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守ってくれていた人


 それでも全然触れてくれなかったのは寂しくて、目を伏せながら続きを話す。


「……昔はハイタッチしてたし……なんとなくは知ってたけど。あ……伝達魔法を習得した時に魔力を教えてもらうのに手を握った事はあったわ、そういえば……いえ……手を差し出されて乗せただけ、だったわね……?」


 伝達魔法の魔力交換があったと思いついたけれど……握られてはいなかったような気がする。

 そうやって考えていると、手に触れるのなんてその魔力交換とハイタッチぐらいだった。


 なんだかこうやって言っていると、悲しくなってくる。

 もう少しぐらい、触れてくれても良かった。


「えっと……?」


 カリナが理解不能な感じの顔をしているので、くすっと笑ってしまう。


「あとは軽く触れるくらいだったから……。……私、告白された今でも、肩を抱かれたりすることもないもの」


 そう言うと、二人は沈黙した。


「だから……アリオンが私に許可を取らずに体に触れるなんて、考えられなくて……。あ、でも、触れるって言ったら体に触れるとおんなじなんだものね!それは……き、気をつけるわ……!」


 許可をもらったと勘違いさせてしまうような言葉は言ってはいけないので、気を引き締める。


 ――アリオンならちゃんと確認してくれそうな気もするけれど……私も気をつけなきゃいけないものね……!


 スカーレットとカリナは頭を抑えながら天井を見ている。

 きっとアリオンがそんな風だとは思わなくて驚いているのだろう。


「うーん……これ……?」


「信頼の蓄積、だね……?」


「というかブライトってどれだけ純情だったの!?」


「全然ローリーに触れてなかったんだね……。だからローリーすっごく信じちゃってるんだ……」


 なんだか私がアリオンを信じている理由を理解してもらえて嬉しい。


 スカーレットが、ハッとしたように聞いてくる。


「守ってくれてたってのは……?」


 問われた事に笑いながら答える。


「私女子にハブられてたって話をしたでしょ?そうなると男子と仲良くなったのよ。だから学園の時は男子集団の中にいる事が多かったの。それで、アリオンとユーヴェンが私がいる所で下ネタとか際どい話をしそうになった男子を諌めてくれてたのよ。というかアリオンが引きずって連れて行くことが多かったんだけど」


「引きずって……」


「連れていく……」


 私の言葉に眉を寄せるカリナとスカーレット。


 ――……なんだかあの頃はそれが日常の一部になってたから気にならなかったけど、やっぱり変だったのかしら……。


 そんな事を考えて苦笑しながら続ける。


「二人が守ってくれてたし、だから信用してるのよね。そんな事しないだろうなって。ユーヴェンはちょっとスキンシップが激しい……あ」


 喋りかけてハッとする。ちらりとカリナを見るとなんだか怖い笑顔だ。


「いいよ、続けて」


 にっこりと笑って続きを促された。たぶんこれは、ユーヴェンへの怒りな気がする。

 目を逸らしながら頷いた。


「う、うん……。ユーヴェンはえーと……頭撫でたり肩を組んできたりと……アリオンとおんなじように私を…………正直男子と同じように扱っていたのはわかってたん、だけど……」


