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―ローリーのいい友達―


「ほら、絶対やめたらローリーむしろ悩んじゃうわよ」


「それもそうか……」


 キャリーが俺の言葉を聞いてフューリーを説得する。フューリーもその言葉に頷いていた。


「俺、ローリーの嫌がる事とか、恋人同士じゃないとしねぇ事とかはやらねぇよ?」


 一応そう言っておく。流石にリックさんに駄目だと言われたことはやるつもりはない。


 ……想像も今はしちゃ駄目だ。


 キャリーとフューリーはなんだか遠い目をしてなにもない所を見つめていた。


 ――反応まで一緒とかやっぱ仲良いな、こいつら……。


「……恋人同士しかしないことってなんだったかしら……?」


「頭撫でるのも手を握るのも額にキスも……恋人同士っぽいよな……」


 そう言われてつい怖気づく。


「……じゃあやらねぇ方がいいのか……?」


 ――でもなぁローリーって……そんな事を俺が言ったらまた……。


 『え、や、やめないで、アリオン……』


 俺に好きと伝えることをやめないよう、縋るように言ったローリーを思い出す。正直あのローリーの表情と言葉は破壊力がやばかった。いくら王宮内でも思わず抱き締めてしまいそうな威力で、手が資料で塞がっていてよかったと思ってしまった。


 ――いや、流石にやらねぇけど!たぶんやらねぇけど!きっとやらねぇけど!……きっと……。


 しかも今度は触れることに対してだ。またローリーにあんな風に言われてしまったらと思うと気絶しそうだ。

 百面相にならないように注意して、顔に力を入れながら口元も手で覆う。


 キャリーは盛大に溜め息を吐いた。


「いえ、今更そんな事してもローリーがむしろ混乱しそうだからやめない方がいいと思うわ……。はあ……そうね……ローリーがやめてって言ったり、嫌がったりしたらやめなさい」


「わかった」


 キャリーの言葉に素直に頷く。俺もローリーが嫌がったりやめてなんて言ったらやめるつもりだ。

 俺はローリーの意思に反する事をするつもりはない。


 そんな俺をなんだか羨ましそうな顔で見ていたフューリーはぽつりと言葉を零した。


「……俺もブライトを少しは見習った方がいいんだろうな……」


 そのフューリーの言葉にキャリーが目を()いた。


「何見習うのよ、こんなローリー至上主義のやばい奴に。…………カインあんた、好きな子にこんな事するのやめなさいよ?ローリーとブライトだから成り立ってるけど、普通は成り立たないからね?」


