大切にしたい相手
決意を改めていると、スカーレットが苦笑した。
「ローリーとブライトってお互いにそれ程怒ることがないのね……。私カインに何か言われると、ついカッとなりながら返しちゃうのよね……。カインもそんな感じだし……」
スカーレットが頬を掻いてそう言う。
その言葉に自分とアリオンの事を思い返しながら返す。
「それは……そうかも。言い合ったりしても、いつものやり取りって感じで別に喧嘩には発展しないし。アリオンが私の為を思って色々としてくれてるのはわかってるもの。ただそれがやり過ぎな事があるから怒ったりするんだけど……。それにアリオンって私に何か言ったりする時はちゃんと理由を言って、頼むってお願いするもの。この前も心配だから一人でうろうろするなって言われたけど、ちゃんとアリオンが心配してくれてるのわかったから頷いたし」
過保護だと思っていても、アリオンが本気で心配していて頼むと言われてしまれば頷いてしまうのだ。
――……私もアリオンに甘いのかしら……。
そういえば前アリオンに、お前も俺に甘過ぎると怒られた。その時は触れてなんて言ってしまったからだったけど……。……思い返すと恥ずかしくなってきた。
それにアリオンに嫌か、とかって聞かれると大体そんな事ないと言ってしまう。……やっぱり私もアリオンに甘い気がする。
たぶんアリオンに頼る事が多かったから、私もアリオンに頼まれると断らないようにしていたのだ。
「ローリーって素直よね……。私そんな事言われたら絶対言い争うわ……」
スカーレットが苦笑交じりに言った言葉にくすっと笑う。
「まあ……ほら、スカーレットは騎士だもの。舐められてるって思っちゃうんでしょ?私はアリオンをいたずらに心配させるのはよくないなって思ってるから」
アリオンが心配するのは私の為だと知っているし、私も自分は強くないとわかっている。
「それは、そうね……。自分の力を過信してる訳じゃないけど、そんな事言われたら舐めてるのって問い詰めるわ……。ちゃんと怪しいやつを見つけたら一人で追わずに報告するし、囲まれるような状況には陥らないように注意しながら移動するもの。……まあ慢心してないかはちゃんと考えるけど」
スカーレットはそう頷く。ちゃんと状況判断できるスカーレットは心強い。
心配されるのはその判断力を疑われる事だから許せないのだろう。それでも言われたら考える辺りちゃんとしている。
……それにたぶん言われるのはフューリーさんからを想定していそうだ。恐らく言い争う想像でもしたのだろう。
――やっぱりスカーレットとフューリーさんって仲がいいわ。
そう思いながらふふっと笑った。
「流石スカーレットだね」
カリナもニコニコと笑っている。
「ふふ、ほんとに。……アリオンって昔から過保護だから……ちゃんと心配してるからそうして欲しいって時には、私をすごく心配そうに見るのよ。そうしたら私も心配させちゃ駄目だなって思うの」
アリオンをわざわざ心配させたい訳じゃない。カリナも笑いながら頷いてくれる。
「そっか。ローリーもブライトさんの気持ちを大事にしたいんだね」
「うん……それはそうかも。アリオンの気持ちを無碍にしたくないのよ」
アリオンは私の気持ちを大切してくれるから、私だってアリオンの気持ちを大切にしたい。
スカーレットも頷いてくれた後、心配そうに眉を寄せた。
「まあ、ブライトが心配するのもわかるわ。今は巡回強化されてるものね」
「確かに……」
スカーレットの言葉にカリナも頷いて心配そうな目を私に向ける。
「カリナはいつも姉弟で帰ってるけど、ローリーは一人だもの……」
心配している二人に安心してもらおうと笑って告げる。
「うん、心配だって言われるわ……。だから休日明けからはユーヴェンに頼んどくから送ってもらえって。ふふ、私がユーヴェンと一緒に帰るの嫌そうにしてたのにそう言うんだもの」
昨日の事を思い出してくすくすと笑いが零れる。嫌そうな顔をした癖に結局は心配な気持ちの方が勝ってしまった憮然とした表情だった。
