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迂闊な言葉


 アリオンの瞳を見つめながら、近い距離に顔が熱くなってくる。


 ――あ、アリオンの事……す、好きになって……きてる、とは思うけど……こ、これ、どうすれば、いいのかしら……!?


 どれくらいになったらアリオンと付き合ってもいいのだろう。アリオンの想いに応えるにはどのくらい好きになったらいいのか分からない。


 ――で、でも……まだ、く、唇に……き、ききき、キス…………と、とかも……まだ……こ、心構え、で、できてない、ものね……!


 その心構えができてからだろうか。考えていると、ハッと気づく。


 ――今……キスできそうなくらい、近い……。


 気づいてしまって思わず動きたくなるけれど、流石にアリオンに抱えられて額を合わせられている状況では動けない。


 ――う、動く方が、な、なんだか……あ、危ない気が、するもの……!


 事故でキスとかは嫌だ。ちゃんと……。


 ――!!ち、ちゃんとって何!?何考えてたの、私!?


 心臓が締め付けられて苦しいのに、アリオンと近いこの状況は嫌じゃない。

 アリオンの服を思わずぎゅっと握った。


 アリオンは私がそんな事を考えている間に、ふっと笑ってから額を離した。

 なんだかアリオンに余裕があるように見えて悔しくなって、思わずバシッと叩く。


「いきなりなんだよ、ローリー」


 アリオンは楽しそうに笑っている。この笑みは私が照れた事をわかっている笑みだ。無言でバシバシと叩いてみるけれど、堪えている様子は一つもない。


「はは、痛くねえから止めとけ。お前の手の方が痛むぞ」


 その言い草に頬を膨らます。……でも鍛えているアリオン相手だと確かにその通りだ。アリオンの胸板は固い。


「ほら、頬を膨らましても俺にとっては可愛いだけだぞ、ローリー」


 にっと笑って私にそんな事を言ってくるものだから、思わず顔を背ける。


 ――アリオンの言葉って、心臓に悪い……!


 すると私の体に巻き付いていたアリオンのコートが少しずれたので直したけれど。


 ――なんでコート巻かれているのかしら……?


 アリオンの方を向いて問い掛ける。


「……ねえ、アリオン」


「なんだ?」


 私の問い掛けに首を傾げるアリオンの瞳を覗き込むように聞く。


「なんで私、アリオンのコート巻かれてるの?」


 アリオンは目をパチパチとさせてから、なぜか目を逸らす。

 ……怪しい。


「…………そりゃ、お前が寒かったらいけねえから」


 その言葉にハッとする。


「アリオン寒いんじゃないの!?」


 アリオンのさっきの様子は、嘘じゃないけど何かを隠しているような様子だった。


「俺は鍛えてるから……」


 そう言ったアリオンの頬に両手を当てる。


 ――冷たい!


 アリオンは私の行動に目を丸くした。


「ほっぺた冷たいじゃない!」


 私の言葉にアリオンは呆れた表情をする。


「そりゃ顔は冷たくなるだろ。それはコート着てても同じだぞ?」


 そうだっただろうか。


 ――……アリオンって確かにマフラー持ってる割にはあんまり巻いてないのよね……。


 ……大抵この前みたいに貸してくれる。

 それで俺は鍛えてるから、と答えるのだ。……確かにアリオンはいつも元気であまり体調を崩した事も……無かった気がする。


 ――でもいつもコートもマフラーも持ってるのよね……。暑がりなら……置いてこないのかしら……?


 ……寒くなった時の為、なのだろうか。アリオンは昔から準備がよかった。出掛ける時はいつもちゃんとハンカチもタオルも余分に持ってるし……。その癖はエーフィちゃんの為からだったけど……もしかしてコートとマフラーもその類なのだろうか。それなら納得できる気がする……けど。

