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―にやけた口元―


 こめかみを抑えたままでいると、キャリーに突っ込まれる。


「あんた、付き合って……ローリーにそのまま言われ始めちゃったらどうするのよ……」


「は!?」


 ――付き合って……そのまま!?


「ローリー付き合ったらそのまま言っちゃいそうだよね……」


 キャリーとメーベルさんの言葉にぐっと黙って考える。


 確かにそうだ。こいつは『まだ』付き合ってないから、と黙っている節がある。

 ……それは、付き合ったら……なくなるのかも、しれない。


 ――それって、俺……やべぇんじゃ……!


 今だって、あの無自覚で無防備な発言をそのまま言われなくてよかったと思っていた。だが……付き合ったら、歯止めがない。


 髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。

 頭の中が沸騰しそうになって思わず叫んだ。


「……っ!!……そんなん、ちゃんと俺が考えるに決まってるだろ!こいつの様子見ながらちゃんと……って!俺は何言ってんだ!」


 叫んでからハッと気づいてローリーを見た。ローリーは少し眉を寄せている。


 ――もしかして起きるか……?


 大きな声を出し過ぎた。別に起きたら起きたでもちろん送って帰るが、わざわざ寝ている所を起こしてしまうのは申し訳なく思う。


「あ、ローリー起きちゃう?」


「少し大きい声で話し過ぎたわね」


 メーベルさんとキャリーも覗き込む。


「ふにゃ……」


 だが可愛らしい声を漏らし、気の抜けた笑顔を浮かべてもぞりと動いただけだった。


 ――めっちゃくちゃ可愛い……!!


 思わず顔を両手で抑えて悶えてしまう。顔が信じられないくらいに緩んでいる気がする。


「……あんたってさっきからこんな可愛いローリーをじっとは見ようとしないわよね……」


「うん、ちょっとだけ見てすぐに視線外してるね……」


 キャリーとメーベルさんの言葉に思考を戻す。


 少しだけ深呼吸をしてから二人の方を向いた。


「……寝顔をジロジロ見るなんて悪いだろ」


 俺がそう返すと、キャリーはジトッとした目で返してくる。


「純情ね……」


「ここは紳士って言っておこうよ、スカーレット……」


 キャリーの言葉にメーベルさんが突っ込むが、たぶん言い方的にはメーベルさんも純情だと思っているっぽい。


 やっぱりちらちら見過ぎたのかもしれない。


 ――……でもすげえローリーが可愛いから……つい目をやっちまうんだよな……。


 もう少し気をつけた方がいいのだろう。

 ローリーの方を向きにくいように少しだけ座り直す。


「……うーん」


「そうとるんだね……」


「?なんだ?」


 二人とも俺を微妙な顔で見てくるので眉を寄せる。何か変な事をしただろうか。


「なんでもないわ……。……まあローリーから聞いた限り、ブライトは信用できるし、ローリーの事を溺愛して大事にしてるから、認めてあげるわよ。せいぜい頑張りなさい……耐えるのを」


