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悩んだ理由


 私が握った手を優しく握り返したアリオンは、顔を赤くしたまま柔らかく笑ってくれる。


「……なら、魔導グローブも買うから……魔術式、入れてくれ……俺がいつも入れてる魔術式……教えるから」


「!!」


 アリオンが言ってくれた言葉に心が期待に満ちて、顔を輝かせながらアリオンを見た。


 私達の国は魔石の産出国の為に市場に多くの魔石が出回っている。様々な需要があるので何も術式が入っていない魔石を付けた品もあり、学園では魔石に入れる用の術式も習って自分で簡易的な魔道具を作れるように教育を受けた。

 ただあくまで簡易的な物だ。魔道具店で並ぶ魔道具とはやはり質の差がある。魔道具師はとても細かく術式を入れられるが、一般の人では一般化されている魔石用の術式を入れるので精一杯だ。


 魔導グローブというのは魔石を何個か付けたもので、騎士や警備隊、冒険者や魔術師等、戦闘職の自己強化に使われている。グローブは消耗も激しいので、自分で入れられる魔石の付いた魔導グローブを使う人が多く、それでいて自分好みの術式を任意に入れられるから人気になっている。

 それに魔導グローブには戦闘用の魔術式を何個も入れることが多いので、一つ一つを魔道具店で入れると高くなってしまう。

 だから平民の間では魔石付きの魔導グローブを買って自分で術式を入れる事が主流だ。


 そして自分を護ったりする魔石に術式を入れるのは信頼できる関係でないと入れられない。だから恋人や家族が入れるようになっている。

 剣帯より手軽だし、丁寧に術式を入れれば相手を護る事に繋がるのでそれをする恋人も多いとは聞く。


「これも……恋人とか、家族がやる、ことだろ?」


 はにかみながら笑ったアリオンに顔を綻ばせる。


「うん……!じゃあ魔導グローブと剣帯も買うわね!」


 元気よく頷くとアリオンが少し止まった。


「え……」


 理解できないような顔をしているので、ジト目で詰め寄る。


「全部奢りって言ったわよ?」


 アリオンは困惑顔だ。


「ええ……。いや、消耗品だしな?結構値が張るしな?しかもリックさんの剣帯も買うつもりなんだろ?俺の分まで買わなくっていいから。これは、普通に普段の俺の買い物、だろ?」


 そう言われて少し考える。


 ――確かに普段のアリオンの買い物だし……そこまで奢りを強制するのは悪い気もするわね……。


 私も奢られてばっかりだとアリオンに怒ったのだ。アリオンもなんでも奢ってもらうのは悪いと思っているのかもしれない。


 ――まあ元は私に奢り過ぎてたアリオンが悪いんだけど……。


 でも今日はちゃんとお昼ご飯を奢れたし、この後もアリオンの欲しい物を買う予定なのだ。


 ――プレゼントも……買ってるし……。


 それでもプレゼントの事がバレる訳にはいかないので、少し仕方ないように妥協を示す。


「むー…………そうね……。じゃあ、魔導グローブだけでも……」


 アリオンは少し眉を寄せて呟く。


「……お前に買ってもらうのが消耗品なのはなぁ……」


 その言葉に目を瞬かせてから笑った。


「……ふふ、そっか。アリオン私が買ったもの、長く使いたいのね」


 アリオンがずいぶん悩んでいた理由がわかって嬉しくなる。


「あ……」


 アリオンがしまったといった風に声を漏らす。そして顔を赤くして目を逸らした。


 そんなアリオンを見上げて微笑みながら言う。


「でも、魔導グローブ、術式入れるんだから買いたいわ。それに……いつも身に着けててくれるんでしょ?……また、次も私が術式入れるから、ちゃんと身に着けててね」


「!!……ぐうっ………!」


 アリオンが顔を覆いながら呻く。耳は真っ赤だ。


 それに笑みが溢れる。


「それでここで買い物した後、長く使えるもの探しましょ」


「……わかったよ。ありがとな、ローリー」


 私の言葉に優しくお礼を言ってくれたアリオンに、満面の笑みで頷いた。


「うん」


 武具店に入って目的の品を買っていく。アリオンは他にもついでだと消耗品を買っていた。

 やっぱりここは奢りを強制しなくて正解だったらしい。そうでなければアリオンが遠慮なく買い物できなかった。


 私はアリオンがいつも使っているという魔導グローブを買う。アリオンにいつも一回にどれくらい買っているのかを問い質して、三組魔導グローブを買った。

 剣帯は少し考えて、三つ買っておく。


 武具店を出て手を繋ぎながら、アリオンが少し呆れたように話し掛けてきた。


「ローリー、お前三つも刺繍すんのか?安くねえのにいくつも買いやがって……」


 私が買った袋を見ながらそう言ってくる。相変わらず荷物は持ってくれていた。

 それに少し顔を伏せる。


「あ……うん。……だって、お兄ちゃんが悪いのよ……」


 少しもごもごしながら言う。


 ――ほんとは……一つは……い、いつか……アリオンに……わ、渡せるように……なったら……って……。


 兄の剣帯とアリオンが買っている剣帯は同じだったから、今から少しずつでも刺繍しようと考えて買ってしまった。


 ――ず、図案考えるのも……時間かかる、もの……!


