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演技の中の本音


 今日は珍しく私がアリオンより前を歩く。いつもはアリオンが前を歩きながらどこに行くかを聞いてくれていたけれど、今日は私がエスコートをするのだから私が案内しないといけない。アリオンと繋いだ手をつい引っ張る。


「あんまり早く歩くなよ、ローリー。転んだらいけねえから」


 アリオンの小言が耳に届く。それに軽く振り返る。


「ちゃんと前見ろ」


 眉を寄せて更に注意してくるので、過保護だなぁと思いながら答える。


「大丈夫よー。ちゃんと気をつけてるっ」


 言った途端、段差を踏み外す。それにすぐ反応したアリオンが繋いでいた私の手を引っ張りながら、片腕を肩に回して私が決して倒れないように抱き寄せる。ぽすっとアリオンの胸におさまった私は熱が上った。


「言ったそばからお前は……」


 呆れた声のアリオンがジト目で腕の中の私を見る。


「……抱き上げて運んでやろうか?」


 そのままそんな事を言ってくるので、カッと顔を赤くする。


「だ、大丈夫だから!ちょっと……躓いただけで……そう何回もやらないわよ!」


「躓いた……?」


 そんな私を怪訝な目で見るアリオンから少し目を逸らす。


「…………前方不注意でした……」


 明らかに前を見ろと言われていたのに無視した私が悪かったので大人しく非を認める。


「そーだな」


 私の言葉に満足そうに頷いたアリオンが、肩から腕を外す。


 流石にこんな街中で抱き寄せられていたのは恥ずかしくて俯く。


「ほら、次はちゃんと前見て歩けよ」


「そう何回も言わなくても……」


 少しむくれながら言うと、アリオンに片手で両頬を挟むように掴まれた。


「自分が悪いのに素直に頷かねえのはこの口か?」


 アリオンが意地悪そうに笑いながら言ってくるけれど、頬に沈むアリオンの大きな指に心臓が跳ねる。


「はひゅ……」


 赤くなった顔の中で目を泳がせると、アリオンが眉を寄せた。


「……可愛い声と顔をこんなとこで出させんのはよくねえか」


「!!」


 そんな事を呟いたと同時にぱっと離すので、顔が更に赤く染まる。


「ほら、ゆっくり前見て歩け。俺の方見なくていいから」


 アリオンがそう言うので、少し目を伏せながらアリオンと繋いでいる手を振る。


「……やだ。前見ては歩くけど、アリオンと話したいもの……」


 アリオンとしっかり話したいので少し口を尖らせながらそう言うと、アリオンがぱっと顔を背けた。


「……ぐ、かっわいい……わがままローリーめ……。じゃ、並んで歩くか。ここは人通り多くねえしな」


 相変わらず素直に私への言葉を口にするアリオンに顔が熱くなるけれど、口元が緩む。


「ふふ、うん。ちゃんと気をつけて歩くわ」


 そう言って横に並んでくれるアリオンを見上げると、アリオンは私を見下ろしながら優しく笑った。


「そうしろ。ま、転ばねえよう助けてやるけど」


「うん。ありがと、アリオン」


 繋いだ手をとても心強く思いながら、二人で話しながら並んで歩いた。


 予約してあったお店へと着いたので、アリオンを見て告げる。


「アリオン、着いたわよ」


「ここか?」


「ええ、この前ね、カリナとスカーレットと一緒に行った時美味しかったの。昼もやってるみたいだから、アリオンと一緒に来たいなって思って」


 そう言うと、アリオンは嬉しそうに笑った。


「ふ、そうか。ありがとな、ローリー」


「うん」


 流石にお店の中まで手を繋ぐのは恥ずかしいので、手を離してから中に入る。

 予約していたので名前を伝えると席に通された。


 カジュアルなお店だけれど、ランチではちょっとしたコースがあると聞いていたのでせっかくだから予約して頼んでおいた。


 綺麗に盛り付けられた前菜が運ばれてきて、目を輝かす。