「わー、ほんとに溺愛されてるわね、ローリー」
スカーレットがニヤニヤと笑って言うので顔を赤くする。
「うっ……」
目を逸らした先に居たカリナが少し呆然としていたのでハッとする。
「……ローリー……休日明けからはユーヴェンさんと一緒に帰るんだ……」
ぽつりと零してしまったようなカリナの言葉に思わず頬が緩んだ。
「スカーレット、ここにとっても可愛い子がいるんだけどどうしましょう?」
スカーレットにニコニコと笑いかけると、頷いて返してくれる。
「そうね、ローリー。さっきまで私に締めてってお願いしてたのに、ローリーと二人で帰るのは嫌なのね」
私とスカーレットの言葉にハッとしたカリナは慌てたように言い募る。
「あっ……!違うもん!そんな事思ってないもん!ユーヴェンさんにはローリーの事で怒ってるし!それにローリーが一人で帰ってるのは私だって心配だよ!?」
心配してくれてるのは疑っていない。つまりはアリオンと同じで嫉妬するような気持ちがあるのだ。
そんなカリナを可愛いなと思いながら、良ければ誘おうと思っていた事を口に出す。
カリナはたぶん保管庫の一件からユーヴェンには会っていない。
「ふふふ。ねえ、カリナ、よかったら休日明け泊まりに来ない?……えっと……デートの話、ちょっと聞いて欲しいわ……」
こう言わないときっとカリナは頷いてくれないかもと思っていたものの、いざ口に出すと恥ずかしい。
「え、えっと……」
「駄目かしら……?」
迷っているカリナに頼んでみる。
明日はアリオンを怒ってしまう予定だし、また聞いてもらいたい話ができるかもしれない。
カリナはぐっと口を曲げた。そんな顔も可愛い。
「……ローリーってずるい……」
難しい顔で見てくるのでふふっと笑う。
「私、カリナに話を聞いて欲しいだけよ?」
目的はそれだけではないけれど。
「むー……わかった……泊まりに行く」
カリナは少し頬を膨らましながら頷いた。それでも口元は緩んでいるので嬉しそうだ。
にっこりと笑う。
「ふふ、なら決まりね。ありがとう、カリナ」
「よかったわね、カリナ」
スカーレットはにっと笑う。
カリナはカッと顔を赤くした。
「!!ローリーの話を聞くために行くだけだもん!それにユーヴェンさんには怒らないと駄目なの!……あ、でも謝らないと……」
最初の勢いはすごかったのに、すぐに萎む。
「謝るの?」
そう優しく聞いてみる。
「ほら、保管庫のこと……ちゃんともう一回謝っておこうと思ってたの……。……あれから……まだ話せてないから……」
少し頬を緩めながら言うカリナは可愛くて頷く。
「そっか、じゃあいい機会ね」
「ふふ、そうなの。またローリーの話も教えてね」
スカーレットも頷いたと思ったら私の話までするので目を丸くする。
「うん、ローリーの可愛いお話聞いてくるね!」
カリナもそれには満面の笑顔で頷く。
「……カリナ……その、そんなに張り切らなくても、いいわよ……」
二人の会話に恥ずかしくなりながら止める。
――なんか張り切られると恥ずかしいわ……。
カリナは楽しそうに笑って言う。
「大丈夫だよ。ローリーが話したいと思ってくれる事話してくれたらいいから。ブライトさんと二人の秘密にしておきたい事も絶対あるもんね」
「!!か、カリナ!」
カリナの言葉に思わず叫ぶ。
――アリオンと二人の秘密、なんて……!
ちょっと……魅力的に感じてしまった。
スカーレットはそんな私達に向かって笑う。
「二人とも可愛くて素敵だわ。ブライトとユーヴェンさんに任せるの勿体ないくらいよ。まあローリーはブライト、カリナはユーヴェンさんじゃないと嫌なんでしょうけど」
「もう、スカーレットも!」
「スカーレット、私まで巻き込んじゃうの!?」
「ふふふ」
三人で笑い合いながら、それからも色んな話をした。
以前よりももっと仲良くなれて嬉しく思う。そしてこれからも色んな話をしていくんだろう。
二人の友人に幸せが訪れる事を願いながら、窓の外で沈んでいく夕日を眺める。
だんだんと近づいてくる明日が待ち遠しくて、笑みが溢れた。




