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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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祈りの刺繍


 店内を色々と回りながら見ていると、自然と笑みが溢れてくる。ガラス細工はやっぱり見ていて楽しい。


 私が集めているガラス瓶が多く置いてある棚の前でアリオンが告げてくる。


「ローリー、俺少しあっちの方見てくる。もう少しここ見てるだろ?」


 きっと私がもう少し見たい気持ちを汲んでくれたのだろう。


「うん、わかった」


 綺麗なガラス瓶が多いけれど、やっぱり新しく買うのは増やし過ぎだろうか。アリオンがくれた飴の瓶もあるのだ。


 ――飴、いつも美味しいのよね。


 いつも取る飴を思い浮かべると幸せな気持ちになれる。


 ――一日だいたい一個にはしてるけど、だいぶ減ってきてたのよね。飴を補充しに行かないとだわ……。


 でもこの騒動が終わってからだろう。それが悔しいけれど仕方ない。


 ガラス瓶の綺麗な模様を見ながら心を慰めていると、戻ってきたアリオンに声を掛けられる。


「いいもんあったか?」


「アリオンは?」


 アリオンは周囲を見渡す。


「んー……お前のおすすめは?」


「えっと……アリオンなら……」


 聞かれたのできょろっと辺りを見渡す。ガラスの花瓶や置物、ランプシェード、色々な物が置かれている。

 目の前のガラス瓶も見てみる。


 ――あ……いい事、思い付いた、わ……。


 恥ずかしいけれど、アリオンなら喜んでくれそうな気がする。今日そのまま渡せるものではないので少し後になるけれど。


「やっぱガラス瓶か。好きだよな、お前」


「綺麗なんだもん……」


 アリオンの言葉に呟くように返しながら、ガラス瓶を見渡す。


「アリオンなら……これとか好き?」


 線を使って星の形のような模様を、淵の部分の四箇所だけ彫ってあるシンプルなガラス瓶。

 アリオンはふっと笑って頷く。アリオンの好みを当てられたとわかって嬉しくなる。


「おう、俺はこれぐらいシンプルなのが好きだな。ローリーは……これとか好きか?」


 そう言ったアリオンが指差したのは、草花をモチーフにしてある模様がガラス瓶いっぱいに彫ってある綺麗なガラス瓶だった。

 流石アリオンだ。私の好みを把握してくれている。


 笑みを零しながら頷く。


「ふふ、うん、好き。……でも今日はこれ買おうかな」


「シンプルなのでいいんだな」


 私が手に取ったガラス瓶を見て、少し驚いたように言うアリオンに告げる。


「アリオンが好きって言ってたから」


「!!」


「ふふ、あんまり増やし過ぎたら良くないけど、これはいいかなって」


 だって、これは……アリオンに最終的に渡すから。


「……そうか」


 アリオンは優しく笑ってくれた。


 そうしてガラス瓶を買った後、お店を出る前にアクセサリーが置いてあった所に少しだけ目を向けてしまった。

 この位置からではあのネックレスは見えない。


 それを少しだけ名残惜しく感じながら、お店を後にした。


 ***


 ガラス細工のお店を出た後も、色々なお店を見ていく。


 街中ではずっと手を繋いで歩いた。時々確かめるように握り直してくれるのが、くすぐったい。

 そうしているアリオンの手の反対側には、紙袋が握られている。私が買い物したガラス瓶だ。

 奢ってくれてんだから、荷物持ちくらいさせろとの事だった。そんな風に言うけれど、大抵いつも荷物持ちをしてくれている。訓練になるから荷物を持たせろとはいつもの言葉だ。

 それでも露店で買ったものだけは私が持っている。プレゼント包装をしているのを見られてしまう可能性は避けたい。


 アリオンや私が気になったお店に入って、色んな物を見る。けれどアリオンはだいぶ悩んでいるらしく、欲しい物はなかなか決まらない。

 それでもアリオンと色んなお店を見るのは楽しいからいいのだけれど。


 そうしていたら、アリオンが武具屋さんの前で止まった。


「そういやそろそろ剣帯変えてえな……」


 そう呟いたので目を瞬かせる。


「剣帯?」


「ああ、そろそろボロくなってきてんだよ」


 アリオンの言葉にすっと目を細めた。そして聞く。


「…………ねえ、アリオン。お兄ちゃんの剣帯ってどうなってる……?」


「……え……?」


 低めた私の声に、アリオンが目を見開く。

 私はアリオンに更に問い掛ける。


「アリオンの剣帯、いつ買ったの?」


「……そりゃ……入団した時……」


 アリオンは言いにくそうに口を開いた。


「そうよね……そうに決まってるわよね……!」


 疑惑が確信になって声を震わす。


 アリオンは戸惑ったように尋ねてきた。


「…………もしかして……刺繍、したのか?」


 その言葉に怒りで声を震わせながら思いっ切り首を縦に振って頷いた。


「したわよ!でもやったのお兄ちゃんが入団した時の一回だけなの!その時はお母さんに手伝ってもらって……。アリオンのがボロくなってるなら、お兄ちゃん全然普段使いしてないのね!」


