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青に煌めく魔石


 にこにこと笑いながらおじさんが聞いてくる。


「魔力も入れておくかい?」


「!!……はい……」


 おじさんの言葉に驚きながらも頷く。


「お、まだ魔力を入れたものを上げた事はなかったかな?」


 私の反応を見てからそう聞いたおじさんは少し楽しそうだ。


「ないです……」


「じゃあ付き合いたてかな」


 そう聞かれるのも当然だろう。魔力を入れた装飾品を贈るのは、恋人同士や家族で行われている事が多い。


 少し不安になりながら聞いてみる。


「……まだ、なんですけど……早い、ですかね……」


 おじさんは目を瞬かせた。


「おや、そうなのかい……。構わないと思うよ。きっとあのお兄さんなら喜んでくれるだろうしね。こういうのは互いに大切に想い合っている、という気持ちで入れるから。関係性よりも気持ちの方が大事なんだよ」


 優しく微笑んでそう言ってくれた事に安心する。


 ――アリオン、私の事大切に思ってくれてるし……私も、そうだもん……。


 だから贈っても大丈夫なんだと、そう思えた。


「はい、ありがとうございます」


 おじさんにお礼を言うと笑って頷いてくれた。


「はい、じゃあこれに入れてね。入れ方はわかるかい?」


 そう言いながら、おじさんにペンダントを差し出される。

 魔石への魔力の入れ方は魔力交換と変わらないと父や母に習っている。商会に連れて行ってもらった時に教えてもらっていた。


「はい」


 知っているのでそう答えてペンダントを受け取る。


 ――ただ……お父さんとお母さんに……他にも何か、言われていたような……。


 少し思い出しながら魔石を見ていて、ふっとまだアリオンが戻って来ないか気になって周囲を見回す。

 流石にこの場面を見られるのは恥ずかしい。


 きょろきょろと通りの方を確認して、まだアリオンは戻って来ていないと安堵した時、見覚えがあるような人物を見掛けた。


「ああ、そうだ」


 おじさんが口を開いたけれどその前に話し掛ける。


「あの、おじさん。少しだけお店の中に入っていいですか?」


「?ああ、いいよ」


 不思議そうにしたおじさんにお礼を言いながら、お店の中に入らせてもらう。


「ありがとうございます。すみません、ちょっとだけ匿ってもらえると……」


「!わかったよ」


 私の言葉に真剣な顔で頷いてくれたので、頭を下げてから露店の中でしゃがむ。


 そういえばと思って、持っているペンダントを見た。魔力を魔石の中に入れていく。


 ――結構入るのね……。


 魔術式が入らないと言っていたから、てっきり魔力はそこまで入らないと思っていた。入れ終わると、ふうっと息を吐いた。


 その時おじさんがこっそりと話し掛けてきた。


「あ、そうだお嬢さん……」


 そして私が持っているペンダントに目を留める。魔石は魔力を入れると、魔力が揺れて魔石が煌めく。


 おじさんは少し申し訳なさそうな顔をした。 


「……もしかしてもう魔力入れたかい?」


「え……はい。あ、何か問題が……!?」


 そのおじさんの表情に何かやらかしてしまったのかと心配になる。


「いや、お嬢さんが大丈夫なら問題ないよ。後で話すね」


「はい」


 つい入れてしまったけれど、そういえばおじさんは匿ってくれる前に何か言い掛けていた。入れるのはその後にすればよかったな、と少し後悔する。


 ――でも私が大丈夫なら問題ないって言ってたから……いいのかしら……?


 とりあえず今は普通にお店をしているおじさんに迷惑をかけないように縮こまっておく。

 私がいないように振る舞って、しっかり匿ってくれるのは有り難い。それにアリオンが来ても商魂逞しいおじさんなら顔をしっかり覚えていそうだから、声をかけてくれるだろう。


 さっき見た時歩いていた速度だと、もう見えなくなっただろうかと思ってちらりと通りを覗く。

 どこにも警戒した人物の姿は見えなかった。


 ほっと息をついて、立ち上がっておじさんにお礼を言う。


「匿ってもらってありがとうございました」


 そう言いながら店の外に出ると、おじさんは心配そうに眉を下げた。


「大丈夫かい?」


 あまり心配させないようにと、苦笑交じりに詳しく話す。


「はい、大丈夫です。ごめんなさい。以前しつこくナンパしてきた奴らを見つけてしまって……。暗い茶髪と緑の髪の男達なんですけど……絡まれると面倒そうだったので……。ただ、髪色で判断したので人違いだったら申し訳ないです……」


