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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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いつもの褒め言葉


 一頻(ひとしき)り撫でてくれた後、髪をゆっくりと梳きながら、アリオンは私をじっと見つめる。それに目を瞬かせていると、零すようにアリオンが告げた。


「……好きだ。ローリー」


 蕩けたような笑みで言われた言葉に、顔が真っ赤に染まる。


 アリオンの言葉はいつも甘いけれど、なんだかいつもよりも甘く感じてしまう。


「ほんと……ローリーは可愛くって綺麗で……それでいてすっげえかっこいい、俺の、愛しい人だよ」


 肩に回っている腕の力が少し強まったのが分かった。


 かっこいい、はよく言われた言葉だ。……もしかして、アリオンは気持ちに気づくまで可愛いとか綺麗とかは言ってくれなかったけれど、『かっこいい』という言葉が気持ちに気づく前のアリオンにとっては最大級の褒め言葉だったんだろうか。


 気づいたら、何度言われたかも分からない程言われている事を思い出してしまって恥ずかしくなってくる。


「はう……」


 思わず声を漏らすと、髪を梳いていた手が頬を包んだ。

 アリオンの少しごつごつとしている大きな掌が、私の頬を覆っている。

 目をきょろきょろと動かしてしまう。この状態は落ち着かない。心臓がまた大きく鼓動を鳴らす。


「頭抱きかかえて俺を甘えさせてくれるんだもんな、ローリー。惚れ直すよ」


「あ、あまえ……!?」


 にっと笑いながら言ったアリオンの言葉に目を見開いて叫ぶ。


「そうだろ?俺の頭抱え込んで、俺の弱音聞いて、頭撫でてくれる……昔っからかっこいい、俺の大切で大好きな人だよ、ローリーは」


 アリオンは無邪気に笑って言うと、両腕を肩に回して私を更に抱き締めた。


「ん……」


 抱き締められて声が漏れると、頭を頬ですりっとされる。


 ――し、心臓が破裂しそう……!