「!!」


 キャリーの言葉に目を見開く。ローリーの友人から認められるのは素直に嬉しいが……最後に変な言葉がついたような気がする。


 メーベルさんもにこにこと笑いながら言う。


「うん、そうだね。それにローリーとってもブライトさんの気持ち嬉しそうだったもん。明日のデートの事もすごく楽しみにしてたよ。だから頑張って……我慢してね」


 その言葉に目を逸らす。

 デートの事まで知られているのは少し恥ずかしい。そしてまたもや変な言葉が最後に付け足されていた。


「二人ともなんで最後に付け足すんだよ……素直に受け取れねえじゃねえか……」


 微妙な顔をしながら言うと、二人とも苦笑する。


「だって……ブライトさんローリーに対して攻め過ぎなぐらいだからそこは頑張らなくても良さそうだし……」


「そしたらあとは……ローリーのブライトに対する態度に頑張って耐えてって言うしかないわよね」


 メーベルさんとキャリーは目を合わせながらそう告げる。


 その話に少し目を伏せる。


「……やっぱり攻め過ぎなのか……」


「ローリー喜んでるからいいと思うよ」


「そうね、すごく嬉しそうに話してたもの」


 二人の言葉にほっとする。ローリーに聞いてみようとは思っていたが、早く知れてよかった。


 それにしても、俺のした事に喜んでたり嬉しそうに話されているなんて……どうしたって顔がにやけそうになってしまう。


 紅茶を飲んで自分の気持ちを整えてから返す。


「そうか……。……にしてもローリー、色々話したんだな……」


 俺もユーヴェンやフューリーに色々話してしまったと思っていたが、ローリーはもっと話している気がする。


 俺の言葉に二人はとても楽しそうに笑った。


「ふふ、たくさん聞いちゃったね。告白されてすごく嬉しかった事とか、学園時代の事とか」


「あんたがいつも甘過ぎて嬉しいけど混乱しちゃう事とか、全然触れてなかった事とか」


「ぐっ……」


 学園時代の事まで言われているならほぼ洗いざらい話しているんじゃないだろうか。

 しかし……ローリーがキャリーやメーベルさんにも嬉しかったと伝えているのが知れるのはとてもいい。


「初めて会った時の事も聞いちゃったね」


「ああ、そうね」


 言われて目を瞬かせる。


 ――ローリー、俺と会った時の事覚えてたのか……。


 まあ、エーフィからもお礼を言われてたし覚えているのは当たり前だろう。

 でもあの出来事は基本秘密になっていたので、ローリーともあまり話した事がなくて少し驚いてしまった。


「へえ……」


 しかも今日初めて会った時の事を話しているという、気の合った偶然に思わず声を漏らす。


 そんな俺にメーベルさんはにっこりと笑った。


「あ、そうだ、ブライトさん」


「なんだ?」


 なんだか嫌な予感がして眉をひそめる。

 ……なぜか既視感がある。それも今日。


「ローリーに初めて会った時から好きだったって事伝えたら、ローリーとっても喜ぶと思うよ?」


「…………え?」


 気の抜けた間抜けな声が漏れた。


 呆けた顔の俺を見て、キャリーがニヤッと笑う。


「ユーヴェンさんには初めて会った時の事を黙っていてくれ、ってローリーにお願いしてるなんて……二人の秘密にしときたかったのかしら?」


「!!」


 その言葉に目を見開く。


 ――ローリー、んな事まで……!


 いや、ローリーの事だから俺が頼んでいたから言ってもいいのか考えたのかもしれない。それでついでに言ったのだろう。


 ユーヴェン達にも突っ込まれなかった為に言ってなかった事を言い当てられて、思わず目が泳ぐ。


 そんな俺を更に追い詰めるが如く、メーベルさんもにこにこと笑った。


「初めて会った時から普通の態度なのも……もしかして一目惚れだったりしたのかな?」


 ぐっと眉を寄せて苦い顔をしてしまう。

 首を傾げて聞くメーベルさんは疑問系なのに確信していそうだ。


「ローリーとは普通の態度で話したかったのよね?」


 キャリーにも追撃されて、思わず顔を歪ませた。


 ギリッと歯を鳴らす。


「くっそ……!どうして二人ともわかってんだよ!ローリーから聞いただけだろ!?」


 顔を手で覆い、一切誤魔化せそうもないローリーの友人達に観念して、ローリーが起きないように配慮した声量で叫ぶ。


 ――今日は俺の一目惚れがバレる日なのか!?そんな日あんのか!?


 キャリーとメーベルさんの楽しそうな笑い声が聞こえる。


「ローリーから聞いただけでも怪しかったもの」


「そうだよね、やっぱり思った通りだったよ」


「ぐ……」


 その会話に思わず呻く。ガシガシと首を掻きながら憮然とした表情で二人の方を向く。


「ふふ、ローリー絶対喜ぶわよ」


「言ってあげたらいいんじゃないかな?」


 二人はそう言いながらローリーの方に目配せするので、俺もちらりと目を動かしてローリーを見る。

 相変わらず安心しきったような顔で寝ている。


 ――ローリーが……喜ぶ、か。


 俺の告白が嬉しいと笑ってくれた時のように、またそうしてくれるんだろうか。

 それなら。


「…………わかった……。……ユーヴェンにもフューリーにも今日その事バレちまったし、ローリーにも言うよ……」


 そう言って了承する。


 喜んでくれるなら、言いたい。それになんだかんだと色んな人に俺の一目惚れがバレてしまっているので、ローリーにも知って欲しい。


 ローリーがどんな反応をしてくれるのかが、とても楽しみになってにやけた口元を手で覆った。


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