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兄としての苦悩


 頬を膨らませながらアリオンに言う。


「ほら、やめたんだから教えてよ」


 私の言葉にアリオンは掴んでいた手を握ってきた。両手とも優しく握られた事にドキドキしながら、アリオンの話を聞く。


「おう。ユーヴェンのあの行動は言わねえことに決まったよ。キャリーとメーベルさんの意見を尊重しようって事で決定した」


 アリオンの言葉に安堵する。


「そうなのね……。なんかほっとするわ……」


 どうしようか迷っていたけれど、言わない方がいいのではないかとは思っていた。でもカリナの立場に近い私はどうしてもカリナに味方してしまうから、それがいいのかわからなかったのだ。

 アリオンも同じように判断したなら問題ないだろう。


 アリオンは少し難しい顔をしながら話す。


「俺もなー……兄としては……言いたいし知りてえけど……。ユーヴェンの友達として考えると……なあ……。俺でもアレンがんな事してたらエーフィから遠ざけちまいそうだし……」


 眉を寄せながら言ったアリオンの言葉に目を瞬いて首を傾げた。


「……アリオンもしてるのに?」


 アリオンだって頭を撫でてくれていた。それこそ告白される前からだ。


 エーフィちゃんとアレンくんの事は最近アリオンがぶつぶつ言っているからなんとなく知っている。


 アリオンはしかめっ面になった。


「ぐっ……!突っ込むなよ……!……ユーヴェンは気づかずにやっちまうのが質が悪いんだ!」


 ムスッとしながら言うので、問い掛けてみる。


 ユーヴェンの話に変わっているけど、きっとユーヴェンの弟でもあるアレンくんの事も言っている。


「じゃあアレンくんがわかった上で、エーフィちゃんが許可してたらいいの?」


 これは私とアリオンと同じ話だ。アリオンはわかった上で、私が頭を撫でる許可を出した。


 アリオンは私の問いに思いっ切り顔を歪めた。


「……ぐ…………嫌だ……」


 そこから絞り出したのはそんな言葉だ。

 思わず呆れた声が出る。


「アリオンってば……」


 アリオンは顔をしかめたまま呟く。


「…………やっぱ俺ってお前に触れ過ぎか?」


「……アリオン」


 面白くない言葉にアリオンの名を呼ぶが、それでもぶつぶつ言っている。


「……兄としてはやっぱりあんまり触れない方が」


「アリオン!」


 今度はもっと大きな声で名前を呼んでアリオンの呟きを遮る。


 アリオンは大きな声を出した私をハッとした様子で見た。


「ローリー……」


 不貞腐れた顔でアリオンを睨む。

 アリオンはバツが悪そうな顔で目を逸らした。


「やだ」


 私はアリオンを見据えながら告げる。


「え?」


 アリオンが目を見開いて私を見た。


「アリオンが……頭撫でてくれるのも、手を繋いでくれるのも……頬を撫でてくれるのも……やめてほしくないもん」


「!!」


 目を丸くしたアリオンの灰褐色の瞳を覗き込む。


「ひ、額にキス、も……だ、抱き締められる、のも……ま、またしてほしい、もん……。だから……やめちゃやだ……アリオンが折れてよ……」


 きゅっと繋いでくれている手を私からもしっかりと握る。


 アリオンは一瞬顔を歪めてから、ソファーの背もたれに顔を押し付けた。


「……アリオン?」


 アリオンから返事をもらっていないので不安になりながら問い掛けると、繋いでいる手に力が籠もった。


 よく見るとアリオンの耳が赤い。その事に頬が緩んだ。


「ずるいよな……ローリーは……」


「何よ……」


 アリオンの優しい声の調子に安心する。


 ソファーに凭れたままちらりと私を見たアリオンはふっと笑った。その顔は赤い。


「わかったよ。お前の言った事、またしてやるから」


「!ふふ、ありがとアリオン」


 笑みを零しながらお礼を言うと、アリオンはまたソファーに顔を伏せた。


「あー……ずっりい……ほんとずっりい……」


 何故か額をぐりぐりとソファーの背もたれに押し付けながら呟いた。


「何がよ?」


 アリオンの行動を不思議に思いながら聞くと、一度溜め息を吐いてからこちらを向いた。

 少し顔が赤いアリオンは憮然とした表情だ。


 アリオンの顔に私も顔を赤くしてしまった。今更だけどだいぶ恥ずかしいことを言ってしまったと思う。


「ローリーは気にすんな……」


 そう言ったアリオンは苦笑しながら体を起こした。


 アリオンは両手とも繋いでいた手を片方解いて、頭を撫でてくれた。

 早速また撫でてくれたので顔が緩む。


「ふふ、これでアレンくんも」


「それとこれとは話が別だ」


 笑いながら言った私の言葉をアリオンは厳しい声で遮った。


「ええ……」


 アリオンの言葉に呆れた声が漏れた。


「…………エーフィとアレンはまだ早えんだよ!エーフィなんて誕生日来てねえからまだ13歳なんだぞ!?」


「あ!今度はそういう事言ってくるのね!」


 暫し間があったと思えばそんな言葉を投げ掛けてきた。


 ――絶対に今どうにか否定できるように考えたわね……!


