よくある光景
「よう、ローリー」
紹介の次の日。ユーヴェンとアリオンと会う約束をしていたので、中央広場のベンチで待っているとアリオンがやって来た。
「あれ?早いわね」
街の中央に設置されている時計塔を見ると、まだ待ち合わせよりもだいぶ早い。アリオンはいつも早めには来るけれど、こんなに早いのは珍しい。
「今日早朝の番だったからな。終わってからそのまま来た。お前も早いじゃん」
「私は待ち合わせ時間まで買い物して過ごしてたからね。今は休憩中だったの」
そう言って隣にある荷物を叩く。
「はは、でもお前いつも大体早いじゃん」
空いている方の隣に座りながら笑う。
「うるさいわね。アリオンだっていつも待ち合わせの十分前くらいには来てたじゃない」
「お前が早く来てるだろうと思って話し相手になりに来てたんだよ」
「ならもっと早く来なさいよ」
「わがままだなー。俺にもゆっくりする時間はあってもいいだろ?」
ああ言えばこう言うアリオンに溜め息をつく。
「はいはい、そーね。コーヒー飲む?買ってくるわよ」
「お、いーのか?」
「仕事お疲れ様ってことで奢ってあげるわよ。その代わり荷物しっかり見てて」
「わかった。ありがとな」
立ち上がりながら言うと、片手を振って応えてくれた。アリオンがそのまま来たということはご飯は食べてないのだろう。ついでに屋台でご飯ものも買ってこよう。
そう考えて広場にある屋台に向かった。
コーヒーと野菜と牛肉が挟まれたサンドイッチ、鳥の焼串を持って戻る。美味しそうだったので自分の分も買ってしまった。
落とさないように気をつけながらベンチまで戻ると、アリオンが二人の女性に話しかけられていた。いつものことなのですぐに戻れないことに溜め息を吐きながら、成り行きを見守る。あまり巻き込まれたくはない。
「可愛い君達から誘われるなんて光栄だな。だけど今、僕にとってとても大切な人を待っているんだ。だから君達とは一緒に行けない。ごめんね」
無駄にキラキラした笑顔と優しげな声で言いながら断っている。
「あ、あの、名前だけでも教えてもらえませんか?」
キラキラの笑顔にやられてしまったらしい。食い下がられている。
助けた方がいいだろうか。どうするか考えているとアリオンと目が合う。
あ、しまった。反射的にそう思って、身を引きそうになる。
「ロナ!」
こういった時に使う愛称に近い偽名を出されては仕方ない。アリオンの芝居にのろう。
アリオンはキラキラした笑顔を更にキラキラさせる。
「僕の為に色々買ってきてくれたんだね。遅いから心配したよ」
そう言って私の方に駆け寄ってくる。逃げるなよ、と言われている気がする。逃げる気はないわよ、という意味を込めて歩み寄る。
「ごめんなさい、リオ。貴方の為にと思って買いすぎてしまったわ」
私もなるべくキラキラした笑顔を心がける。こういった場面はやり慣れてしまっているぐらいだ、大丈夫だろう。
さあ、愛称という名の偽名は教えたしそろそろ去ってくれないかしら。あんまり見られたら手に持っているものがこの雰囲気とミスマッチだとバレてしまう!
「ロナ、僕が持つよ。大切な君に重たい荷物なんて持たせられないから」
ぱっと荷物をアリオンが持つ。女性達からは見えない位置だ。流石よくわかってるわね。
その女性達と目が合うと、私は不安そうな演技をしてアリオンを見る。そのアリオンはまるで愛しいものを見る笑みで……具体的に言うとアリオンが姉や妹に向けているような慈愛に満ちた笑みだ。
「ごめん。僕はとても大切なこの人を悲しませたくないんだ」
そう言ってアリオンが女性達を申し訳なさそうな顔で見ると、女性達も互いに顔を見合わせてから流石に申し訳なさそうな顔をした。
「いえ、こちらこそすみませんでした」
頭を下げて足早に去っていく。
その後姿が完全に見えなくなってから、ベンチに乱暴にもたれかかった。