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離れたかった理由


「……ローリー?」


 少しだけいつもより低いカリナの声にビクッと肩が跳ねる。

 縮こまりながら返事をした。


「は、はい……」


「いい人紹介してほしいって、何?ローリー、自分の気持ちを抑えつけて、勝手に自分で解決しようとしてたの?」


「か、カリナ……」


 ずいっと近寄りながら詰める、カリナの笑顔が怖い。


「なんで自分を簡単に犠牲にしちゃうの、ローリーは。私だって……確かに抑えつけようとしたよ?だからあんまり言えない事はわかってる。けど、ローリーがそんなのするくらいならその前に言って欲しかった。そうしたら、私だってちゃんと向き合ったよ?言い難かったのはわかってるけど、ローリーが自分を犠牲にする方が私は嫌だよ」


 切ない顔で言ったカリナの言葉が刺さる。私もカリナの立場だったら、怒っていた。


「ごめんカリナ……」


 しゅんとして謝る。その言葉にカリナは首を振った。


「ううん、私もちゃんと言えばよかったね。そうしたら、ローリーがそんな事言い出さなくて済んだのに……」


 カリナまで落ち込み始めたので、私は焦る。


 カリナとユーヴェンの為でももちろんあったけれど、考えついたのはアリオンから離れなきゃって思ったからだった。

 だからカリナのせいじゃない。私が勝手に決めてしまったからだ。


「違うのカリナ。私がその……いい人紹介してほしいってアリオンに言ったのは、アリオンから離れなきゃって思ったからなの。それで……ユーヴェンを忘れるのにも都合いいなあって思っただけで……初めから、そうするつもりじゃなかったのよ……」


 私の言葉に、カリナは思い掛けない事を聞いたように目を瞬かせた。


「……え……?ローリー……なんでブライトさんから離れなきゃって思ったの?」


 そのカリナの問い掛けに、思い出しながら話し始める。


「えっと……アリオン、私がユーヴェン好きな事気づいてて……だから三人で会う前日にね、言ってくれたの。何かあったら行くから言えって」


「……うん」


 カリナは少し眉を下げた様子で私の話を聞いている。


 そう、あの時アリオンは私の気持ちに気づいていたはずで、だからあんな言葉を掛けてくれたんだろう。

 ……気づいてなくても、アリオンの事だから私の様子が変だったら声を掛けてくれた気はするけど……。


「だからね……その、カリナとユーヴェンに伝達魔法送った後に、アリオンに言おうと思ったの。アリオンなら絶対来てくれるから」


「……そっか」


 アリオンなら約束は絶対に守ってくれるから、言おうと思った。

 だけど。


「でも……その……たまたま……アリオンを見掛けた、というか……声を、聞いただけなんだけどね、いたの。それで……会話を、聞いちゃって……。この前、スカーレットが言ってたじゃない?同僚の騎士の女性には普通に接してって」


「え?あ、うん、言ってたね……?」


 カリナは不思議そうに頷いた。


「だから……アリオンが、同僚の女性に普通に話してるの聞いたらね、アリオンもいつか私から離れていっちゃうんだろうなって思って」


「え、なんで?」


 心底わからないように問われた事に驚いてしまう。


 ――あれ?この思考って普通じゃなかったのかしら……?


 とりあえずカリナの質問に答えようと考える。


「え、えっと……アリオンが、女性と普通に話してるの、私が頼んだカリナとスカーレット以外だと初めて聞いたから……。その時に、アリオンにも私が知らないアリオンの関係があるんだなぁって、思ったの。そしたら……いつかきっと、ユーヴェンみたいに好きな人ができて私から離れていっちゃうんだろうなぁって思って」


 ――好きな人は私だったわけだし、結局いらない心配だったんだけど……。


 そう考えると、口元が緩む。


 カリナは私の言葉に少し顔を赤くしていた。


「す、好きな人……って……。た、たぶんユーヴェンさんも、ちょっと好意を持ってくれてるだけだからね」


「……そんなことないと思うけどなぁ」


 カリナの言葉に、少しにっと笑って答える。


 ユーヴェンの態度なんてわかりやすいと思うけれど、カリナも意外と自分の事には鈍感なのか……気づかないようにしているのかもしれない。


 きっとカリナにとって初めての気持ちだ。だからゆっくりと考えていけばいいと思う。


「そ、それよりもなんでローリーがブライトさんから離れなきゃって思ったの?」


 だから、その誤魔化しの言葉に素直に頷いた。


「ふふ、そうね……どこまで話したかしら……。あ、そうよ。きっとアリオンにも好きな人ができて、私から離れていっちゃうんだろうなって思って……。その、私が彼女って噂も、そのままにしちゃってたし……このままじゃ駄目だなって思ったの……」