 そこで冷えた空気を感じてゆっくりとカリナの方を見る。


「……へぇー……」


 カリナはいつもより低い声で冷たい目をしている。

 それに耐え切れなくて、声を掛ける。


「か、カリナ?怖いわよ……?」


 そうすると、カリナは私に優しく笑った。


「スカーレット、やっぱりユーヴェンさん締めていいよ」


 しかし出てきたのはそんな言葉だ。


 ユーヴェンを締めなくていいと言っていたのに、意見が変わっている。

 そうすると、なんだか私のせいな気がして悪い気がしてきてしまう。カリナが止めた気持ちがわかった。


「そうね、締めておくわ」


 スカーレットも目の奥が笑ってない。


「えっと……その、私は平気よ?ユーヴェンがそうなのは慣れてるし……」


 思わずそんな言葉を出すと、カリナは眉を寄せた厳しい顔をする。


「それでもこんなに可愛い女の子のローリーを、男子と同じように扱ってたとしたら……許せないよ、私」


 そう言ったカリナに嬉しい気持ちが湧くと同時に、きっとユーヴェンが締められるのは避けられない事がわかってしまう。

 一応フォローしてみる。


「聞かないと……分からない、からね?あいつ、友達にはみんな同じ態度だったし……。あー……それに、どちらかと言うと……弟、扱いだったと」


「ローリー。変わらないよ、それ?」


 カリナが少し青筋を立てているように思える。思わず顔を背けた。

 スカーレットがにっこりと笑う。


「真偽の程はユーヴェンさんに聞きましょうか」


 私は目を瞑って、見えない空に祈った。


 ――ユーヴェンの無事だけ……祈っておきましょう……。


 きっとカリナからもスカーレットからも責められる制裁になるのだろう。ユーヴェンはカリナから言われるのが一番堪えそうだ。


「それで、ブライトは違ったの?」


 考えていたところにスカーレットが聞いてくるので頷いた。


「うん、さっきも言った通り、触れる事なんてなかったわ。それにユーヴェンが私に触れていたらいつも、軽々しくそういう事をするなって言いながら剥がしていたの」


「あ、さっきも言ってたね」


「ええ。だから……アリオンが、そんなのするなんて……全然、想像ができなくて……」


 だってアリオンはユーヴェンからでさえ、私を守ってくれていたのだ。アリオンが注意すると、ユーヴェンが覚えている間はそんな事をしなかった。


 ――忘れてまたやっちゃうのがユーヴェンだったんだけど……。


 それでも毎回、ユーヴェンを引き剥がしていた。


「ブライトがずっとローリーの事を守ってたのね……」


「それは確かにローリーが信じちゃって当然なのかも……」


 スカーレットとカリナが頷き合っている。


 それを眺めながら、私はぽつりと零す。


「……私……だから……たぶん、頭撫でられて、嬉しかったの」


 今までそんな事をアリオンからされたことなかったから、嬉しかった。

 全然触れてくれなかったアリオンがそうしてくれたのが、嬉しかった。

 アリオンの手があんなに大きいことを知れて、とても優しく頭を撫でられて、温かいアリオンの掌も、すごく優しい表情で私を見ていた事も……全てが心地良くて。


 ――だからアリオンに……アリオンが撫でるの……す、好き……なんて言えちゃったんだけど……!


 今考えると恥ずかしい。撫で方だとしても、「好き」なんてアリオンに言ってしまうなんて。


 顔が真っ赤に染まったような気がして、顔を伏せる。


「そうなの?」


 カリナの驚いたような問いに軽く頷いた。


「うん、なんだか……アリオンが気を許してくれてる気がして。……最初は妹だと思ってるんだろうなって……思ってたんだけど……」


 最初は妹のエーフィちゃんみたいに思っているのだと思っていた。でも……撫で始めた最初から、そうじゃなかったと今はわかってしまっている。


「違ったわね」


 スカーレットが楽しそうに笑って突っ込む。

 それに変な声を出してしまう。


「はうう……。アリオンって……なんか、昔から……私を妹扱いしてると思ってたから……。妹のエーフィちゃん溺愛してるし……」


 手をもじもじさせながら答える。


 アリオンは私を最初の方から妹みたいに見ていたと思う。きっと私が妹だと話したから、学園にはいない兄の代わりに守らないと、みたいに思っていたような気がする。


 ――それが……たぶんいつからか、それだけじゃなくなってた、みたいなんだけど……!


 頬が熱くて、唇にきゅっと力を入れる。


 私もアリオンの事は、兄みたいな人、という認識だったから妹扱いされる事に違和感はなかった。


「なるほどね……。お互いその認識だったから気づかなかったのね……」


「あ……でも、アリオンは……」


 スカーレットが納得したように頷くので、思わず否定の言葉が口を突く。


 マスターの推測を思い出すと、心臓が締め付けられて苦しいのに、心はすごく温かくなる。


「?どうしたの……?」


 胸元をいつの間にか抑えてしまっていた私を不思議に思ったスカーレットが覗き込んでくる。

 カリナも少し心配そうな顔だ。


 指を意味もなくくるくると回しながら話し始める。


「あの、マスターの推測、なんだけど……」


「マスター?……この前と昨日、ブライトと行ったお店の?」


 スカーレットがそう聞いてきたので頷く。


「うん、そう……。その、昨日マスターにアリオンとの学園時代の事を話したらね……」


 そう言って、マスターの推測を話し始める。


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