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―綺麗な瞳―


「あの子しか見てなくて溺愛かぁ……お前らしー」


 フューリーがユーヴェンの言葉に納得したように頷くので、思わず眉を寄せて溜め息を吐いた。


「フューリー……」


 ユーヴェンはフューリーの言葉に目を瞬かせた。


「……フューリーはアリオンからローリーに告白したってこと知ってたのか?」


「成り行きでな」


 ユーヴェンからの問い掛けにフューリーは肩を竦めて答える。


「だからここに……?」


 俺がフューリーを引き留めたのが告白を知っていたからだと思ったのだろう。……本当はユーヴェンを俺が殴ったりするような事にならないか少し心配だったからなんだが。

 ユーヴェンのこの様子ではそんな事はする必要もなさそうだ。


「あー……お前になかなか言い出せなかったから……つい……」


 とりあえず誤魔化しながら答える。


 ――鈍感なこいつがローリーの気持ちに気づく訳なかったな……。


 そんな鈍感なはずのユーヴェンにも俺の気持ちはバレていたみたいだけど。


「へぇー。ずっと三人で仲良かったから言い出しにくかったのか?」


 ユーヴェンが良いように解釈してくれるので頷く。


「そんな感じだな……」


「別に気にしなくていいのに。しかし、お前ほんといつ気づいたんだよ。俺ずっと気づかないから、アリオンはローリーのこと諦めるつもりなのかと思ってた」


 その言葉に眉をひそめる。この言い方だと相当前から俺の気持ちに気づいていたようだった。


「お前って……いつから俺がローリーを好きな事気づいてたんだよ……」


 鈍感なこいつの事だから以前から気づいていたといっても、せめて学園の後半だと思っていたが……まさか違うのだろうか。


 ユーヴェンは考えることもせずに答えた。


「ん?一年次の終わりにローリーがお前にハイタッチもしてくれないのなんでって怒った時かな」


「は……?」


 目を丸くする。


 ――……一年次の、終わり……?


 ローリーに怒られた出来事はそれはもちろん覚えている。だけど……ユーヴェンがそんなに前から俺の気持ちに気づいていた事に衝撃を受ける。


「おい、グランド。ハイタッチもしてくれないって、それ、なんだよ……?」


 フューリーがユーヴェンに問い掛ける。


「ああ、アリオンって一年次の頃はローリーとハイタッチもしなくってさ、というか……一切触れない?感じで……他の男子とかもハイタッチはこいつ許してんのにさ」


 ユーヴェンの言葉に呆れた顔をしたフューリーが俺を見てくる。俺は顔を背けた。


「……ブライトお前……ほんとどうなってんだよ……。……ん?許してるってなんだ?」


 耳慣れない言葉に疑問を抱いたフューリーがユーヴェンに疑問を投げる。


「アリオン主導でローリーに過剰に触れたりする奴には制裁を加えてて……ハイタッチぐらいならこいつも制裁は加えなかったんだよ。肩叩くのも許してたりしてたんだけど、ローリーが振り向くのを面白がった奴が何回もやったりして、だから結局許したのはハイタッチぐらいだったりして」


「ユーヴェン、お前なんでもかんでも喋んな!」


 そこまで言う必要もない事まで口にするので止める。


 ユーヴェンは悪びれる様子もなく言ってくる。


「事実だろー?てか俺からしたらなんでここまでやってて自分の気持ちに気づかないのか不思議でしかなかったからな」


 そんな事をユーヴェンから言われるという事実が俺に突き刺さる。


「ほんとグランドの言う通りだわ……。お前何やってたんだ……?」


 フューリーまで追撃してくるので思わず叫ぶ。


「ローリーが男子集団の中にいたから仕方なかったんだよ!あいつに何かあったりしたら溺愛してる兄のリックさんに申し訳ねぇだろ!?俺も兄だから気持ち分かるし、妹に何かあるかもしれねぇなんて駄目だと思って行動してたんだよ!」


 そうだ、俺だって妹のエーフィを溺愛しているから……妹でもあるローリーを大切にしないといけないと思っていた。


 ――妹だって事は話してくれたから知ってたし……!


 俺の叫びにユーヴェンは溜め息を吐いた。


「そんなん言って……最初からだったじゃないか」


「は?」


 意味が分からなくて聞き返す。


「アリオン、ローリーに一目惚れしてただろ?だから最初からアリオンはローリーの事が好きで構ってたし甘かったじゃんか」


 ユーヴェンの言葉に、思考が止まった。


「マジか、ブライト!お前って一目惚れだったんだな……って、おい?」


「あれ?アリオン?」


 フューリーとユーヴェンの声が遠く思える。


「……一目、惚れ…………?」


 考える。

 さっき、俺はキャリーとフューリーとの会話で初めて会った時にローリーをどう思っていたかを思い返そうとしていた。だから、今度はちゃんと思い返す。


 初めて、会った時……。


 『あの、これ落としたわよ。貴方のよね?』


 そう声を掛けられて振り向いた時、初めてローリーに会った。

 その時、思ったのは……。


 カッと顔が赤くなった。


 ――俺、あの時には……既に……。


 そうだ、俺は初めてローリーを見た時にはもう……あの青い瞳を綺麗だと認識していた。


 その後少し交わした会話も、話した後に思った事も、鮮明に思い出す。

 今思うと、どう考えても最初からローリーに惹かれていた。


 ――マジで一目惚れじゃねぇか……!!


