違った扱い
ぼうっとアリオンの事を考えていると、カリナが腑に落ちたように聞いてくる。
「それで……紹介なんて言い出したんだね。もしかして……話を聞いてもらった後にも、紹介の話しちゃったの?」
「う……うん、しちゃった……」
カリナの鋭い指摘に頷く。カリナはアリオンが話が終わった後に告白を言い出す状況がそれぐらいだと察してしまったのだろう。
――アリオンも言うか迷ったって言ってたものね……。
紹介の話を蒸し返されて、いい人いるのかまで聞かれたら限界だったと言っていた。
――私的には……アリオンが告白してくれたから……よかったんだけど……。
たぶん紹介の話をもう一度言い出さなかったら、アリオンはカリナの言う通り私の事を考えて、混乱させてしまうだろうからって言わなかっただろう。そうしたらきっと……私はアリオンの想いに気づかないまま、だった。
それは……とても嫌だ。
「なるほど……だから、ブライトさんも耐え切れなくなってローリーに告白したんだね……」
赤くなって俯いていると、カリナが優しく背中を叩いてくれた。
そんなカリナをちらりと見ながら続きを話す。
「う、うん……最初にね、紹介してって言ってたから……。アリオンが話を全部聞いてくれた後にも、もし考えていてくれていたら悪いなと思って、紹介の事聞いたの」
「悪い、なの?」
カリナが目を瞬かせながら聞いた。その言葉にこくりと頷いて、カリナを見る。
「うん。アリオンが私が傍にいるなら彼女なんていらないって言うから、私もアリオンが傍にいてくれるなら彼氏なんていらないかなって思って」
「え」
カリナが思わず出たような声を漏らす。
「だって、彼氏いたら……アリオンに甘えるなんてできないし……アリオンじゃないと……ほんとは甘えるのも気を許すのも嫌だったもの……」
手をいじりながら少し拗ねた声を出す。
だって、アリオンだから甘えられていたのに。紹介の事を考えていた時は彼氏が甘やかしてくれるかもしれないと思ったのは思ったけれど……きっと、そうなれないかもしれないとは、考えていた。
――だって私は……言うなら、アリオンがよかったって思っていたもの……。
でも、あの時は進むしかないと思っていて……アリオンが紹介してくれるならきっと間違いはない人だろうから、それから考えようとして……。でも、アリオンを見るとすぐに甘えたくなって、甘えないようにするのに必死だった。
――やっぱり、長い付き合いのアリオンだからこそ……信じられる、から。
でも、アリオンが私の傍にいたいって言ってくれた瞬間に、そんな心配は不要になった。
「……うん、そっか……そっかぁ……」
カリナがなんだか遠い目をしながら相槌を打った。その相槌に意味が籠められているような気がして、目を逸らしながら答えた。
「あ、わ、私だって……こんな事を考えてる時点で、アリオンの事、か、かなり、す、好きだな……って、分かってるのよ?で、でもね……その……恋愛的に好きにならないと……アリオンの想いに、応えられないなって……」
――また、アリオンをだいぶ好きだったという事実が補強されちゃったけど……!
さっき考えた事に恥ずかしくなってくる。私はアリオンに突き放されたくないくらいには大事に思っていて……アリオンの傍にいたいと思うくらいに、もともと、す、好き……だったんだろう。
でもあの時はユーヴェンを好きだったから……恋愛的な意味じゃなくて……とても大切な友人として、だったんだろうけど……。
私はアリオンに対してずっと……守ってくれる……兄、みたいに思っていた所が、あったと思う。ユーヴェンに対しては……手のかかる弟みたいな所もあるのに、何に対しても真っ直ぐで、人の悪意なんかものともしない所に、憧れていたんだと、思う。
どちらかと言えば、私にとって身近な存在はアリオンの方だったような気がする。
――だから……傍にいたいって、思ったのかな……。
アリオンが傍にいてくれれば、彼氏なんていらなくて……だって、アリオンなら……私が何をしても、受け入れてくれるって……思って……いて……。
――わ、私って……なんだかアリオンの事を、す、すごく信じているわね……!?
アリオンだから、当たり前……だとは思うんだけど……。ユーヴェン、はどう……なんだろう?
