手を当てたアリオンを見ながら、ハッと昨日の事を思い出す。


「あ……でも、治癒魔法前に透過魔法使うものね……。意味ないかしら……」


 騎士の仕事では怪我もあるだろうからすぐに治癒できるのは便利かと思ったけれど、透過魔法を使うのだからそこまで意味がないかもしれない。


「いや、透過魔法の方がすぐ描けるし、治癒魔法を間違える事がなくて便利かもしれねえ……」


 アリオンの言葉に目を丸くする。


「え、間違えるの?」


 アリオンにそんなイメージがなくて驚く。


 ハッとした感じのアリオンは首を掻きながら顔を背けた。間違える事を言ってしまったのが恥ずかしかったのだろうか。


「あ……いや……術式……描いた時に……ちょっと……間違えることが……」


 少ししどろもどろだ。


 ――そんなに恥ずかしがらなくていいのに……。


「そうなんだ。アリオンでも焦っちゃうのね……」


 きっと焦って間違えてしまうんだろうと思ってそう言うと、アリオンは苦く笑った。


「あー……はは……」


 そんなアリオンに確認しておく。


「なら、治癒の術式入れとく?」


「おう、そうしとく」


 頷いたアリオンに微笑みながら、アリオンの治癒魔法を思い出す。


「アリオンって伝達魔法とかは大雑把なのに、治癒魔法はすごく緻密に治すわよね。エーフィちゃんの怪我治す為だったの?」


「まあ、覚え始めたのはそうだな。エーフィが昔はよく転んでたから、頑張って覚えたんだよ。俺魔力量多いから、大抵の怪我なら治せたしな。それに母さんは医師だから、緻密に治さねえと怒られるし……」


 最後の方は少し無表情になったので、思わず笑ってしまう。

 リリアさんのスパルタを思い出したのだろうか。


「ふふ。流石アリオンだわ。学園時代もよくみんなあんたの所に怪我したって来てたものね」


 そう言うと大きく溜め息を吐く。


「あいつらは俺をなんだと思ってたんだか……。保健室に普通に行きゃいいのに……」


「アリオンなら怒られる心配ないからでしょ」


「……まあ保健室の先生、いらねぇ怪我には厳しかったからな……」


 学園時代の出来事を思い出して思わず笑う。

 アリオンの所に怪我したなんて言ってくる時は大抵危険な遊びをした後だ。

 保健室に行ったら怒られるのも当たり前だろう。


 そうして学園時代の事を考えていると、パッと思い出す。


「……そういえば……そうした治癒魔法かけてる時に、治したはずの男子が妙に痛がってたりしてる事が何回か……。そういう時は、なんかあんた……間違えたわ、悪いって言ってたけど……その時も術式描き間違えてたの?」


 アリオンがバツが悪そうにしながら頷く。


「あー……おう……」


「じゃあ治ってなかったから痛がってたのね……。普通に魔法発動してるように見えたのに……。しかもアリオン、すごく軽く言ってたから……」


 特に悪いとも思ってなさそうな感じで謝っていたので、まさか術式を間違えているとは思わなかった。


 ――でもその後……魔法……かけ直したりしてなかったような……?


 痛がったまま放置されていたような気がする。だから治ってないとは思ってなかったのだ。


 ――もしかして治す必要もない軽傷だったのかしら……。


 それなら放置されても不思議はない気がする。


 アリオンが顔を逸らしながら、渇いた声で言う。


「いやー……あいつらだから、適当でいいだろって……思っててな。ははは……。やっぱ治癒の術式だな、入れんの……」


 アリオンの言い分もわかる。遊びで怪我してアリオンに治してくれと毎回のように言ってくるのだ。対応も適当になるだろう。


 ――あ、そんな風に術式間違えちゃったりとか適当に治癒魔法かけてたのリリアさんに知られたらマズイから言いにくそうだったのかしら!


 そうかもしれない。これはちゃんと黙っておこう。

 リリアさんは怒ると怖いとアリオンが言っていた。

 いつも治癒魔法を教えてもらった話をする時は青褪めているか無表情なのだ。


 ――大体クラスの馬鹿相手に適当になるのわかるし……!


