嬉しい報告
「ローリー?どうしたの?」
話の途中で黙って考えていてしまったから、カリナが不思議そうに聞いてきた。慌てて謝る。
「ご、ごめんね、カリナ。ちょっと考え事してた」
「いいよ、ゆっくり話して」
そう笑ってくれるカリナに安心する。
それにしても、アリオンの事を思い返す度に出てきて気づいてしまう想いや行動はどうにかならないんだろうか。思い返す度に心が締め付けられてしまって仕方ない。
――過去だから変えられないんだけど……!
カリナに話していたことを思い出してから話す。
「えっと……そう……その、アリオンが……私に触れる前に……いつも聞いてきてたのが、なくなって……。え、遠慮がちに触れてたのが、その……遠慮がなくなった……というか……。ほ、頬に触れられたり、手を握ってきたり……ひ、額を合わせたりとか……頭を撫でられて……髪を梳くのも……い、いつもして、くれて……す、すごく、あ、甘くて……ふ、触れ方も……いつも、優しくって……」
さっき思い出した事と違い過ぎて頭が沸騰しそうだ。
――前は全然触れてこなかったのに……今は、すごく触れてくる……!
あんなのドキドキして、何も考えられなくなるのも当然だと思う。コロッといっちゃいそうなのも当たり前だ。
カリナが私の言葉に少し顔を赤くして頬を抑えた。
「す、すごいね……な、なんだか……聞いてるこっちも……恥ずかしい……」
そう言ったカリナに少しほっとする。やっぱり聞いていても恥ずかしくなるくらいに、アリオンは……甘い。
「だ、だよね?その……アリオンと一緒にいると……そんな感じで……アリオンのき、気持ちをね……余すことなく、伝えてきて、くれて……。わ、私……な、何にも考えられなく、なってきちゃうの……。なんだかふわふわしてきて……あ、アリオンと……もっと、い、一緒にいたい、なぁって……ことしか……考えられなく、なっちゃうの……」
私の言葉にカリナが目を瞬かせた。
「……えっと、ローリー……それって……」
「あ、ちゃんと、わかってるのよ?こ、こんなんじゃ駄目だなあって……。昨日もね、マスターに焦らずにゆっくり、一つずつ、自分の気持ちを整理するのがいいって言われたの……。だから、考えようって思ってるんだけどね……」
カリナの驚いたような言葉に、昨日の出来事を思い返しながら答える。
「昨日……もしかして、前にブライトさんに連れていってもらったっていうマスターのお店に行ったから、ブライトさんも来たの?」
カリナもアリオン達が今忙しいのを分かっているから、昨日いつ会ったのかわからなかったのだろう。
そのカリナの言葉に頷いて答える。
「うん……。昨日アリオンが早く終わるって聞いたから……アリオン、前に行った時にね、迎えに来てくれるって言ってたから行ったの。アリオン、私との約束、絶対守ってくれるもの……」
思い出すと嬉しい。
そうだ、マスターがアリオンの気持ちをわかっていたという事は、もしかしてあの時には気づいていたんだろうか。
背中を押してもらったとも言ってたし、そうよね……。
あの日は助けてもらったり、いつでも助けに行くと言ってくれたり、頭を撫でてくれたり、ちゃんと泣けとも言われていた……。
――お、思い出すと……や、やっぱり甘い……!
赤くなっている頬を冷まそうと手で抑えてみるけれど、手も熱いから意味がないように思える。
カリナは目をパチパチとさせてから聞いてくる。
「ローリー……もしかして、ブライトさんに会いたくてそのお店に行ったの?」
「!うん……そうなの……。あ、あんまり会えてなかった、から……あ、会いたく……なっちゃって……」
恥ずかしくなってもじもじしながら言う。
会えてなかったから寂しかった。アリオンが私にずっと会いたかったと言ってくれていたけど……私だって、会いたかった。
そうしてはっと気づく。
――……これ……結構、アリオンの事……す、好きに……なってきているの、かもしれない……?