 コースの料理も美味しそうだ。


「ん、美味いな」


「ね、美味しいでしょ?」


 アリオンの言葉に嬉しく思いながら、つい自慢気に言うとアリオンも優しく目を細めて笑う。


「おう。お酒も美味いし、いい店だな」


 美味しそうに食べるアリオンを見て頬が緩む。喜んでみてもらえたみたいで嬉しい。

 お酒もお昼だから一杯だけ飲もうと言って頼んでいた。アリオンは赤ワインで、私はこの前とは違う味のスパークリングワインを頼んだ。


「アリオン、何が欲しいか決まってるの?」


 食事をしながらそう聞くと、アリオンは少し目を逸らした。


「……決まってねえ……」


 バツが悪そうに言ったアリオンに苦笑する。


「もー……まあいいわよ、色んな所見ましょ」


「おう」


 私の言葉に、笑って頷いてくれた。


 そうして笑い合いながら料理を食べ終わった後。


「……アリオン、じっと見ないでよ……」


 私は何故かじーっとアリオンに見つめられていた。


「別に、ローリーを見てるだけだ……」


 そう言ったアリオンをジト目で見る。


 テーブルに置いてあった伝票を私が持つと、その手元に視線が移る。


「……あんた怪しいから先に出といて」


「怪しいってなんだよ……」


 私の発言に不貞腐れて返すアリオンに疑惑の目を向けた。


「あんたお金出しそうなのよ、食べ終わったら私をじっと見て。隙見て出すつもりじゃないでしょうね?」


「……そんな事しねえよ」


 少しだけ間をあけて答えたアリオンに溜め息を吐く。


「その少しの間が怪しいの。ほら、先に出といて。私はお支払いしたらすぐに出るから」


 席を立ちながらそう言うと、アリオンは一瞬苦い顔をした。やっぱり怪しい。

 その思いが顔に表れていたのか、アリオンは私から目を逸らして立ち上がる。


「……はあ、わかったよ。店出たとこで待っとく」


 苦笑いしながら言ったアリオンに満足する。 


「ならいいわ」


「ん、ありがとな、ローリー」


「いいえ」


 とりあえず会計場まで一緒に歩いてから、少し名残惜しそうに先にアリオンがお店を出た。


 懸念もなくなったので私は会計場に伝票を出してお会計をする。


「ありがとうございました」


「ご馳走様でした」


 お金を支払い終わって、満足した気分で外に出る。


 ――やっとアリオンに奢れたわ。


 心を弾ませながらすぐにアリオンを探す。テラス席があるこのお店は入り口が階段になっているのでいつもより視線が高い。

 アリオンの橙色に近い茶髪がすぐに目に入ったけれど、その状況に頬を膨らました。


 お店のすぐ隣で待っていたアリオンは、背の高い金髪の綺麗なお姉さんに話し掛けられている。


「お兄さん、お一人なら一緒に行かない?」


 妖艶なお姉さんにそう声を掛けられているので、階段を降りてすぐに向かう。


 ――アリオンってすぐにナンパされるんだから……!


 いつもアリオンを一人にすると高確率でナンパされている。私に対してナンパの心配をするよりアリオンの方がどうにかした方がいいと思う。

 まあ私やカリナは強い訳じゃないから、確実に力が強い男性相手っていう心配があるんだろうけど。


 ――やっぱり一緒に出るべきだったわ!


 自分のした選択に後悔していると、アリオンは相変わらずのキラキラ笑顔で女性に応対している。


「魅力的な方に誘われているのは光栄ですが、僕は今、僕にとって一番大切な人を待っているのでご遠慮させてください」


 アリオンの言葉が以前と少し違っている。『一番大切』とは言われた事がない。いつも『とても大切』とかだった。


 ――あ、あの『とても大切』……。……て、てっきり断り文句だと、思ってけど……あれ、今から思うと……ち、違ったの、かしら……!?


 たぶん本音も混じっていたような気がする。


 ――わ、私だってアリオンやユーヴェンは大切な友達だとは思ってたけど……!