 気づいていなかった事実に気づかされて、頭を抱える。


「……グランド、こいつ自分が一目惚れなこと気づいてなかったみてぇなんだけど」


「俺、てっきり自分の気持ちに気づいたからわかってると思ってたんだけど……」


 フューリーとユーヴェンが俺の様子を見ながら会話を交わしている。


「グランドはなんで一目惚れだって思ったんだ?最初は気づいてなかったんだろ?」


 フューリーがユーヴェンに問い掛けた話に、俺も少し気になってユーヴェンを見た。


「ああ。アリオンにローリー紹介した時さ、すっげぇ優しい顔で笑ってて。そん時家族以外にキラキラ笑顔じゃない、そんな顔するアリオンが珍しくて印象に残ってたんだよ。そしたらこいつ、いつもは女子に対してはキラキラ笑顔で丁寧に接するのに、ローリーにだけはそんな事なくてさ。なのに男子扱いする訳でもなく丁寧に守ってて……もしかして妹と重ねてるのかなーって思ってたんだけど」


「ほうほう」


 ユーヴェンの言葉に顔を伏せて手で顔を覆う。


 ――確かにユーヴェンからローリーを紹介された時、また話せるって嬉しく思ったけど顔に出てたとは思わなかった……!


 ローリーと初めて会った時の事はユーヴェンにも言ってなかったから、こいつからローリーを紹介された時は驚いた。……でもそのお陰で、『また』素で話してもおかしくない状況になったとその時は思っていた。

 友人から紹介されたとなれば別にいつもの女性への接し方をせずに素で接しても、きっと不思議には思われない、と。


 ――あー……俺、完璧に最初っから……ローリー特別だったな……。


 けれど、そんなのはただの俺の願望だった。その後、俺が素で接していたせいでローリーを傷つけてしまった。

 思わず口の中を噛むと、血の味が少し滲んだ。


 ぽつんと一人で居た、ローリーを思い出す。一人で居たローリーに話し掛けた時の、「なんでもないわよ」と言った、下手な笑顔も。


 苦い記憶に顔を歪める。今でも罪悪感は消えていない。俺の浅はかな考えのせいで、ローリーをそんな目に合わせてしまった。

 でも、その後に言われたローリーのかっこいい言葉は今でも耳に残っている。


 『あんたがお姉さんや妹さんのためにやって、いいと思ってしてるんでしょ!?なら胸張ってやってなさいよ!』


 俺が思わず「でも」と口にしたら、「でももだってもない!」と一刀両断された。


 『ちゃんとあんたがいいと思って始めた事なんだから、貫きなさいよ!あんた達が一緒に居てくれるんでしょ!?だったら私はそれでいいの!だから私を気にする必要なんて一つもないのよ!でも私に対してやったらひっぱたくからね!』


 思い出して、ぐっと手を握る。

 自分だって落ち込んでいたはずなのに、俺が悩んでいるのを吹っ飛ばすローリーの叱責を聞いた時、形容できない気持ちが湧き上がった。

 たぶん、どうしようもなくローリーを守りたいと思ったのは……あの時が最初だ。


 『冗談よ、あんたのお陰ってこと。それに最後はクラスみんな仲良くなったじゃない。だから気にする必要なんてないのよ』


 この前言われた言葉が蘇る。あいつはいつも俺がその事を気にすると怒っていた。自分が落ち込まなかったのは俺が落ち込んだお陰だなんて言葉は、ローリーにはどうやっても敵わないと思うくらいにかっこいい。気にする必要なんてないと言ってくれるローリーに、俺はいつも救われていた。


 ――あいつあれだけしといて自分はなんにも返せないとか言うんだもんな……。


 ローリーが泣いた時の事を思い出す。あの時はそれだけ落ち込んでいたんだろうが……。


 ローリーはいつも、弱さを見せなかった。寂しいとリックさんの話が多くなるのだって、ただ話が多くなっただけではっきり寂しいとは言わなかった。


 だけど今はちゃんと、俺に頼るようになった。

 それが、何よりも嬉しい。ローリーをもう、一人で落ち込ませたりなんかしない。


 俺は昔からずっと、どうしようもないぐらいにローリーが愛しかったんだ。


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