 剣帯等への刺繍は騎士や冒険者等の危険を伴う仕事をしている人の無事を祈る為のものだ。魔術師の場合はローブに刺繍するらしい。

 様々な意味がある図案を組み合わせながら祈りを込めて刺繍する昔からの慣わしだ。剣帯等は固い皮で作られており、刺繍をするのが大変なので家族等の近しい身内がする事になっている。


 アリオンは目を泳がしながら頬を掻く。


「あー……俺の使い方が、荒いのかもしんねえし……。それに……ほら、俺は稽古や訓練の時も使ってるからさ……。あー……見廻りとか……ほら、そういう時だけ使ってたら……そんなもん、かも……しれねえだろ……?」


 アリオンが兄を擁護するような事を言うので思わずキッと睨む。


「それでも七年よ!?魔物討伐の遠征だって何回もあったのに……!絶対に普段使いしてないでしょ!早く気づくべきだったわ……!」


 ムスッとして頬を膨らませる。


 ――お母さんとお父さんはたぶん気づいてたのに教えてくれなかったわね……!


 商人気質の両親はこういった事を気づくのも勉強だと言ってくる人達だ。たぶん自分で気づきなさい、と言われるに決まっている。

 とはいっても両親がお兄ちゃんに味方している訳では無い。たぶん兄は兄で気づかれるなんて詰めが甘いと言われるんだろう。

 今回は気づいた時点で私の勝ちだ。


 ――お兄ちゃんの馬鹿!


 せっかく刺繍したのに全然普段使いしてくれていなかった事に眉を寄せて厳しい顔をする。

 思えばこの前アリオンとの稽古を見学した時は私が刺繍した剣帯を使っていたのに、突然行って稽古を目撃した時は違っていた。

 あの時は稽古だったからかなと思っていたけれど、違ったんだろう。


 ――小賢しく私を誤魔化そうとしてたわね……お兄ちゃん……!


 ぐぐっと眉を寄せていく。


「あー……はは…………まあお前にもらったら大事にするよ……。剣帯に刺繍すんの、固いから大変だし、な……」


 アリオンは私から目を逸らしながらそう言う。兄に甘いアリオンにムッとした。


「普段の無事を祈るための刺繍なのに意味ないじゃない!」


 憤慨しながらそう叫ぶと、首を掻いたアリオンが眉を下げながら提案してくる。


「あー…………じゃあ、一緒に見るか?」


「見るわ!」


 勢いをつけて肯定する。


 ――いくつか買って全部に刺繍して普段使いしてよって押し付けてやるわ!


「なら入るか」


 苦笑交じりに言ったアリオンを見上げて、ふっと目を伏せる。

 繋いでいた手をキュッとして、アリオンを引っ張った。


 アリオンがそうした私に驚いたように振り向く。


「どうした、ローリー?」


 不思議そうなアリオンをちらりと見上げながら聞く。


「……ね、アリオンの剣帯には……刺繍しちゃ、駄目……?」


「!!」


 灰褐色の目を見開いたアリオンを覗き込みながら頼む。


「……お兄ちゃんのと一緒に……刺繍したい……」


 じっとアリオンの瞳を見つめる。

 アリオンは口許を手で覆いながら、目を彷徨わす。

 顔は真っ赤だ。たぶん私も真っ赤になっている。


「……お前の気持ちは嬉しい……けどな……これ、か、家族にする、やつじゃねぇか……ま、まだ……恋人、でもねぇ……のに……」


「う……」


 しどろもどろになりながら言ったアリオンに小さく呻く。確かに剣帯への刺繍は大変なので、家族が基本的にする。……だから、恋人同士でも婚約しているとかそういった間柄になってからするようになっているのだ。

 まだ恋人でもない私が言ってしまうのは早すぎるんだろう。


「……好きになってくれるんだろ?そん時にまた考えてくれればいいよ」


 アリオンはそう優しく言ってくれるけれど、私は眉を下げた。


「でも、アリオンの無事祈りたい……」


 剣帯への刺繍は大変だから今日明日でできるものじゃないけれど、アリオンにはいつも無事でいてほしいと祈っている。

 だからそれを形にしたかった。


 ぎゅうっとアリオンの手を握る。


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