 眉を下げてそう言うと、おじさんは大丈夫だと答えてくれた。


 またアリオンに心配をかける訳にはいかなかったから、その髪色を見ただけで私にしつこく声を掛けてきたあいつらかもしれないと思って隠れたのだ。この国には色んな髪の人がいるけれど、あそこまで明るい緑の髪は珍しかったから覚えていた。全くいない訳ではないので、もしかしたら人違いだったかもしれないけれど用心しておくに越したことはない。


「その髪色の男達ならサングラス掛けた上に怪しい目つきしてたから、間違いないんじゃないかな?お嬢さん綺麗だからナンパもされるよね……。……しかし増えてるなあ、ナンパが」


 おじさんがうんざりしたように言った言葉に目を瞬かせる。


「そうなんですか?」


「ああ、お嬢さんが隠れた奴らは見たことない奴だったけどね、ここらへんでもよくしつこく声を掛けてる奴らが居るんだよ」


 大きく溜め息を吐いたおじさんは迷惑しているような感じだ。


「しつこく……」


「全く困るよね。かなりしつこいんだ、女の子がきっぱり断ってるのに腕を取ったりするんだよ。そこまでになったら流石にみんなで止めに入るんだ。お陰で少しナンパにはみんなピリピリしてる。最近は騎士の巡回が増えたから、あんまり見なくなったけどね」


「ああ、だから……なんですかね。騎士の巡回が増えたの……」


 確かに腕を取られるなんて恐怖だ。私もあの男達には逃げ道を塞がれていたし、手も取られそうになった。

 心配そうに見ていた街の人を思い出す。あそこは中央公園前の噴水広場で東通りにあるこの市場とは違うけれど、もしかしたらあの辺りでも同じような事があったのかもしれない。


 そして納得する。腕を取られるようなしつこいナンパの報告が各地から上がれば、騎士の巡回強化は必然だろう。

 犯罪を未然に防ぐ為、騎士の巡回はあるのだ。


「かもしれないね。そうだ、お嬢さん魔力は大丈夫かい?」


 その言葉に目をパチクリとさせた。


「え?」


 おじさんはペンダントの魔石を指で差しながら困ったように笑った。


「その魔石、魔力だけはかなり入るんだよ。魔術式は入れられないのにね」


「あ……はい」


 確かに思っていたより多く入ったと思う。


「魔力はちょっと入れればいいよって言うのを忘れていたと思ってね。魔力少ない子だと魔力切れを起こしちゃいけないから」


 おじさんの言葉にハッとする。


 ――お父さんとお母さんに言われてたの……これだわ……!


 10年くらい前だったから詳しい事を忘れていた。私は魔力が少ないから入れるのは気をつけるんだよ、と言われていた。

 しかも昨日アリオンに気をつけろと言われたばかりなのに。


 けれどおじさんに心配をかける訳にはいかないし、今の所体調も悪くないから大丈夫だ。

 だからしっかり笑って答える。


「大丈夫です」


「そっか、ならよかったよ」


「いえ、心配してくれてありがとうございます」


 ……今日はもうあんまり魔力使うこともないだろう。それにまだ魔力もちゃんと余っている。魔術式を何度も描いたりしなければ大丈夫だ。


 ――うん、たぶんアリオンにもバレな……。あ、ペンダント、渡したらバレるわね……。


 魔石に入っている魔力を見れば、どれくらい入れたかわかるだろう。今ペンダントを見てもわかる。


 ――……いつ渡そうかしら……。


 買ったはいいけれど、渡した途端に怒られそうな気がする。でもせっかくだからちゃんと渡したいので、怒られる覚悟ができてから渡そう。


 心の中で溜め息を吐いてからそう決める。


「お金はかかるけど、プレゼント用に包めるよ。どうする?」


 心配がなくなったおじさんはまた商魂逞しく勧めてくる。

 私はこの前アリオンがくれた飴も、リボンに包まれていた事を思い出した。


「じゃあ、プレゼント用に包んで下さい。お願いします」


 そう言っておじさんにお願いして、ペンダントを渡す。


「はい、毎度……」


 おじさんが笑顔でペンダントを受け取った時、ちょうど太陽が魔石に当たって魔力が青く煌めいた。


 ――綺麗……。アリオンって……こんな風に……私の、瞳……見てくれてたり……するのかしら……。


 そう思うと、嬉しくて思わず頬が緩んだ。


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