 アリオンの甘い言葉と行動の両方に、はち切れそうなくらい心臓が跳ねている。耐え切れなくなってぎゅっと目を瞑った。


「好きだよ、ローリー。初めて会った時からずっと、好きだ」


 声が耳元近くで聞こえてくる。低くて甘い、アリオンの声。


「お前と過ごしていく毎に、もっと好きになっていった。今もそうだ。ローリーの事が愛しくなっていくばかりだ」


 目を閉じたら、アリオンに抱き締められている事実を更に感じる。アリオンの声も、心臓の鼓動もよく聞こえてきて……このままでいたい、なんて、思う。


 どうしてだろう。心臓が壊れそうだから離れたいのに、離れたくない。


 逞しくて私をすっぽりと覆うアリオンの腕と、少し硬い胸板。耳元で響くアリオンの低い声。


 心地良くて……もっと、と願う気持ち。


「アリオン……」


 胸が締め付けられて、息まで苦しい。そんな中で目を開きながらアリオンの名を呼んだ。


「なんだ?」


 優しく問い掛けてくれたアリオンを見上げる。そうすると灰褐色の瞳がこちらを向いた。

 何かを言いたいのに、何も出てこない。


 ――私はアリオンに……何を、伝えたいん、だろう……。


 何かを伝えたかった。でも、それが何かわからない。それがなんだか情けなくて少し落ち込む。


 そんな私を優しく見つめていたアリオンは、髪をとかすように頭を撫でながら言う。


「ローリー、焦んなくていい。好きになってくれるまで、ずっと待つよ。……七年でもな」


 最後に付け足されたアリオンの言葉に目をパチパチとさせてから、思わずアリオンをジト目で見る。

 アリオンはふっと笑った。


「ちょっと、流石に七年はないわよ……」


 口を尖らせながら突っ込むと、アリオンが眉を下げた。


「俺が鈍感にも気づかなかった期間なんだけどなー……」


 アリオンが自嘲したように言うので、笑ってしまう。


「ふふ。……そうね、鈍感だったわね」


 アリオンにはマスターの推測は黙っておこう。それで、私と同じく鈍感だった、って事にしといてもらおう。


「……ユーヴェンの事があったにせよ、もっと早く気づいてもよかったよな、俺……」


 同意した私の言葉を聞いて、アリオンが落ち込むように言うのでふふっと笑う。


「……アリオンも、鈍感でいいの。私も鈍感だったもん」


「俺を道連れにするつもりか、お前……」


 アリオンが少し不服そうな目で見てくるので微笑んだ。


「二人共鈍感だった、でいいでしょ?」


 アリオンの気持ちに気づかなかった私と、私への気持ちに気づかなかったアリオンで、ちょうどいい感じがする。

 ……それに私だけひときわ鈍感だった、なんてちょっと嫌だ。アリオンには同じ立場で居てもらおう。


「はあ……まあ事実だな」


「ふふ、そうよ」


 溜め息を吐いたアリオンに同意すると、仕方なさそうにアリオンは笑った。


 私の頭を撫でながら零すようにアリオンは話す。


「……あのユーヴェンでさえ気づいてたからな……」


 その言葉には眉を寄せて悔しがる。


「ユーヴェンに遅れをとったことが一番の不覚だわ……!」


「だよなぁ……。流石に気づいてても学園後半かと思ったら違ったからな……」


「……ユーヴェン、私を紹介した時に一目惚れって認識してたなら、初めから気づいてたの?」


 正直にわかには信じられない。


 ――あの鈍感なユーヴェンがすぐに気づくの……!?


 ……それだけ、アリオンはわかりやすかったんだろうか。思い至ると唇に力が入ってしまった。


 しかしアリオンは首を振った。


「いや、気づいたのはお前がハイタッチもしてくれねえって怒った時だってよ」


「そうなの?」


 目を瞬かせる。それなら何故一目惚れだと思ったのだろう。

 ……いや、ユーヴェンにしては気づくのがかなり早いのだけど……。


 ――い、一年次から……気づいていたなんて……!


 もしかしてユーヴェンがわかっていたなら、周囲もわかっていたのだろうか。……それはあり得る。

 騎士団内でもアリオンの気持ちはバレていると言っていた。


 ――だってユーヴェンが気づくんだもの……!


 そう考えるとクラスのみんなに見守られていたという事だ。……恥ずかしいのであんまり深く考えないようにしよう。


 アリオンは少し恥ずかしそうにしながら続きを話す。


「おう。それで気づいたら……最初から、俺が……お前の事……その、気づいた時と同じ……い、愛しい、みたいな目で……見てたから……一目惚れだったんじゃ……って、思った、らしい……」


「!!」


 目を見開く。


 ――さ、最初から……愛しい、みたいな目って……!


 そんな目を向けられていたなんて思いもしていなかった。


 アリオンの溜め息が聞こえる。


「あいつなんでんなとこは見てんだか……。しかもフューリーも一緒だったから完璧な一目惚れだった事もバレるし」


「え?」


 不貞腐れながら言った言葉に思わず声を漏らす。


「目敏くフューリーに突っ込まれたんだよ。お前の事をずっと可愛いとか綺麗とか思ってたなら初めて見た時から思ってたんじゃないのかって」


 その言葉にまた顔が赤くなった。アリオンの話はなんで私を想っているとわかる事ばかりなんだろう。


 アリオンは大きく溜め息を吐く。


「はあー……フューリーがいなけりゃバレなかったのに……。ユーヴェンだけならぜってえ誤魔化せた」


「ふふふ」


 悔しそうに言った言葉に笑いが零れた。確かにユーヴェンだけなら突っ込まれなかったと思う。


「そんでお前と会った時の事も白状したよ……。だからユーヴェンにもう言ってもいいぞ」


「あ、うん」


 苦笑交じりに言うアリオンに頷く。

 私もアリオンと初めて会った時の事をカリナとスカーレットに話していた偶然に、なんだか嬉しくなりながら笑った。


「……しかし……キャリーとメーベルさんすげえな」


 アリオンが感心したように言ってくるので首を傾げる。


「?どしたの?」


 私が聞くと、なんとも言えない顔をして答える。


「お前からの話だけで俺が一目惚れだってバレてた……」


「ええ!?」


 アリオンの話に驚いて思わず声を上げた。


 ――え!?私の話にそんな要素あったかしら!?


「……今日は俺の一目惚れがバレる日なのかと思った……」


 遠い目をしたアリオンがぽそりと零した。

 眉を寄せながら聞き返す。


「そ、そんなのあるの……?」


「あったんだよ、今日……」


 疲れたように言ってくるアリオンに、思い出しながら問い掛ける。


「え、でもどうしてわかったのかしら……?」


 アリオンの気持ちが分かるような事を私は言っていたんだろうか。


 ――……思い出して気づく事なら、私アリオンの気持ちに気づいてるわよね……。


 情けなく思いながら、アリオンを見ると苦笑交じりに答えてくれた。


「…………ユーヴェンに黙っててくれって頼んだ事と、俺が最初からお前に素だった事でわかったんだと」


「へ?」


 目をパチクリさせた。

 なぜそれでわかったんだろうか。


 ――あ、最初から素だったのは……ただ私と素で話したかったからだって言ってたわね……。


 恥ずかしくなってアリオンの背中に回している手でアリオンのコートを掴んでしまった。

 それに対してアリオンは、頭をぽんぽんと優しく叩いて笑う。


 きゅっと唇に力を入れた。


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