アリオンと同じような気持ちだったという事は、私だってアリオンの事を、か、考えられている、という証拠で。
「……カリナ」
嬉しくなって、口端を綻ばせながらカリナを呼ぶ。
「どうしたの?」
可愛く首を傾げるカリナに、溢れた笑顔のまま告げる。
「あのね、わ、私……結構……あ、アリオンの事……恋愛、的にも、す、好きになって……きてる、かも……しれ、ない……」
「!!そっか。どうしてそう思ったの?」
カリナは目を瞠ってから、優しく目を細めて笑って聞いてくれた。
「あ、会いたいって……あ、アリオンも……言ってた、から……。わ、私も……おんなじような、気持ち……だ、だんだん……抱いて……きてるの、かもって……」
カリナにこうやって報告できていることが嬉しい。
「ふふ、そうだね」
カリナの優しい微笑みに、私も頷く。
「えへへ。嬉しい……。カリナが聞いてくれた、お陰かも……。最近、まともに考えられてなかったもの……」
マスターに言われていた一つずつ考えるということを、カリナにこれまでの事を話したお陰で自然に考えられた。
「ふふ、力になれてよかった。それで、昨日迎えに来てくれた時にブライトさんにキスされたの?」
カリナは楽しそうに笑って、爆弾を落とす。
「!!か、カリナ!ひ、額に、キス、ね!」
「うんうん、そうだね」
カリナは絶対にわかっているはずだ。カリナが楽しそうなのは嬉しいけれど、意外と意地悪な一面が見えてしまった。
なんだか新しい一面が見えて嬉しいのに、この一面はちょっと困ってしまう。
眉を下げながら、ちゃんと朝来た理由の事を話そうと口を開いた。
「もう……。……あの、その……家まで送ってくれた時にね……。あ、アリオンが……早番だって言うから……焦っちゃって……。よ、呼ばない方が、よかったかなって……言おうとしたら……」
「言おうとしたら?」
唇に親指を……当てられて、何も言えなくなったんだった。
――あれ?私……額にキス、の、前も……か、かなり恥ずかしい事……さ、されてない!?
「あう……」
思い出した途端、変な声を出して真っ赤に体を染めてしまう。
カリナは私の様子に眉を寄せて心配そうに顔を覗き込んできた。
「……ローリー、もしかして言えないような事、されたの……?」
心配そうなカリナに真っ赤な顔のまま答える。
「え……?あの……その……い、言えなくは……ないと、思うんだけど……い、言うの……は、恥ずかしい、の……」
唇に……指を当てられたなんて……なんか、口に出すのって恥ずかしい気がする……。
「……額にキスよりも……?」
カリナの言葉がぐさりと刺さる。
「はう……」
思わずまた変な声が漏れた。
額にキスは来た時の勢いで言えたけれど、少し頭が冷えるとなかなか言い出せない。
カリナは眉を寄せたまま聞いてくる。
「……ローリーは、嫌じゃなかったの?」
「うん……その……嫌じゃ……なかったよ……」
嫌だなんて思ったことはなかった。手をくるくると回す。
カリナは心配そうな顔のままだ。
どう言ったら心配されないだろうかと考えていると、カリナが真剣な顔をして肩を掴んで目を合わせてきた。
「……ローリー、ブライトさんだから大丈夫だとは思うけど……思うけど……。あの、まだ付き合ってないんだから……駄目って言うことも大事だからね?」
「え?」
その言葉に目を丸くした。
頭が疑問でいっぱいになる。
「嫌じゃないからって流されちゃ駄目だよ?ブライトさんだって、男の人なんだからね?付き合ってからもね、ローリーの気持ちも大事にしないと駄目だよ?それこそブライトさんが喜んでくれるからって自分を犠牲にしたりしたら、いくらブライトさん相手でも私許さないからね。ブライトさんもローリーが嫌って言わないからってそんな事してるなら、私許せないんだけど」
厳しい顔でそう言われて、何をカリナが言っているのかやっと理解した。
「わー!!ちょ、ちょっと待ってカリナ!?た、たぶん誤解してるわ!?」
焦って止める。カリナが言っているのは恐らく……私がアリオンがするなんて思ってもいない事だと思う。
全身が熱くなって、真っ赤になったのがわかった。
読んで頂きありがとうございます。
今日は遅くなるかもしれませんが、もう1ページ更新しようと思います。
遅くなりましたが、年末年始に更新できなかった分の振替です。
あと2日更新できなかったので、また2ページ更新の日を作ろうと思ってます。
よければこれからも読んで頂けると嬉しいです。




