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―噂と情報―


 フューリーはバッと俺の方を見てきた。


「そうだよ、噂!お前この前の朝の事めちゃくちゃ噂になってんぞ?」


 相変わらず話が飛ぶ奴だなと思いながらも内容が気になったので聞く。


「そうなのか?どんな噂なってんだよ」


「そん時あの子、ガールド隊長の事お兄ちゃんって呼んでたんだろ?だからまずあの子がガールド隊長の妹だと認識された」


 リックさんの妹だとローリーが認識された事は悪いことではないだろう。俺との噂も抑止力にはなっていたみたいだが、見習い騎士の俺と隊長のリックさんとでは持っている力が違う。

 それにしても。


「……詳しいな、フューリー……」


 思わず感心した目をフューリーに向ける。忙しかったのもあるが、そんな噂を俺はまだ聞いていなかったし、しかも見ていたかのように話すフューリーに素直に感心した。


「俺は直接現場を見たやつからも聞いたんだよ。そんでガールド隊長とグランドン隊長がなんか一触即発になりそうな所に、お前があの子を庇うようにして隊長達を止めに入ったって。そんでガールド隊長の前で妹といちゃいちゃしてんのに叱責もされてなかったから、ブライトはガールド隊長公認で妹と付き合ってんのかって」


「……まだ付き合ってはねぇんだけど……」


 その噂に頭を掻く。リックさんがグランドン隊長に俺とローリーがまだ付き合ってないと剣を向けた事は分からなかったんだろうけど、また恐ろしい噂だと思った。


 ――まあ話が聞こえるくらい近くには誰もいなかったしな……。


 ローリーがリックさんをお兄ちゃんと呼んだ声は大きかったから、それだけは聞こえたんだろう。


「ガールド隊長達の喧嘩をよく止めに入れるよな、お前」


 フューリーが恐れ入ったように言ってくるので思い出しながら答える。


「ローリーがあの雰囲気怖がってたからな。それにリックさんがローリーの事可愛がってるの知ってっから、ローリーの様子を見たら謝られることはあっても怒られることなんてねぇよ。んで、リックさんとグランドン隊長の会話聞いてたらただ仲が良いだけだったしな」


 ローリーが怖がっているのに止めない方が駄目だろう。ローリーを怖がらせたままなんて許容できないし、それに怖がらせたままにしていた方がリックさんに怒られる。

 聞いていたら二人共仲が良いからこそだったし、それをローリーに伝えると安心して笑っていた。


「普通にガールド隊長にお前自身も気に入られてるだろ……」


「それリックさんの前で言うなよ。やべぇ事になるぞ」


 フューリーの言葉に背筋が凍ったリックさんの地を這うような声を思い出して忠告しておく。

 こいつはそんな迂闊なことはしないかもしれないが、言っておいて損はないだろう。


「!わかった。口に出さねぇようにする」


 フューリーは俺の言葉に自分の発言がリックさんの怒りに触れることに気づいたのだろう。こくこくと頷いた。


 そうしたフューリーに息を吐くと、もう一つ気になっている事を聞く。


「そういや、リックさんの妹だってローリーの事知れ渡ったんなら……リックさんがローリーのこと溺愛してるってのも知られてんのか?」


 俺の問いにフューリーは眉を寄せた。


「……あー……」


「その感じ嫌な予感しかねぇんだけど……」


 言いにくそうにしているフューリーに俺も眉を寄せる。


 フューリーは溜め息を吐いて頭を掻いた。


「いや、二分、されてんだよなぁ……」


「二分?どう二分されてんだよ」


 リックさんがローリーの事を溺愛している以外に言われることなんてあるのか。


「そん時の出来事を見て、ガールド隊長が妹さん溺愛してるっぽいのに、任せられてるブライトすげぇってなってる奴らと……」


 その噂に恥ずかしくなって首を搔く。


「別に……ローリー大事にするって事を信じられてるだけだけどな……」


 リックさんにそうやって信頼されているのは嬉しい。


 フューリーは息を吐いた後、言いにくそうに口を開いた。


「それがなかなかできねぇだろ……。……あと、ブライトに任せるぐらいだから、ガールド隊長は妹さんをそんなに可愛がってないんじゃねぇかって奴ら……」


 フューリーの言葉に顔を歪めて吐き出す。


「はあ?命知らずな奴らだな、そいつら」


 俺はまだ見習い騎士で大したこともできていないので舐められるのは分かるが、フューリーが言った内容はリックさんまで舐めている。


「だよなあ……」


 フューリーも思っていたのだろう、呆れたように同意した。


「たぶんそいつら近々リックさんから呼び出されるぞ。ところでどんな奴らが言ってんだ?」


 苛立ちを抑えながら聞くと、フューリーは疑うように目を細めた。


「……お前、告げ口する気だな……?」


「ローリーを少しでも危険には晒せねぇからな。リックさんの妹だって事はあいつを守る一つの要素になるのに、それをわからねぇ奴等を無視なんてできねぇよ」


 ローリーを守るためならなんだってするつもりだ。しかもその噂が変に広まったら、ローリーにちょっかいをかける輩が出てくるかもしれない。リックさんだってそんな噂は許せないだろう。