 それでもやっぱり心配になって問い掛ける。


「ほんとに寒くないの?」


「寒くねえよ」


 すぐに答えたアリオンを疑うようにじっと見てから、アリオンの肩や胸を手でペタペタと触ってみる。

 さっき叩いていた時はあんまり気にしていなかった。


「!?お前ペタペタ触んな、バカ!」


 アリオンは目を見開いて叫ぶ。けれど私を抱えているから言ってくるだけだ。


 肩や胸を服の上からペタペタ触ってもよく分からなくて、アリオンのタートルネックの首元を触ってみようとする。


「バカローリー!やめろって言ってるだろ!」


 アリオンは少し睨むように叫ぶけれど、私を抱えている腕はしっかりと私を支えたままなのであまり怖くない。

 だってアリオンが私が怖がるようなことをやらないのはわかっているのだ。


 私に触られないようにか、胸を反らしてなるべく離れているアリオンの首元まで、アリオンに沿うようにしながら手を伸ばして触る。


「……っ……!」


 アリオンは顔を顰めた。そんなに触られたくなかったんだろうか。


 アリオンの首を触った感触は確かに温かった。


「確かに表面しか冷たくない……むしろあったかい……」


 そう私が呟くと、アリオンは私の手を振り払うように首を振った。


「ほら、もうわかっただろ?やめろ」


 ちょっと怒ったように言うアリオンに眉を下げて謝る。


「……そんなに嫌だった……?ごめん、アリオン……。でも、寒くないか心配だったの……」


 そう言ってぎゅっとアリオンの服を掴む。


 アリオンは困ったように私を覗き込む。


「……あー……ずりいよな、お前……。……嫌じゃねえよ……ただ……あー……ほら、お前だって急にペタペタ触られるの嫌だろ?」


 アリオンの言葉に目をパチパチとさせてから、少し考えながら答える。


「え?んー……?……アリオンが心配してるなら別に」


 アリオンがそんな事をするのなら心配しての事だろうし、別に大丈夫と答えようとするとアリオンが途中で私の言葉を大きな声で遮った。


「あー!!聞いた俺が馬鹿だった!!それ以上は言うな、ローリー!!というか、お前はキャリーとメーベルさんに怒られてたんじゃねえのか!?」


「はっ!」


 アリオンの言葉にカリナとスカーレットから言われていた言葉を思い出す。


 ――あ、さっきの言葉って……やばい!?


 私はアリオンの肩や胸、首をペタペタ触っていたのだ。それをアリオンにも大丈夫、という事は……アリオンも私にそうしても大丈夫だと肯定しているという事になってしまう。


 ――アリオンに肩や胸や首をペタペタ触られるなんて……そんなの……!


 耐え切れなくなりながら、かぁーと顔が赤く染まっていく。


 ――アリオンに聞かれたからついあんまり考えずに答えちゃった……!


 これではアリオンに怒られるのも当然に思えてくる。


「はっ!ってなんだお前は!忘れてやがったな!?」


 そのままアリオンが責めるように見るのでつい顔を逸らして言い訳する。


「わ、忘れてない……!」


 ――ちゃんと今思い出したもの……!


 しかしアリオンも私の様子ですぐに忘れていたとわかったのだろう。更に詰めてきた。


「忘れてねえならなんだ、今の反応は!?」


 目を泳がせて、もうちょっと言い訳する。


「う……。……だって……ほら、起きたばっかり、だったし……」


「やっぱり忘れてたんじゃねえか!キャリーとメーベルさんに言いつけるぞ!?」


 それではまたスカーレットとカリナに呆れたような感じで怒られてしまう。

 ちらりとアリオンを見上げる。アリオンは眉を寄せた。


 ぎゅっとアリオンの服を握りながらアリオンに言う。


「ごめんなさい……。アリオン、怒らないでよ……」


 怒られているのが悲しくて、眉を下げた。アリオンに怒られるのは苦手で、すぐにしゅんとしてしまう。


「……お前そうやって悲しそうな顔すんな……。あー……ったく……俺もローリーに弱えな……」


 アリオンはそう言うと腕に力を入れて、私はアリオンの胸に近づいた。


「ん」


 ぎゅっとされた事に、思わず声が漏れた。

 困ったように微笑んでいるアリオンに、胸が締め付けられて唇に力を入れる。


 アリオンはそのまま、私の肩を支えている手を少しだけ動かしてぽんぽんと叩く。


「ほーら、落ち込むな。ローリーがこれから気をつけるんならいいから」


 優しい声とあやすような仕草にくすぐったくなりながら、アリオンを見上げたまま聞く。


「許してくれるの?」


 アリオンはふっと笑う。

 

「俺がローリーを許さない訳ねえだろ?俺にとって一番大切な、可愛くて綺麗で大好きなローリーなんだぞ?」


「!!」


 恥ずかしいアリオンの言葉に思わず顔を伏せた。


「ほら、可愛い顔見せろよ」


 アリオンはそう言いながら、また額をコツンと合わせてくる。下を向いていた顔をそっと上げる。

 にっと笑っているアリオンの灰褐色の瞳と目が合った。何度やられても、この近さに慣れない。心臓がバクバクと鳴っている。


 恥ずかしくなってきて思わず悪態が口をつく。


「あ、アリオンのバカ……」


 すぐ目の前にいてあまり大きな声では言えなかったので、代わりにバシッと叩くとアリオンは楽しそうに笑った。


「はは」


 そのまま額を離していくので、思わずむっとしながらアリオンを叩く。相変わらず笑っているアリオンにダメージはなさそうだ。


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