長く一緒にいるのは、ユーヴェンも一緒だけど……。
「そっか。じゃあ……今は好きになってる最中なんだね?」
カリナのその言葉に、はっとする。考え込んでしまっていたけど、今はカリナに話している最中だった。
確認するような内容に頷く。
「うん、そうなの……。アリオンの気持ちに応えたいなって思ってるんだけど……あ、アリオンすごく甘くて……す、好きとか、可愛いとか、綺麗とか……すぐに言ってきて……あ、頭もす、すごく優しく、撫でてくれたり……色々……や、優しくて……い、愛しい、なんて言ってきたりも……して……!ど、ドキドキして……な、なんにも考えられなくなってくるの……」
アリオンの告白してからの行動を思い返すだけでむず痒くて、ドキドキしてくる。熱に浮かされているような、不思議な感覚がする。
「ふふ、ローリー、真っ赤だね。頭撫でてくれるっていうのは……告白される前からだよね?どうしてそうなったの?」
カリナの指摘に頷く。さっき話したから気づいたのだろう。
「あ、うん……そ、そのね、えーと……あ、アリオンと一緒に飲みに行ったって言ったでしょ?その時にね、頭撫でててくれたのが……その、心地よかったから、アリオンがつい頭撫でちゃったときにね……い、いつでも撫でていいわよって、言っちゃって……」
流石にフューリーさんの事は勝手に言えないけれど、言い出したのはそんな気持ちからだった。
「そっか……」
カリナは緩く笑って頷いた。
「あ、アリオンね……その、告白してからもずっと、頭撫でてくれたり、するんだけど……。こ、告白してくれてからは……もっと甘くなって……その、私が、ふ、触れてほしいって言ってからはもっと……!」
その私の言葉にカリナは目を見開いて大きな声をあげた。
「ローリー!?ブライトさんに何言っちゃってるの!?それは私でも言っちゃ駄目だってわかるよ!?」
「うう……あ、アリオンにも怒られた……」
カリナにも言われてしまって肩を落としながら言う。これはスカーレットにも言ったら怒られそうだ。
カリナは安心したように声を落とす。
「あ、そうだよね。ブライトさん、ローリーの事、大切にしてるもんね。怒るよね……。え、でも……さっき、もっとって……」
少し疑わしい目で見てくるカリナに慌てながら説明する。
「え、えっと……あ、アリオンってね、ちょっと手を握るのにも……その、いいかって聞いてきてたの……。頭を撫でていいって私が言った後だって……たまに、嫌になってないかって聞いてきてて……」
アリオンは決して軽々しく私に触れないようにしていた。友人でいる間だって、軽く触れて止めたり、ちょっとだけ頬を摘んだりしてくるぐらいで、ユーヴェンのように頭を遠慮なく撫でたりとか肩を組んだりとかをすることはなかったのだ。
そもそも軽く触れるようになったのだって、アリオンがハイタッチもしてくれないと私が怒ってからだった。
学園の頃は男子の遊びに私も参加していたので、色んな遊びで自分達のチームが勝ったらハイタッチして勝利を分かち合ったりしていたのに……アリオンだけはよかったよな、って頷くくらいでいつもしてくれなかったのだ。
……アリオンってあの頃はどうだったんだろうか。学園の最初の方からだとは言っていたけど……一年次の頃はハイタッチもしてくれないから、正直友人と思っているのは私だけかと思って悩んでいた。
それで耐え切れなくなって、アリオンに怒ったのだ。アリオンはそんなつもりじゃなかったと謝っていた。
アリオン的にはいくら友達とはいえ、女子に軽く触れたら駄目だと思っていたらしい。
というか、妹のエーフィだったらと考えたら、男子集団の中で一緒に遊んでハイタッチまでしているなんて嫌だと言っていた。……その割には他の男子とハイタッチしてても止めてなかったくせに……。
思い出すと、少しだけむっとしてしまう。
――私が怒ってからは軽くなら触れるようになった、けど……。
それでも、ユーヴェン程ではなかった。他の男子だとハイタッチや呼ぶ時に肩を叩くぐらいで、アリオンもそれに近かったと思う。あとは私が拗ねていると面白がって軽くだけ頬をつついてきたりするぐらいの距離感だった。
それに他の男子が肩を叩くのは、大体は最終手段ぐらいの扱いになっていた。それというのも、私が振り向くのを面白がってやり過ぎた男子がいると、注意しようとする前にアリオンが先に男子の手を掴んでやめさせていたからだ。
――あれ?あれも……アリオン……もしかして、守ってくれてた……?
カッと頬が赤くなる。それはいつからだったか思い出そうとするけれど、わからない。それだって何回かしかなかったと思う。大抵の男子は肩を叩くのは声が届かなかった時の最終手段だと言っていた。
……なぜか私の肩を叩くと叫んでたのよね、最終手段だった!って……。私は意味も分からず、そうなの、と頷いていた、けれど……。もしかして、アリオンが何かしていたんだろうか……?
そう考えると、アリオンが本当にいつから好きだったのかわからなくなってくる。
アリオンの言葉からして、好きになる前だったとしても妹のエーフィちゃんのように扱われていたので、だいぶ大切にされていたような気がする。
――ユーヴェンと一緒くたな扱いだと……思っていたのに……!
今考えるとかなり違うような気がする。言葉遣いは同じ感じだけど、行動が私に対しては全て甘かったように今更ながら思ってしまう。