「へいへい……。まあ教えてやるよ。んな事言ってんのは大体馬鹿ばっかりだし」


 フューリーは肩を竦めてにっと笑った。恐らく本当に馬鹿ばっかなんだろう。こいつも一応忠告したのかもしれない。


「お前って情報通だよなぁ」


 思わずそんな声が漏れた。


 以前は俺も知らなかったユーヴェンとローリーの噂まで知っていたし、かなりの情報通だと思う。


「あー……。入隊して少し経った頃かな、俺と仲良い奴とそいつが気になってる女性を紹介したらなんかうまくいってな。あ、その女性っていうのも俺をいつも褒めてくれる子だったんだけどな、どうも俺よりもそいつの方が気になってたみたいで、素直になれねぇんだろうなって思って紹介したんだよ。それで一回そんなんしたら、俺も俺もって言ってくる奴が多くてな。しばらくそいつ等といて、そいつ等に興味持ってそうな子がいたら紹介してたりしたんだよ。そしたら男女問わず集まるようになっちまってな……。お陰で色んな情報が手に入る」


 その言葉に目を丸くする。こいつ自分の事はうまくできねえ癖に他人の世話してたのか。


 いつもキャリーと問題を起こす問題児だったのにあまり遠巻きにされてなかった理由もわかった。そんな風に世話した奴と紹介してほしい奴が集まっていたんだろう。


 ……誰かこいつ自身の事をどうにかしてやろうとは思わなかったのか。いや、思っていても以前の調子では気持ちから否定していたから無理だったのか。


 呆れた目でフューリーを見る。


「……お前今じゃキャリーの事が好きだって騎士団事務内でも知られてるもんな。そんで紹介するっていったら、相手を盗られるような心配もなくて安心なんだろうな」


 ユーヴェンから聞いた情報を教えてやると、口端を引き攣らせた。


「ぐっ……!騎士団、事務内まで……!?」


 流石にこいつ自身の噂を本人には言えなかったのだろう。知らないようだ。


「たぶん今お前のとこに行ってるの、噂知ってる奴がほとんどだから出会い目当てかもな」


 そう言うとフューリーは肩を落としながら溜め息を吐いた。


「まあ……別にいいけどよ……」


「お前って案外面倒見いいな……」


 フューリーは意外とお人好しなのかもしれない。まあ俺の惚気をなんだかんだ聞いてくれてたりするしな。


 そう思っていると、頭を搔きながら困った声を出す。


「……スカーレットだけなのか、知らねぇの……」


 その言葉に肩を竦める。


「だろうなぁ……。ちなみにみんなお前に気を遣って言ってねぇみたいだけど、お前の噂も面白いことになってんぞ」


「は?」


「いや、キャリーが俺を好きとかいう根も葉もねぇ噂があったろ?それに焦ってキャリーと普通に接するようになったとかな。あと俺がお前とキャリーの仲介役になったんじゃねぇかって聞かれることもあんだよな」


「ぐっ……なんか微妙に的を得てるのが笑えねえ……!」


 悔しそうに言うフューリーに思わず笑う。

 まあ俺に話し掛けてきたのはキャリーが俺と普通に話し始めたから余計に気になったんだろうし、俺が言った言葉で思い直してキャリーと普通に話すように努力したんだろうから、確かにあながち間違いでもないのだろう。


「はは。でも普通に話すようになった途端お前等仲良いから、実は痴話喧嘩だったんじゃとかも言われてっぞ」


「はあ!?そうだったら苦労なんてしねぇんだよ!」


 少なくとも入隊してから一年以上はずっと繰り広げていた喧嘩が痴話喧嘩なんてやばいだろう。それにキャリーやフューリーの言い方だと入隊以前から繰り広げられていたようだから痴話喧嘩としても長すぎる。



本日三話目の更新です。

遅くなりましたが、年末年始に更新できなかった分になります。

これからも読んで頂けると嬉しいです。

よろしくお願いします。


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