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声にならない言葉


 拗ねているアリオンに伝えたいと、頑張って素直になろうと考えた。アリオンの服を掴んで、見上げながら話す。


「………あの、私も……その……アリオンを、す、好きに……なりたい、から……その……えっと……い、今は……アリオン、しか……見てない、わよ……?」


 少ししどろもどろになりながら言うと、アリオンはぐっと顔を寄せながら呟いた。


「ぐっ……!すげえ可愛い……!」


 その言葉に嬉しくなって頬が緩む。更にアリオンに今日気づいた事を伝えようと話を続ける。


「あの、あのね、アリオン……私……その……今日、カリナと話しててね……気づいたの……」


「ん?何をだ?」


 不思議そうにしているアリオンに、答える。


「えっとね……わ、私……カリナとユーヴェンの事を話してる時……もう、胸が痛まなかったの」


「!!」


 アリオンの見開いた灰褐色の目が綺麗だ。

 その瞳を見つめたまま告げる。


「いつもはね、思い出して……なんだか心臓が跳ねたり、胸が痛んだりしてたの。……でもね、全然痛まなかったの。カリナとユーヴェンがうまくいったらいいなって心から思えたの」


 アリオンは私の言葉に、すごく嬉しそうに微笑んだ。ぎゅっとアリオンの服を握る。


「うん、そうか」


 アリオンの低くて優しい声に、勇気をもらう。


「だ、だからね……あとは……アリオン、を、す、好きに、なる……だけ、なの……」


 真っ赤になりながらそう言うと、アリオンはぐっと腕に力を入れた。アリオンの顔と同じ高さになる。

 アリオンは頬を緩めた蕩けるような笑みだ。


 心臓が早鐘を打つ。


「おう……。楽しみだな」


 そう言うと、額にコツンとアリオンの額を合わせられる。アリオンの優しい灰褐色の瞳と、私の碧天の瞳が絡んだ。


 近さに緊張しながら、アリオンに問う。


「…………ど、どのくらい……す、好きに……なったら……いい?」


 たぶん、アリオンにしかこうしてドキドキしないのだから……好きに、なってきていると思う。

 でも、どのくらい好きなのかは、わからない。


「え?……あー……そりゃ、ローリーが……俺を、好きになって……くれるなら……どのくらいでも、俺は……嬉しい、けど……」


 アリオンは驚いたのか、額を離しながらそう言う。少し目を逸らした顔は赤くて、口元も緩んでいる。


 それなら、今結構好きになっている事を言ってもいいのだろうかと、口を開いた。


「あの……アリオン」


 そして……口を開く。


「うん、どした?」


 アリオンは優しく聞いてくれる。

 それにぎゅうっと胸が苦しくなる


「あの……その…………えっと……」


 なのに、続きが出てこない。


 ――あ、アリオンを……今……結構……す、す、す……き……って、言う……だ、だけな……はず……なのに……。


 好き、その言葉がアリオンを真っ直ぐ見ていると……苦しくなって、詰まって、声にならない。


 カリナやスカーレットには言えていたのに。さっきだって、好きに、なりたい、とかまではちゃんと言えていた。


 ……思えば唇へのキスだって心構えできていない。額へのキスだけでも私にとってはいっぱいいっぱいだった。


「うん」


 アリオンの優しい表情と声はそのままだ。


 早く伝えたい、けど……まだ、声に出せない。アリオンの想いに応えるのは早いのかもしれない。


 ――それに……こんなに甘いんだもん……。付き合ったら……もっと……甘かったら……どうしよう……。


 それに心臓が耐えられる気がしない。


 だから、今出せる言葉は。


「……………………頑張る、から……」


 そう呟いた。


 ちゃんとその辺りの心構えができてからにしよう。まだ言えないのは少し早いのかもしれない。


 それに、みんな焦らずにゆっくり好きになればいいと言っていた。……きっとまだ早いのだ。


 ――あっ!それにこんなに早いなんて……コロッといっちゃってるんじゃない、私!?


 コロッとじゃ駄目だ。ちゃんとアリオンの事を好きにならないといけない。


 ――アリオンが甘過ぎるから……!


