可愛い一面
アリオンを見上げながら、言いたい事を少し纏めてから話し始める。
「……あのね、ほんとは……カリナとユーヴェンと私の三人で遊んだ日、カリナ達に行けないって伝達魔法を送った後……アリオンを、呼ぼうと思ってたの……」
アリオンは目を瞬く。
「そうだったのか……。なんでやめた?」
重ねた手を優しく撫でながら聞いてくれるアリオンに答える。
「……実は……その後、アリオンを見掛けた……ううん、声を聞いただけなんだけど……」
「?そん時話し掛けてくれりゃよかったぞ?お前が見掛けたの街の巡回中だろ?少しぐらい話しても問題ねぇよ。市井の人の話を聞くこともあっからな」
アリオンは不思議そうに眉をひそめながら言う。
――話し掛けて……よかったのね……。
私が思ったような事など全く意に介していないアリオンの言葉にほっとした。
「うん……その、その時は話し掛けようか迷ったけど、やめたの」
「やめる必要なんてねえのに……」
口を尖らせて拗ねるアリオンに頬が緩む。やっぱりアリオンは私に優しい。
少しだけ目を伏せながら、アリオンにあの時の思った事を話す。
「……私ね、アリオンが……私が頼んだカリナとスカーレット以外の……女性に素で話してるの、その時初めて聞いたの」
「え?……おう?」
わからないように首を傾げるアリオンをちらりと見上げる。
「アリオンにもね、私の知らない交友関係があって……もしかしたらいつか……そ、その……す、好きな人、とか……か、彼女……とか、できちゃうのかもなあって……その……その時、初めて想像したの。そ、それでね……アリオン……いつか私から離れていっちゃうのかなって……怖くなったの……」
「!!」
アリオンが灰褐色の目を見開いた。その目を見つめ返して謝る。
「私ね……いつも私に優しかったアリオンから……もう構えない、とか言われるの……嫌だったの……。だからね、私の方から離れようとしちゃったの……。ごめんね、アリオン。私自分の事ばっかりだった。アリオンも、突き放されたって感じて落ち込んだって言ってたでしょ?……ごめんなさい。私が」
「ローリー」
アリオンが謝るばかりになってきた私の言葉を遮って額を私の額に当てる。
繋いでいた手を絡めて握ってくれた。
それに、私まで目を見開く。
視界の中で、アリオンが優しく微笑んだのがわかった。
「俺がローリーを突き放す事なんて、何があったってねえ」
力強くて優しい言葉に、目が潤む。
「……うん」
頷くと同時に私も笑みが溢れた。
アリオンは微笑みながら告げる。
「ローリー、俺も……ほんとはいつかお前が俺から離れていくんじゃねえかと思って怖かった。メーベルさんやキャリーともっと仲良くなって、いつか俺とあんまり話さないようになる日が来るんじゃないかって……怖かった」
アリオンの言葉に目を瞬かせる。
「そんな事しないわよ。アリオンはアリオンだから話したいの……。カリナやスカーレットとはまた別だもん」
アリオンもきっと私と同じように不安だったのだろうと思う。
だからしっかり否定する。
ずっと大切な友達だったアリオンと話さなくなるなんて、私の方が嫌だ。
アリオンは弱く笑った。
「俺だって、ローリーはそんな事しねえだろうなって思ってたけど……やっぱり怖かったんだよ。……それでも、もしローリーがユーヴェンとくっつくなら、俺と疎遠になる事なんてねえなって思ってた」
「!!あんた、そんな事思ってたの?」
アリオンの言葉に目を丸くした。その後思わず睨む。
それは自分から何も行動するつもりがなかったって事だ。ムッとして頬を膨らませると、アリオンが苦笑した。
「しょうがねえだろ。自分の気持ちにも気づいてなかったんだ」
「むー……」
不満を顔に表していると、重ねた手を一度撫でてから頭をゆっくり撫でてくれる。
「今はユーヴェンにも……誰であっても、お前を渡す気ひとつもねえから」
「うん……」
その言葉に安堵しながら、アリオンを見つめる。
アリオンは優しく頭を撫でながら額を離して、苦笑交じりに話す。
「ユーヴェンがメーベルさんを好きになって、お前もユーヴェンへの気持ちを否定して……そうしたら、何でローリーを引き止めればいいかわかんなくって怖かった。でも、お前は俺が彼氏だと思われてていい、なんて、全く俺から離れていこうとも考えてもいない事に安心してた。そんな時に、お前を好きな気持ちに気づいたんだ」
髪を撫でていた手が、軽く髪を梳いて頬を優しく撫でる。
アリオンの大きな手で触れられるのは、全然嫌じゃない。
――……言ったら駄目なんだけど……。
スカーレットとカリナの話を思い出しながら、アリオンの愛しげな目に胸がきゅうっとなる。
私の頬を軽く撫でるアリオンの親指が、とても優しい。
「気づいてからは……最初は迷った。でも……マスターやリックさんから背中を押されたら、すぐに腹は決まった。だって……ローリーの事、初めて会った時からずっと好きだったんだ」
「アリオン……」
灰褐色の瞳が私を映しているのが見える。
「七年以上、ずっとローリーだけを見てた。だから今更諦めるなんて無理だったんだよ。……告白したら、お前は俺を好きになりたいって言ってくれるし……ほんとに……ローリーが、愛しい」
柔らかく笑んだアリオンを私は吸い込まれるように見つめた。アリオンの言葉にくらくらとしてくる。
そんな私にアリオンはふっと笑った。
「にしても、お前……ほんと俺の事けっこう好きだな!」
「う……」
アリオンが嬉しそうに笑って言った言葉に、思わず呻いて目を逸らす。
「俺に突き放すような事言われるのが嫌で、先に俺を突き放したんだな?あー……なんだよ、もう。お前、俺を突き放そうとした理由まで全部可愛いとか……俺はローリーをどうしたらいいんだよ……」
そう言いながら頬を緩ませたアリオンは、私の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「わっ!ちょっとアリオン!」
「ほんっと可愛いな、ローリーは!」
無邪気に笑いながら遠慮なく頭を撫でるアリオンは、いつものかっこいい感じとは違って幼い感じで可愛い。
今日は可愛いと思う事がなんだか多くて、そんなアリオンをもっと見たい、なんて思ってしまう。
それに幼い笑顔は、なんだか昔を思い出す。懐かしくて、温かい記憶。
頭をくしゃくしゃにされてしまったけれど、一頻り撫でるとアリオンは髪を梳いて整えてくれる。髪を通っていくアリオンの指が少しくすぐったい。
アリオンは私の髪を梳いて整えながら、言葉を漏らす。
「あー……ローリーをとことんまで甘やかしてえな……」
「……なんかもうだいぶ甘やかされてる気はするんだけど……」
アリオンの言葉に思わず突っ込む。
怒られたりもするけど、アリオンが怒ることなんて私の事を考えてくれているからこそ怒るだけだ。昨日のリュドさんの話で更にそうだとわかった。
それ以外は私の我儘を基本的に聞いてくれるし、甘やかされ過ぎていると感じるくらいだ。
「でももっと、俺はローリーを甘やかしてぇ」
そう言いながらアリオンは優しく私の髪を梳いてくる。
大きな指が時折地肌に触れながら梳かれているのが気持ちいい。
その気持ちよさに目を細めた。
「アリオンのばか……」
小声で悪態をつくと、アリオンは優しく笑った。
アリオンの笑みに、私も笑って返した。