 アリオンが落ち着かないように目を彷徨わせているのが少しおかしくて、笑いが零れてしまった。


「ふふ、そうね。まあ、遊びで怪我してるんだもの。適当にもなるわよね。あいつら保健室にも怖いからって行かないし。でもそんな事してるのバレてて、保健室の先生にあんた勧誘されてたわよね」


 学園の六年次に上がった時期に、私とアリオンとユーヴェンが担任の先生に言われて保健室に届け物をした。

 その時にアリオンは保健室の先生に勧誘されていたのだ。


 アリオンも思い出したのか、ふっと笑った。


「されたな……。俺騎士になりたかったから断ったけど」


 ふふっと笑いながら、懐かしい記憶を話す。


「ずっと体鍛えてたものね。お兄ちゃんにも時々聞いてたし」


 私の家で遊ぶ時はいつも兄が居た。というより兄がいる時じゃないと、アリオンやユーヴェンを家に呼ぶのは許されていなかった。

 母や父が居ても駄目と言うのだから、兄の過保護は相当だったと思う。


 ――アリオンやユーヴェンの家に遊びに行くって言った時はなんだか頭を抱えてたわね……。


 ユーヴェンの弟くん達やエーフィちゃんやフェリシアさんに会いたくて行くんだからいいでしょ、と言ったら許してもらえたけれど……それ以外の理由で行く事はほとんどなかった。

 勉強会とかは私の家でするか学園でしていたからだ。流石にエーフィちゃんやユーヴェンの弟くん達がいると、つい一緒に遊んでしまうから勉強できない。主に私が。

 アリオンとユーヴェンはその状態に慣れていて、勉強しながら遊んだり適当にあしらったり……アリオンはエーフィちゃんを適当にあしらう事は決してなかったけれど……。

 でも下に兄弟がおらずそういう状態に慣れていない私は、ついしっかり向き合って遊んでしまうのだ。私の勉強が全く進まないので、勉強会は私の家か学園でするようになった。

 なんだかんだで兄もちゃんと勉強を見てくれるから、私の家での勉強会は結構定番になっていた。


 ――お兄ちゃん、アリオンやユーヴェンが勉強の事を聞いても、苦々しい顔しながらもちゃんと教えてくれるんだもの……。


 だからかアリオンも兄に騎士になりたいからと色々と聞いていたのだ。

 でも兄は基本的に無表情か苦々しい顔をしていたので、今あんなにアリオンと仲が良くなっているとは思っていなかった。


 アリオンはその頃を思い出したのか、楽しそうに笑った。


「だったな。でもさ、どう鍛えたらいいか聞いて教えてもらった鍛錬をやった後にリックさんに報告したら、あれ三倍の量だったって言われてびっくりしたんだよ」


「え!?お兄ちゃんそんな事してたの!?」


 アリオンの発言に目を見開く。


 ――お兄ちゃんってば何してるのよ……!


 むっとして頬を膨らます。


「つっても、初心者向け鍛錬の三倍だからな。リックさんはもっとやってたぞ」


「でも……」


 納得いかなくて眉を寄せた私を見て、アリオンが優しく頭を叩いてくれる。

 そのアリオンの行動で、怒っていた気持ちまで少し落ち着くのはよろしくない気がしてきた。


「いいんだよ、役に立ってんだから。そこからだんだんと増やされていったなぁ……」


「減らされたんじゃなくて増やされたの……?」


 アリオンの少し嬉しそうに懐かしむ顔がよくわからなくて怪訝な顔をしてしまう。


「ん?そりゃ鍛えた分、量も増えるだろ」


 アリオンは私の怪訝な顔を不思議そうに見ながら当たり前のように答える。


 そんなアリオンを見て、私は深く納得した。


「……アリオンとお兄ちゃんが仲が良い理由がわかった気がする……」


 ――お兄ちゃんとアリオンって……同類だわ、色んな部分で……。


 諦観を含んだ声で言うと、アリオンは首を傾げた。


「そうか?」


 たぶんお兄ちゃんだって言われた通り愚直に鍛錬をしたり稽古についてくるアリオンが可愛いのだ。

 絶対に素直に口には出さないだろうけど。


 そう考えるとおかしくなって、思わず笑みを漏らしながら頷いた。


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