アリオンの理由
「高いわよ」
ひとつ溜め息を吐いてそう言う。自分でも先程との違いに渇いた笑いが出る。
「悪かったって、ローリー」
両手を合わせて謝意を示しながら頭を下げている。元から私も乗るつもりだったのだから怒るつもりはない。ただ……報酬はもらってもいいだろう。
「そう思ってるなら今日の喫茶店はあんたの奢りね」
にっと笑ってこの後ユーヴェンも一緒に行くことになっている喫茶店の事を持ち出す。美味しいケーキでも食べさせてもらおう。
「わかったよ。このご飯代も出す」
両手を挙げて了解の意を示すアリオン。
「それは別にいいわよ。美味しそうだと思って買っただけだし。ほら、あんたお昼食べてないんでしょ。食べなさい」
そう言って自分の分を取り、その他をアリオンに差し出す。
「ふっ、ローリーはかっこいいな」
心底楽しそうに笑いながら言うアリオンに、得意気な笑みを浮かべて返す。
「でしょ?」
「おう、ありがとな」
「はーい。どういたしまして」
そんなやり取りをして、アリオンがサンドイッチを食べだす。それを見て、私も自分の為に買った鳥の焼串にかぶりつく。
「それにしてもいつも思うけど、あんたのあのキラキラはどっからきてるのよ。普段と違いすぎて寒気がするのよね」
食べながらジト目でアリオンを見る。
「そういうお前もいつもながら見事なもんだよ」
「あんたに長い間付き合わされてるからね」
「ほんとに助かってるよ。ああすると大抵の人は穏便に諦めてくれるからな」
「まあね。彼女とかじゃないって分かるとあんた連れ去られそうな勢いだったこともあるもんね」
多少は騙す罪悪感もあるが、友人の安寧の為だ。致し方ない。
「13歳の頃だったか?まだ少年だったから恐怖しかなかったな」
「なのによくやめないわね」
「お前が発破かけたんだろ」
昨日も思い出したばかりの話に一瞬喉を詰まらせる。慌ててコーヒーを飲むが、流石に鳥の焼串には合わない。
「あれはやめてもいい出来事だったけど」
「まあ、そんな人達ばかりじゃないって知ってるしな」
苦い顔をしながら返すと、アリオンは笑いながら言う。アリオンはサンドイッチを食べ終えて、鳥の焼串を食べ始める。やはりお腹が空いていたんだろうな、そう思いながら私も残りを食べる。
アリオンは頬杖をついて、広場の人波を見ながらぽつりと話し始めた。
「正直俺にとっては、なんていうかな。……感謝の形みたいなもんなんだよな、アレ。俺早くに父親亡くしてたから、母さんや姉さんにはだいぶ世話になったし、妹のエーフィもいっつも俺に引っ付いて可愛くてさ。俺はそんな家族に喜んで欲しくて。それでやりはじめたら……なんか、誰かにとっての俺の家族のような人なのかもしれないと思っちゃってさ。そうしたら、少しでも喜んでもらえるといいなって思ってやめられなくなった」
「そっか」
初めて聞く家族の為だけじゃなかった話に相槌を打つ。アリオンらしい理由だ。今の気持ちを聞くと、昨日の直す直さない話は考え直した方がいいかもしれない。一回スカーレットとアリオンがちゃんと話す機会を作ってみようと思った。
「……柄にもないこと話したな」
照れたように首の後ろをかくアリオンに、私は笑って返す。
「いや、あんたらしい理由だと思うわよ。今までそんなに深く聞いたことはなかったけどね」
少し驚いたように目を開いたアリオンは嬉しそうな笑みを零した。
「俺らしいって思うのが、お前らしいよ」
「そう?」
そう返しながら、鳥の焼串の最後のお肉を頬張る。甘辛いタレがよく絡んでいて美味しい。
「そうだよ」
アリオンも笑いながら鳥の焼串を美味しそうに食べていた。




