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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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初めての感情


 優しく頭を撫でられていたら、この前みたいに手もぎゅっとしてほしくなってアリオンに頼む。


「アリオン……ぎゅっと、して?」


 アリオンが私の涙を拭いていた手の袖を、掴んで頼む。


 さっきは両手を絡められて恥ずかしくなってしまったけど、今は安心したい気持ちの方が強い。


「!!」


 アリオンは涙を拭いていた手を止めて、目を見開く。


「駄目?」


 きゅっと袖を引っ張ると、アリオンは緩く微笑んで頷いてくれた。


「……わかった。ぎゅっとしてやる」


「うん……」


 アリオンが握りやすいように袖から手を離した。アリオンは髪を梳いてくる。


 ――そのまま撫でててくれればいいのに……。


 そう思って、むっとした瞬間。


「ん、ほら」


 アリオンの手が肩に回って、ぐっと引き寄せられた。アリオンの広い胸に顔が埋まる。


「ひゃ……!」


 思わず声が漏れた。


 アリオンの逞しい腕が、肩の辺りに回っているのが分かる。すっぽりと腕の中に収まっている状態に、全身に熱が回った。


 ――え!?だ、抱き締め、られてる……!?


 混乱しながらアリオンを見上げると、眉を下げたまま優しく笑った。

 アリオンの腕の中は温かくて安心するのに、心臓が壊れそうなぐらいに早くなってしまう。


「……あ……アリオン、抱き締めて……くれる、の……?」


 思わずそう聞くと、アリオンが目をパチクリとさせた。


「……え?」


 その呆けたような声に気づく。


 ――私が「ぎゅっとして」なんて、曖昧な言い方したからよね……!


 こんな曖昧な言い方をしていたら、スカーレットとカリナにまた怒られそうだ。


 ――最近アリオン、抱き締めたいとか言わなくなってたから……もうしないのかと思ってた……!


 ポカンとしているアリオンに、恥ずかしくなって目を伏せながら説明する。


「……んと……手をぎゅっとしてくれるのかと……思ってたの……」


「!!わ、悪い!」


 慌てて肩から手を離したアリオンの背中を、軽く掴む。アリオンの胸にひっついた。


「離れちゃやだ……。このままがいい……」


「ぐっ……!……可愛い……!」


 そう呟いたアリオンはもう一度肩に手を回して抱き締めてくれた。


「抱き締めてくれるの、嬉しいの……。……その……されて、みたかった、から……」


 笑みを零しながら言うと、アリオンが恥ずかしそうにしながら口を開く。


「…………キャリーとメーベルさんから聞いてたんだよ……。お前がそう言ってたの。だから……その……つい……」


 目を逸らしながら言ったアリオンの言葉に目を細める。


 カリナとスカーレットが言ってくれていた事に嬉しくなった。


 ――だからこうして抱き締めてくれたのね……。


「ふふ、そっか……。嬉しい……」


 アリオンの胸に寄り掛かると、アリオンは片手を私の頬に軽く当てた。もう片方の手は肩に回ったままだ。


 抱き締められたままの状態に、ぎゅうっと胸が詰まる。


 アリオンが涙を通った頬を、優しく親指で撫でる。少し目の端に残っていた涙を、同じ手に持っていたハンカチを優しく当てて拭ってくれた。それを目を瞑りながら受け入れる。


「ん……。泣かせちまったな……泣かせるつもりなんか、なかったのにな……」


 アリオンが申し訳なさそうにしているので、言いたい事を言った私は眉を下げた。


「抱き締めてくれたから、涙止まったわよ?……だからそんな顔しないで、アリオン……」


 アリオンの背中を掴んでいた手の片方をアリオンの頬に当てる。


「……ん……。ローリー……悪い、心配させちまった……」


 眉を下げたアリオンはそっと私の頬を撫でた。

 私は悲しそうなアリオンの灰褐色の瞳を見つめて、問い掛ける。


「私はさっき全部アリオンに吐き出したし、泣いたから……もういいの。アリオンだって辛かったんでしょ?そんなに自分を責めちゃうくらい、悲しかったんでしょ?」


 アリオンだって傷ついたから、私に対してあんなに変な気を遣い始めたはずだ。優しいアリオンの事だから、私を傷つけてしまったと、自分を必要以上に責めてしまったのだろう。


「!!」


 アリオンは私の言葉に目を見開いた。


「ね、アリオンは……あの時どんな気持ちだったの?……やっぱり、辛かったわよね……?」


 今まであの時の気持ちに触れた事はなかった。アリオンがとても気にしていたから、私は気にしていないとずっと伝えるようにしていた。


 アリオンがぐっと顔を歪め、一度目を瞑った。そして私の頬から片手を離すと、両手で私を抱き締めた。私も両手をアリオンの背中に回してアリオンのコートを掴む。


 暫く互いの息遣いと暖炉の薪が爆ぜる音しか、聞こえなかった。

 私はアリオンのコートを握っていた手でぽんぽんと背中を叩いてみる。

 アリオンはピクリと反応して、抱き締めてくれている腕に少し力が籠もった。


 アリオンは躊躇ったように息を吐いてから、少し小さな声で話し始めた。抱き締められていると、アリオンの表情は見えない。


「…………お前が俺が自分を責めるのを望まねぇのはわかってた。けど、俺は……それでも自分を許せなくて責めてた」


 きゅっとアリオンのコートを握っている手に力を入れる。


「ローリー……俺な、お前に一目惚れだったんだよ」


「!!」


 アリオンの言葉に目を丸くする。思わずアリオンの顔を見上げてじっと見つめた。

 すると視線に気づいたのか、アリオンが少しだけ腕を緩めて私の方を見て柔く微笑む。


 カッと顔が赤く染まった。


 ――ひ、一目惚れ……!?