 どんな祈りを込めるかは図案によって違うし、図案をどう組み合わせるかも考えるのも、剣帯への刺繍の難しい所だ。


「……全部押し付けて普段使いしろって言うつもりか、お前……」


 引き攣った声で言うアリオンに、ぷいっと顔を背けた。


「ふーん、だ」


 ――お兄ちゃんのもせっかくだから別々の図案入れてやろうかしら……。


 せっかくだから色んな図案を考えて入れるのもいいだろう。どうせ暫く好きには出掛けられない。


「ったく……。そろそろ少し休むか。ついでに魔導グローブに魔術式入れてくれよ」


 そう言ったアリオンにパッと振り向く。アリオンは優しく笑ってくれている。


 ――魔導グローブは三組……魔石用の術式は使用する魔力量も少ないし……たぶん、魔力も持つわね……。


 それにいずれ白状してペンダントを渡さなければいけないのだ。ちょうどいいのかもしれない。


 ――魔術式入れた後に言って……渡そうかしら……。たぶん……怒られはするけど、喜んでくれるし……。


 考えると、喜んでくれそうなアリオンの顔が浮かんで少し顔が緩みながら、アリオンに頷いた。


「うん、入れるわね。……ね、アリオン」


 休むのなら行きたい所があるので、アリオンを少しだけ引っ張る。


「ん、どした?」


 優しく聞いてくれるアリオンにドキドキしながらお願いする。


「あのね……あの……また、高台の公園、行きたい……」


 ちらりとアリオンを見上げると、目を瞬かせた後に嬉しそうに笑った。


「ああ。あそこ、ローリーも気に入ったのか?」


「うん……」


 にこにこしているアリオンにこくりと頷いた。


「わかった。じゃあ行くか。そこで休もうぜ」


「ええ」


 互いに手を握り合いながら、高台の公園まで歩き始める。

 アリオンと一緒にまたあの公園に行けることに、心が弾んだ。


 ***


「ふふふ、やっぱり綺麗」


 この前アリオンと一緒に来た時にも見た王都の光景にそう言葉を漏らす。

 今日は休日だからか高台の公園の広場には人が多くいたけれど、この場所には人がいなかった。


 ――アリオンとゆっくりできそう。


 以前と同じベンチに座りながら、途中の屋台で買った甘いコーヒーを飲む。ほっと一息ついた。


「ん、ローリーが気に入ってくれたみてぇで嬉しいよ」


 そう言いながらアリオンも同じくコーヒーを飲んでいる。アリオンは相変わらずブラックだ。


「……うん」


 そんなアリオンに頷きながら、目の前の雄大な景色を眺める。


 ……だって、ここはアリオンが話を聞いてくれて……告白、してくれた場所だ。

 ここに来るだけで、あの時の事を思いだしてほわほわと幸せな気持ちになれる。


 ――アリオンもエーフィちゃんとフェリシアさんとよく来てたのよね……。


 そう考えて、ふと思い当たる。


「……そういえばアリオン」


 思えば、さっきの話でおかしい所があった。


「なんだ?」


 首を傾げて聞くアリオンを、言い逃れできないように真っ直ぐ見つめた。


「あんた、剣帯……エーフィちゃんやフェリシアさんやリリアさんから刺繍してもらってないの?」


 私がそう聞くと同時にアリオンは固まった。


「…………え……」


 騎士だと訓練と実戦で違う剣帯を使う人も多い。刺繍してもらった剣帯を大事に使う為だ。

 けれどさっきのアリオンは剣帯を稽古や訓練の時も使っていると答えていた。『も』と言う事は、見廻りや討伐依頼があった時も同じ剣帯を使っているのだろう。


 それなのに、アリオンが稽古をしていた時に付けていた剣帯には刺繍がされていなかった。


 妹のエーフィちゃんはアリオンが大好きだし、お姉さんのフェリシアさんもなんだかんだアリオンを大切にしている。アリオンのお母さんのリリアさんも仕事が忙しいながらも、なるべく家族の時間を持とうと頑張っていた。

 そんな仲の良い家族なのに、アリオンの剣帯に刺繍していないなんて事があるのだろうか。


 アリオンはすうっとゆっくり私から目を逸らした。


 その様子に疑惑は確信へと変わった。


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