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露店のペンダント


 露店が並んでいる東通りの市場を歩く。ここは雑貨の露店が多いので、アリオンが見るのにいいかと思った。


 賑わっている市場の中ではアリオンが前を歩いていてくれている。

 さっき転びかけたので前を歩くのは許されなかった。まあここからはアリオンが欲しい物を探すので、ちょうどいいかもしれない。

 繋いだ手はずっとそのままで、アリオンと話しながら色んな露店を見る。

 私はそんなアリオンの様子をじっと見ていた。


 アリオンの目がふっと何かを捉える。

 気になったので、視線を追うとそれはある露店だ。


「アリオン、欲しいものあった?」


 そう聞くと、アリオンは目を見開いてから苦笑した。


「よく見てるよな、お前」


「ふふ、もちろんよ」


 アリオンが気になるものがあったならその露店に寄ろうかと考えてその露店を見ると、露店のおじさんと目が合った。にっこりと笑っている。

 恐らくアリオンがそちらを見たことをわかっていたのだ。


 けれどアリオンは首を掻きながら言う。


「でももう少し見て回りてえから、いいよ」


 なんだ、と思いながら肩を落とした所で、甲高い悲鳴が響き渡った。


 アリオンがすぐ悲鳴が聞こえた方を向く。

 ちらっと私を見たので、繋いでいた手を離してから背中を押す。


「アリオン、行って。私はちゃんとここでお店の商品見てるから大丈夫」


「悪い。なるべくすぐ戻る」


 頷いたアリオンは悲鳴が聞こえた方向にすぐ走って行った。人混みを避けながら素早く駆け抜けるのは、流石騎士だ。

 大事じゃないといいな、と願いながら、私は先程目が合った露店へと向かった。


 今はアリオンに言った通り、うろうろせずに商品を見ておこう。それにここはさっきアリオンが目を留めていた露店だ。色んな装飾品が置いてある。男性物から女性物まで幅広い。


 私は露店のおじさんに笑いながら話し掛けた。


「おじさん、少し商品を見てていいですか?それと、私さっきの人以外に着いていく気はないので、着いていくようなことがあったら信号弾上げてくれると助かります。あ、もちろん商品は買いますから!」


 不測の事態が起きた時の為に伝えておく。優しい人も多いけれど、私が脅されていた場合などは判断がつかない事もあるかもしれないので先に言っておけば、そのような場合でも対処してもらえる。

 もちろんそんな事を頼むので商品を買うのは当たり前だ。


 露店のおじさんは優しく微笑んだ。


「わかったよ、お嬢さん。しっかりしてるね」


 ほっと安堵する。優しそうなおじさんで助かった。もし少しでも嫌な顔をされたら他の露店を見ようと決めていたのだ。

 けれどそうしたらアリオンが目に留めたものを探せなくなってしまうので、できれば了承して欲しかった。


「ありがとうございます。助かります」


 笑顔でお礼を言うと、おじさんも頷いてくれた。


 私は早速アリオンが先程目に留めていたものを探す。


 ――品物多いけれど……見つかるかしら……。


 アリオンが見ていた辺りを見てみるけれど、どれなのかまではわからない。


 ――アリオンの好きそうなもの……。


 そう考えながらつい眉を寄せて探していると、朗らかに笑ったおじさんが手のひらをある商品に向けた。


「さっきのお兄さんが見てたのはこれだね」


「!流石ですね、おじさん。ありがとうございます!」


 アリオンが見ていたのは一瞬だったのに何を見ていたのかわかっているなんて、このおじさんはかなり観察眼が鋭い商売人だ。


 得意気に笑っているおじさんの指している商品をじっくり見る。

 見ると黒い革紐の先に菱形にカットされている、綺麗な青色の魔石がトップについたシンプルなペンダントだ。


 その事に、目をパチクリとさせる。あまりアリオンが選びそうにないものだった。

 首を傾げながらおじさんに問い掛ける。


「この魔石、なにか付与してあったりするんですか?」


「これは付与できる程上等な魔石ではないね。せいぜい魔力を籠められるくらいかな」


「そうなんですね」


 ますます不思議に思う。


 アリオンは基本的に装飾品類はつけないのだ。今日だって服装でお洒落にはしているけれど、装飾品はつけていない。

 前に理由を聞いたら、幼いエーフィちゃんやユーヴェンの弟達と遊んでいたからだと言っていた。装飾品を着けていると基本的に引っ張られるらしい。飲み込んでもいけないので着けないようにしたらしく、それを聞いてユーヴェンの家で遊ぶ時は私も装飾品を着けずに行くようにした。ユーヴェンの家にはまだ小さい弟がいたからだ。


 アリオンはずっとそうしていたからか着けないのが癖になっているらしく、着けているのを見たことがなかった。


 ――なのに……ペンダント、なのね……?