「…………」


 キャリーの何気ない忠告にフューリーが静かに撃沈したのがわかった。


 流石に不憫になって、キャリーの注意を他に向けようと口を開く。これ以上追撃されるような事があれば再起不能だろう。


「キャリー、ローリーとメーベルさんと約束あんだろ?行かねえのか?」


 そう告げるとキャリーはハッとした様子になった。


「ああ、行くわ、行く。ブライト、ローリー困らせ過ぎちゃ駄目だからね!」


 俺をビシッと指差して言うキャリーは、やはりローリーのいい友達だ。


「わかった」


 それに頷くと、キャリーは満足気に笑った。


「じゃあお疲れ様、カイン、ブライト!」


 挨拶して走り去っていくキャリーにフューリーと俺も返す。


「おう、お疲れ……」


「お疲れ」


 消沈したように返したフューリーに一応声を掛ける。


「……フューリー。お前、もう少し頑張れ……」


「……そうだな……」


 普通に話し始めるのもフューリーにとっては頑張ったんだろうが、キャリーはたぶんこいつの気持ちには一つも気づいていなさそうだ。


 ――まあ昔馴染みが昔に戻ったって感じなんだろうな……。


 仕方がないので俺もローリーに言われて辛かったことを零す。


「……俺も、ローリーにいい人紹介してくれ、なんて頼まれたりしたからな……たぶん、お前の頑張り次第だと、思う。たぶんな」


 流石にキャリーの気持ちは分からないので憶測だと付け足しておく。


 あの時は思わずローリーに問い質しそうになってしまった。けれど明らかに様子がおかしかったので、そんな事をする前にローリーの気を少しでも晴らしてやろうと思ったのだ。


 俺は、あんなローリーをそのままにしておく方が嫌だった。


「俺……スカーレットにんな事言われたら……死にそう……」


 フューリーが消え入りそうな声でそう言ってくる。


 俺だって言われた時はショックだった。しかもあいつがちゃんと気持ちを出して、思う存分泣いた後にまで言われた時は、一瞬頭が真っ白になった。


 溜め息を吐いて言っておく。


「……俺は、そこから告白したからな。好きだから紹介はできない、一度俺の事を考えてくれって……頼んだんだよ……」


 告白の事なんて話すもんじゃない。正直言わなければよかったと思うぐらいに恥ずかしい。

 この前フューリーにはローリーの仕草や言動がどこまでも可愛くて堪らない、なんて話はしたが告白の事までは恥ずかしくて言っていなかった。

 手で顔を覆う。


 フューリーは目を瞬かせて希望を持ったように言った。


「おおう……はあー……なるほどな……。そんな立ち回りな訳か……。むしろ紹介してくれって言われたらチャンスなのか……?」


 感心したように言ったフューリーに頬を搔いて目を逸らす。


 ローリーに後から聞かされたあの時の真実は、頭がどうにかなりそうな程嬉しかった。


「…………どうだろうな。俺は……あん時は新しい恋をするくらいなら俺を見て欲しいって必死だったけど……。正直言うと……ローリー別に紹介してくれなくてもよかったって言ってたからな」


 うまくいかない可能性もあるので一応言っておく。

 顔が緩みそうだ。


「?新しい恋に前向きになってたんじゃなかったのか?」


 フューリーが不思議そうに聞いてくるので、緩みを抑えきれない顔を手で覆いながら告げる。


「……俺が隣に居てくれるなら彼氏なんていらなかったって言ってた……」


 恥ずかしそうにしながらも俺と目を合わせながら言ったローリーのはにかんだ顔は、まるで俺を好きなんだと勘違いしてしまいそうなぐらいに可愛かった。


 ――ローリーって俺の事けっこう好きだったんだなって思っちまった……。


 気を許してくれてるのはわかってたし、あいつは俺をリックさんのように思っていたのか時々甘えられることもあった。それでも俺が隣にいればいいみたいな事を言う程なんて思ってなかった。


 ――……大体ローリーが甘えてくる時って、俺にとっては損することが多くて警戒対象だったんだけどな……。


 いつかの学園祭の時、委員の出し物の話でローリーが「お願いがあるの」って俺に言ってきたから頷いたら……女装しないといけなくなったりして……他にもそんな事が何度かあった……。

 それでも俺はあいつがお願いしてきたり甘えられると弱い。最終的に頷いてしまうことが多かったと思う。


 ――でも今は頷けねぇお願いも多いから困る……。


 ローリーから触って、なんて言ってきた時は心臓が止まるかと思った。


 ――あいつは俺を信頼し過ぎてる……。いや、その信頼に応えられるようにはするけどな!


 しかし限度というものがある。正直リックさんがローリーに説教してくれてとても助かった。俺も一緒に説教はされたけれど、それからあいつは少し考えるようになった。

 ローリーが少しでも考えながら言ってくれると、その間に俺の頭も冷えるからだいぶ助かっている。それに駄目だって言うとちゃんと分かってくれるのもありがたい。


「はあ!?結局惚気かよ!この勝ち組が!」


 フューリーが吐き出すように言った言葉につい笑ってしまう。


 確かに惚気にしか聞こえない言葉だ。


「……悪い」


 謝ってみるが、顔のにやけは止まらない。


「その顔悪いと思ってねぇよな、お前!?てかもうあの子お前の事好きなんじゃねぇのか!?それ!?」


 フューリーの叫びに俺は苦笑する。


「友人としてかなり好意的に見てくれてんだとは思うけど……恋愛的な意味ではないだろ。それをローリーが思ってたの、あいつの口からユーヴェンを好きだって聞いた後のことだし。……たぶん、あいつは……俺をリックさんみたいな過保護な兄だと思ってた所あるからな……」


 ローリーは俺が妹のエーフィを可愛がってる事も知っていたし、それと同じように自分の事を妹と重ねて過保護にしていると思っていたんだと思う。……俺も気持ちに気づくまではそう思っていたし。


 俺の言葉にフューリーは思い出したように声を出した。


「あ!そうだお前!あの子ってガールド隊長の妹さんだったんだな!?」


 その言葉に目を瞬く。


「お前知らなかったのか……」


 思わずそう声を漏らすとフューリーは口を曲げた。


「パッと見じゃ分かんねぇよ!」


 確かにパッと見て兄妹だとわかる程は似ていない。並んだら似ているとは思うけれど、それぞれ別で見ていると分からないだろう。


「あー……確かに噂でもローリーの事、リックさんの妹だとは言ってなかったもんな」


 俺自身も何度か俺とローリーの噂を聞いたがそこにリックさんの妹だという情報は欠片もなかった。いつも魔道具部署の子、みたいな感じだった。あいつも王宮に上がったばっかりでこの一年は大変だったろうし、リックさんも忙しそうだったから王宮内で会うことはあまりなかったんだろう。まあ家に帰ったら会えるしな……。



本日更新二話目です。

今日はもう一話更新できそうなので、後で更新します。

よろしくお願いします。


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