 ユーヴェンは軽く私やアリオンの事を大事な友達だとか言ってきていたけど、やっぱりアリオンも大概だと思う。


「あら、そんなに大切な人なの?」


「もちろんです。僕にとって世界一可愛くて綺麗な子ですよ」


「ふふ、情熱的ね」


 考えながら向かっているとそんな恥ずかしい会話がされているので、顔に熱が集まる。


 ――せ、世界一って何なのよ!?なんかナンパしてきたお姉さんももう面白がってそうな感じだし……!


 アリオンの所に着くと同時に腕に抱き着く。ちょっと恥ずかしくてアリオンに顔を見せにくい。


「!!ああ、ごめんね。不安にさせたかい?」


 アリオンがいつものように優しげな声で私を受け入れる。あの演技だと思っていた恋人のふりも、アリオンにとってはどこまでが演技だったんだろう。

 そんな私の頭をぽんと優しく叩いた。これも、今までのナンパの対応でされた事がない。

 少しずつ変わっていっている関係に、胸が締め付けられる。


 私はゆっくりと背の高いお姉さんの方を向いて口を開いた。


「……あの、私にも一番大切な人なので……遠慮してください……」


「!!」


 アリオンの頭を優しく叩いていた手が止まる。


 ――お、思わず素で言っちゃった……!


 いつもならちゃんと私もキラキラ笑顔で対応するのに。でもアリオンが恥ずかしいことばかり言っていたのが悪いと思う。


 ――ちゃんとアリオンを、私も大事に思ってるって言わないと駄目だもの……。


 このお姉さんは違うかもしれないけれど、ちゃんとお互いに想い合っているように見せないと引いてくれないナンパの人もいたのだ。


 お姉さんは私とアリオンの様子を見て楽しそうに目を細めた。


「ふふ、まあ可愛らしい。ごめんなさいね、お嬢さん。一人ならと思って声を掛けただけよ。お互いに顔を真っ赤にしている初々しい貴方達の邪魔はしないわ。じゃあね、お熱いお二人さん」


 言ったと同時に颯爽と去っていったお姉さんの言葉に、更に顔が赤く染まってしまった。

 でも気になって顔を上げると、アリオンも真っ赤な顔で私を見ていた。


 アリオンも私の言葉に恥ずかしくなったのだろうか。キラキラ笑顔の時はそれ以外の表情は基本的に浮かべないのに。


 なんだか言葉にできない気持ちが湧き上がって、アリオンの腕にぎゅっと抱き着く。

 そんな私の頭を髪が崩れないようにアリオンは優しく撫でた。


「……ローリー」


 あの作っている優しげな声ではない、いつものアリオンの声に落ち着く。


「何?」


「そんなにぎゅっとしなくても……俺はお前以外興味ねえぞ」


 そう言ってくるアリオンに口元が緩む。アリオンの腕に擦り寄った。


「……うん」


「……擦り寄ってくんのかよ……」


 アリオンを見上げると恥ずかしそうに首を掻いていた。


「ちょっとぎゅっとしたかったの。……駄目だった?」


 不安になりながら聞く。昨日は長く抱き締め合っていたからだと思ったけれど、やっぱり腕に抱き着くのは駄目なんだろうか。


 アリオンは私に優しく微笑むと、頭をぽんぽんと叩いた。


「……駄目なんて言う訳ないだろ。ほら、手を繋いでやっからデートの続きしようぜ」


 にっと楽しそうに笑ったアリオンが手を優しく握ってきたので、私も抱き着くのをやめてアリオンの手を握る。


「うん、行きましょ」


 微笑み返しながら頷いた私はアリオンの横を歩き始めた。


 さっきのは、アリオンも言っていた独占欲、なんだろうか。


 ――あと……どれくらいで……アリオンにす、す、す、好きって……言えるのかしら……。


 アリオンに、早く喜んでもらいたい。その為には私からも好きだと言えなければいけないだろう。


 早く言えるようになりますように、と願いながらアリオンの手を強く握る。

 アリオンに優しく握り返されながら、自分でも言えるように頑張ろうと思った。


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