 思わずじーっとペンダントを見てしまう。このペンダントの何に惹かれたのだろうか。

 なんとなく着けてみようと思ったのかもしれない。でもフィルくんやノエルくんはまだ4歳だ。遊びに行ったらまだ引っ張られそうな気がする。


 悩みながらペンダントを見つめていると、そんな私を見ていたおじさんが口を開いた。


「私もどうしてパッと見でこれを見たのか不思議だったんだけどね、お嬢さんを見て納得したよ」


「?納得、ですか?」


 意味が解らずに聞き返す。なぜ私を見て納得するのだろう。


「この魔石はお嬢さんの瞳の色にそっくりだ」


「!!」


 おじさんの言葉に目を丸くする。


 ――わ、私の……瞳の色……!


 顔が赤くなりそうで思わず俯く。


「お嬢さんの瞳の色だからすぐに目に留まったんだろう。愛されてるね」


 おじさんの言葉に少し顔を逸らす。


 ――わ、私の瞳の色だから……目に留まったって……!あ、愛されてる……な、なんて……!


 他人から指摘されるとかなり恥ずかしく思えてしまう。


 けれど……素直に、嬉しい。


 おじさんに尋ねる。


「……これ、いくら……なんですか?」


「これくらいかな」


「そのくらいなら……。……でも……ペンダント、ですもんね……」


 そう言って少し悩む。


 アリオンは騎士職だ。このペンダントトップは少し大きめだから、きっと違和感があってずっとは身に付けていられないだろう。紐も金属製ではないから、激しく動く騎士職には心許ない。


 ――休日だけ、かな……。


 アリオンが気にしたのが、私の瞳の色で嬉しかった。互いの色を身につけたりするのは、恋人同士である証だ。きっとまだ恋人同士ではないから、アリオンはさっき他を見ると言ったのだろう。

 でもアリオンがいいなら身につけて、欲しいと思う。


 なるべく長く身につけて欲しいのは私の我儘だ。


 ――でも、アリオン気にしてたし……休日だけでも、着けてもらおうかな……。


 できれば仕事中も身に着けられるようなのが良かったけれど、ないものねだりは良くない。


 そう考えて買おうと決意して顔を上げると、おじさんはにっと笑って聞いてくる。


「あのお兄さん、悲鳴を聞いて走っていったからもしかして警備隊か騎士かな?」


「!!えっと……はい……」


 やっぱりこのおじさんは観察眼が鋭い。


「なるほど、それならこれは休日だけになってしまうかもしれないね。ペンダントトップも大きいし、革紐だ」


「そうですよね……」


 おじさんもそう思う事にしゅんとする。

 無理してまでいつも着けてほしくはないから、そうなってしまうだろう。


 おじさんは顎を撫でて考えるように言う。


「そうだねぇ……。……鎖帷子の下に懐中時計を持っている人は多いよね」


 その言葉に目を見開く。もしかして何か良い案があるのだろうか。


「はい……!」


 確かにアリオンも、お父さんの形見である懐中時計をいつも持っている。


 決められた時間を軸にする作戦もあるので、懐中時計は騎士には必須なのだ。騎士や警備隊、冒険者が持つ懐中時計には簡単に壊れないよう保護の術式が刻まれた魔石が埋め込まれている。

 冒険者だったお父さんの形見の懐中時計を、アリオンは今でも大切に使っていた。


 おじさんはペンダントを手にとってトップ部分を見せてくる。思わずそれを見つめた。


「このペンダントトップ、こうすると外れるんだ。それで……この懐中時計用のチェーンの先につけられる。このペンダントトップ、普通の懐中時計よりは大きくないからね。つけても問題ないんじゃないかな?」


「!!」


 確かにアリオンの懐中時計よりは大きくない。それなら懐中時計に着けていても問題無さそうだ。チェーンも銀色で、アリオンの懐中時計と合っている。


 おじさんのにこにこした顔を見た。


「このチェーンの値段はこのくらいだけど……ペンダントと一緒に買ってくれるなら安くしておこうかな」


 計算機に映し出された値段は高過ぎる事もない、いい値段だ。しかもセットで買うとお得なんて、買わない手はない、と思ってしまう。


「……おじさんとっても商売上手ですね」


 思わずそんな言葉が口をついた。会話も全て計算されていたような気がする。


 おじさんは得意気に笑って答える。


「褒めてもらって嬉しいよ、お嬢さん」


「買います」


 私は商売上手なおじさんにはっきりとそう告げた。


「毎度あり」


 にっと笑ったおじさんに、私もいい買い物ができたのが嬉しくて笑い返した。


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