 きゅっと唇に力を入れる。


 アリオンは私を見つめたまま続きを話す。


「ユーヴェンに今日言われたんだよ、俺がお前に一目惚れだったって……。それで考えたらな……確かにそうだった。……まあユーヴェンが一目惚れしたと思ってた時はお前を紹介された時だったんだけどな。初めてローリーと会った時の事は言ってなかったから……」


 苦笑交じりに言うアリオンに目を瞬く。


 ――……え、ユーヴェン……アリオンの気持ち、知ってたの!?あの鈍感なユーヴェンが!?


 しかもアリオンの話的にかなり初めの方から分かっていたようだ。


 鈍感なユーヴェンまで気づいていたアリオンの気持ちに一つも気づかなかった自分に少し落ち込んだ。


 アリオンはふっと笑って続ける。


「初めて見た時、俺は……ローリー、お前の瞳を綺麗だな、なんて思ってたんだよ。そんで少し話しただけでも……綺麗で可愛い子だなって思っててな。お守り拾ってくれた優しい所も、眩しく感じてた。入学試験、授業についていけなかったら嫌だななんて考えてやる気なかったのに、お前が賢そうだったから上のクラスかもしれねえって思って頑張ったんだ」


「へ……」


 ――え、なんだか……それは……ほんとに、一目、惚れ……。


 かぁーと熱が上っていく。


 アリオンと会った時の事は私だってよく覚えている。今日もカリナとスカーレットに話したのだ。


 アリオンは懐かしそうに目を細めた。


「そしたらほんとに上のクラスにいて、おんなじクラスになれた。そんでもう一回お礼を言えるって思ったんだ」


「そう、なの……」


 まさかあの時アリオンがそんな風に思ってたなんて知らなくて、心臓が早鐘を打ち始める。


 そう言えば、アリオンと初めて会った時の話をする事なんてほとんどなかった。


 ――黙っててくれって言われたから……話題にした事なかったわ……!


 そう考えると、更に緊張する。


「お守り失くした時は焦ってたから、お前に素で接しちまったんだけどな。二回目話し掛ける時は、お前を困惑させねぇようになんて考えて、また素で話し掛けた」


 優しく笑ったアリオンに、私もコクリと頷く。


「うん、そう言ってたわね……」


「今思うと、俺はただ単に……入学試験で出会った可愛くて綺麗な優しい子と、また素で話したかっただけなんだろうけどな」


「!!」


 愛おしそうな笑顔を浮かべて言ったアリオンの言葉に目を丸くした。

 顔が更に赤く染まっている気がする。


 何かを言った方がいいのかと思って、口を開いたり閉じたりするが、何も言葉が出てこない。


 アリオンは私を見つめて柔く笑む。片手を頬に添えられる。

 それにピクリと反応した。


 心臓が、鳴っているのか分からないくらいに、くらくらしてくる。


「思った通り優しい子で、笑顔が素敵だな……なんて思って。でも、それ以降はむしろ素で話し掛けちまったから、なかなか話し掛けられなくなった。ユーヴェンが学園祭の委員でお前と一緒になった、なんて報告してきたから羨ましく思ってた。学園祭の委員なんて興味もなかったのに、立候補すればよかったって後悔した」


 するりと頬に触れていた手が、髪を耳に掛ける。


「ん……」


 思わず声を漏らすと、アリオンが緩く微笑む。


「そしたら、ユーヴェンがお前を連れてきた。仲良くなったからって紹介して。……お前がユーヴェンの事名前で呼んでたのが羨ましかったから、俺もお前にそうしてくれって頼んだ」


「アリオン……」


 アリオンは確かユーヴェンの友達ならって呼び捨てでいいって言ってくれた。だから、私も呼び捨てでいいと返したのだ。


「そしたら、お前も……ローリーって呼べばいいなんて言ってくれて、嬉しかった。それに、ユーヴェンからの紹介なら……きっと、素で話してもおかしくない、なんて思ってた」


「!!」


 それは、アリオンは私と素で話したかった、という事だ。耳まで熱くなってきた。


「俺はその頃から……お前が好きだった。でも初めての感情だったから気づかなかったんだ。ローリーを見たり考えたりして感じる、優しくて温かい気持ちがなんだか嬉しくて幸せだった」


 柔らかい微笑みに胸が締め付けられる。


 ――その気持ちのままで、いてほしかった。


 もう過ぎてしまった、決して叶わない願いだ。


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