 少しだけアリオンをジト目で見ると、蕩けるような甘い笑みを浮かべていた。

 きゅうっと胸が締め付けられる。


「そうか、嬉しい。あー……ほんと好きだ、ローリー」


「!!」


 ぐっと抱き締めるように抱きかかえてられて、アリオンの胸に私の体が寄る。


「ずっと、伝えてえな。お前を大好きだって事」


 頭に頬を当てられて、すりっとされた。くすぐったくて、震えてしまう。

 心臓が、信じられないくらい鳴っている。


「う、うん……」


 頷きながら、考える。

 ……ちゃんと好き、なのかどうかはよくわからないけれど。


 ――あ、アリオンみたいに……好きって……伝えたく、なったら……かしら……。


 アリオンは私にいつも気持ちを伝えてくれる。アリオンと同じくらいの想いを返すなら、せめて好きと伝えられるようになったら、という感じがする。


 ――それに……伝えられないのは……だ、駄目よね……。


 さっきは何故だかアリオンを見たら胸が苦しくなって、言葉が出てこなくなった。まずは伝えられるようになったら、だろう。


 アリオンは頬を離すと、にっと笑いながら話してくる。


「そーいや、ユーヴェンに言っといたぞ、ローリー」


「!今日会ったの?」


 その言葉に驚く。昨日はいつ言えるか分からないと言っていたのに。


 ――アリオン、ちゃんと言ってくれたんだ……。


 だんだんと、アリオンだけへと気持ちを向けられているのが嬉しい。


「おう、あいつ今日出勤だったんだよ。そんでキャリーが帰った後フューリーと少し話してたらユーヴェンが来てな。俺を探してたんだと」


「へえー」


 スカーレットが帰った後もフューリーさんと話していたなんて、やっぱりスカーレットの言う通り仲がいい。馬が合うんだろうか。


「ローリー」


 アリオンがすごく嬉しそうに笑いながら、私の名を呼ぶ。

 それに心臓が跳ねた。恥ずかしいので悟られたくなくて、首を傾げて必死に平静を装う。


「なに?」


 アリオンは無邪気に笑った。


 ――心臓に……悪い……!


 アリオンの無邪気な笑顔はいつもより少し幼く見えて……可愛い。


 ――アリオンに可愛いなんて言ったら絶対に拗ねるけど……。


 いつもはかっこいいんだから……別に時々可愛いくらいいいと思うけれど、アリオンが不貞腐れそうなので言うのはやめておこう。


「ユーヴェンが俺を探してたの、お前が俺に会いたがってたって言う為だったんだよ」


 無邪気な笑顔で言った言葉に、目をパチクリとさせた。


「……へ?」


 間抜けな声を出すと、アリオンは更に楽しそうに笑う。


「昨日ユーヴェンと帰ってる時、俺の話ばっかだったって聞いたぞ?お前って昔、リックさんがいなくて寂しい時はリックさんの話ばっかになってたよな?……俺と会えてなくて寂しかったか?」


「……!!」


 思わずバシバシと叩く。


 ――そんな癖知らない!


 そう思いながらも、確かに会えてなくて寂しかったからマスターのお店に行ったのだ。


 ――ユーヴェンが気づくなんて思わなかった……!


 そんなにアリオンの話ばかりしていただろうか。……ユーヴェンがアリオンと話してるのが羨ましくて、アリオンが今どんな感じなのかを尋ねていたような気はする。


 アリオンはまだ楽しそうに笑っている。


「はは、また叩く。ローリーは本当に可愛いよな。俺にまでその癖出てくるんだな?」


 そう言ったアリオンは私を愛しそうな眼差しで見る。


「し、知らないもん!」


 その眼差しに恥ずかしくなって言うと同時に顔を背けた。

 アリオンはそんな私を抱き締めるように抱えながら、言ってくる。


「好きだ、ローリー。お前の行動も言動も、何もかも、可愛い」


 その言葉にアリオンを見ると、緩んだ優しい笑みで私をじっと見つめていた。その瞳は、熱い。


「……!!アリオンのバカ!ほら、話するわよ!降ろして!」


 カッと赤くなって、思わずそんな事を言ってしまう。


 でもずっとは抱えてなんかもらえないし、ちょうどいい頃合いだったかもしれない。

 離れる前に少しだけ、アリオンに寄り掛かった。


「わかったよ。愛しいローリーの言う通りにするか」


「バカアリオン!!」


 アリオンの再度の甘い言葉に、バシッとアリオンの胸板を叩いた。……痛い。


「ん、ほらソファーに降ろすな」


 アリオンは笑いながらそう言うと、ソファーまで歩く。

 ゆっくりと腰を降ろして私をソファーに優しく座らせる。するっと支えていた腕を、肩と膝から抜く仕草に、心臓が跳ねた。

 アリオンのコートも掛かっているから、アリオンの腕なんて触れてるな、ぐらいの感覚しかないのに妙にドキドキしてしまった。


「ん、どうしたローリー?」


 私を降ろした時に床に膝を着いたアリオンが、黙ったままの私を不思議そうに見つめる。私を下から覗き込んでくるのが珍しくて、思わずぎゅっとコートを握った。


 ――アリオンに見上げられるのって……なんだか、新鮮……。


 ……ううん、確か告白された時もそうだった。

 思い当たると、カッと顔に血が上った。


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