「当たり前だ!俺だってローリーとデートするなんて明日が初めてなんだぞ!?なんでエーフィとアレンは時々二人で出掛けたりしてんだ!」


 ムスッとしているアリオンの発言にジト目を向ける。


「……それはアリオンが気持ちに気づいてなかったのも悪いんじゃない?」


「ぐっ……!」


 アリオンは呻いて顔を歪めた。


 アリオンが気づいていたらもしかしたら二人で出掛けよう、なんて誘ってくれる事もあったかもしれない。

 ……でもどうだろう、今回だって私から誘ってるし……。


 ――アリオンって気を遣いすぎる所があるのよね……。


 ちらりとアリオンを見る。


 ――でも今は……こんなに気持ちも言ってくれてる、から……きっと、次は誘ってくれるわよね……。


 それは楽しみに思う。


「ほらほらー。人の事言えないわよねー」


 アリオンをニヤニヤと笑いながら覗き込むと、アリオンは思いっ切り顔を背けたと同時に告げる。


「とにかく、だ!今は許す気ねえんだよ!」


「頑固ー」


 横を向いたアリオンの頬をつついてやる。

 アリオンはちらっと私を見てきた。


「……やっぱりユーヴェンの事告げ口すればよかったな……」


 その言葉に目を丸くする。


「ちょっとアリオン。ユーヴェンの友達だから言わなかったんでしょ?今更意見翻すの?」


 責めるような目で見ると、ふいっと目を逸らされた。 


「アレンがエーフィに近づく事を許さなきゃいけなくなるくらいなら俺はユーヴェンを売る」


「そんなこと言い切らないの!」


 まさかの親友を売る宣言に思わず怒る。


 ――全く妹の事となると融通がきかないんだから……!そこはお兄ちゃんとそっくり!


 アリオンと兄が仲の良い理由が分かる。絶対に同類だからだ。


「まだエーフィには彼氏とか早えんだ!」


 顔を背けたまま言うアリオンに溜め息を吐く。


 ――恋愛が早いって言わないだけマシなのかしら……。


「もー、あんたは……いつまでもそんなんじゃエーフィちゃんが可哀想よ?お年頃なんだからね?」


 そう言うとぐっと難しい顔をする。


 アリオンは基本的にエーフィちゃんの事となると弱いのだ。


 唸るようにしながら、アリオンは絞り出す。


「…………アレンが、今の俺と同じ歳になったら……考えてやる……」


「はあ……あんたにしては最大限の譲歩かしら……」


 ちょうどエーフィちゃんが学園から卒業する年だ。


 ――たぶん何年も一途じゃないと許したくないのね……。


 それで同じ歳になるまで、なんだろう。


 言ったアリオンは項垂れて悔しそうに呟く。


「うう……エーフィ、ちっせえ頃はお兄ちゃんと結婚するって言ってくれてたのに……!」


 私も昔兄に言われた事がある言葉に思わず呆れる。

 あれはアリオンとユーヴェンと仲良くなった頃だっただろうか。……その頃はそんなんじゃないから!と兄に何度も言っていた。


 ――それが今はなんだかアリオンとの事応援されてるみたいなのよね……。


 やっぱり仲良くなったからなんだろうか。


 アリオンの項垂れた頭を軽く撫でて、兄にするように適当にあしらってみる。


「はいはい、落ち込まないのー。アリオンお兄ちゃん」


「!!」


 私の言葉と同時にバッと顔を上げて凝視してきたので、眉を寄せる。


「何?」


「……いや……なんか、ローリーに……お兄ちゃん、なんて呼ばれんの……なんか、新鮮、でな……」


 恥ずかしそうに顔を赤めて目を逸らすアリオンに、私まで恥ずかしくなって顔を背けた。


「きゅ、急に何よ!?」


 確かにアリオンの事はお兄ちゃんみたいだと思ってはいても、流石に兄とは違うからお兄ちゃんなんて呼んだことはない。


 アリオンは口元を緩ませながら言ってくる。


「……アリオンお兄ちゃん、って呼ぶローリー、なんかすっげえ可愛かった……」


 その言葉に思わずカッと顔を赤く染めた。


「あ、アリオンのバカ!」


「はは」


「もー!」


 笑ったアリオンを軽く叩く。

 アリオンは楽しそうに私の頭を撫でた。


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