 あの時の事を思い出しながら話していく。


 アリオンにも好きな人ができてしまったら、私は遠慮なく甘えられる人がいなくなってしまう気がして……寂しかったんだと、思う。


「……なんで駄目なの?」


 カリナの言葉に、目をパチリとさせた。


 ――なんで、駄目だと……思ったんだっけ?


「だって……アリオンに私ずっと甘えちゃってたから……。アリオンは……気を遣わなくていいって言ってくれてたけど……。その時は……甘え過ぎちゃったら……アリオンの事、離せそうにないなって思っちゃって……。それに噂だって……アリオンは私のことばっかり気にしてたけど、アリオンだってそんな噂があったら……好きな人ができた時に誤解されちゃうんじゃって思ったの……」


 そう、アリオンにあのまま甘えていたら……アリオンを離せそうにないと思ったのだ。アリオンに好きな人ができても、私がアリオンに甘えたままだったらその好きな人に悪いと思った。


 アリオンの好きな人……私だったから全然離れなくてもよかったのだけれど……。


「うん……?」


 カリナはまだ不思議そうにしていた。


「その……アリオンに好きな人ができても離せないなんて駄目だなって思ったの。だからね、アリオンに頼らないように、甘えないようにしようと思って……私は離れて……アリオンとの噂も消さなきゃなって思ったの……。それで考えたのが、私に彼氏ができたら……自然と噂も消えて、アリオンからも……離れられるはずって考えたの。そういう訳だから、カリナのせいなんかじゃないのよ。私が勝手にそうしたら全部うまくいくって思ったのが悪かったの。……それで……アリオン、気を遣って何も言われない方が嫌って言ってたから……頼るのはこれで最後にしようと思って、いい人を紹介してって頼んだの」


 カリナは目を一度瞑って考えてから、私に問い掛ける。


「……それは……ローリー、ブライトさんが離れていくのが嫌だったって……こと?」


「!!」


 カリナの言葉に目を見開く。


「だから……自分から先に離れようとしたの……?」


「……あ……えっと……」


 自分から先に……離れる。

 そうだ、そうだった。だってアリオンが離れていくなんて嫌だった。私はそれをきちんと認識していなかったけど、確かに……そう思っていた。


 こくりと頷いた。


「……うん……嫌、だった……。アリオンから……好きな人ができたから、私に……構えないって言われるのが、たぶん……怖かったの……」


「うん」


 今気づいた、あの時の気持ちに眉が下がっていく。


 女性騎士と普通に話しているアリオンを見て、いつかアリオンが離れていく想像をしてしまった。その想像が現実になるのが私は嫌だった。


「アリオンね、私が助けを呼んでるならいつだって行くって言ってくれた。頭を撫でてくれるのも、いつも気持ちよかった。何かあったら行くって言ってくれるのが、頼もしかった。私が落ち込んだ時には傍に居させてくれって言ってくれたのが、嬉しかったの」


「そっか」


 カリナの優しい声が落ちた。


 あの時の事を思い出すと、なんだか辛くなってくる。アリオンが私を想ってくれているとわかっている、今はもう関係ないはずなのに。


 ぎゅっと手を握る。カリナも、私の手の上から握ってくれた。ぱっと見た表情は優しくて、落ち着く。


 アリオンの温かい言葉も行動も、何もかも私の中に残っているのに……急にもうできないと言われてしまうかもしれないことが怖かった。


「それなのに……アリオンに好きな人ができたら……もうそんな風に甘えちゃ駄目なんだなって思って……。アリオンが好きなクッキーも、もうアリオンに作ってきちゃ駄目になっちゃうんだろうなって……そう思うと……嫌だったの。だからね……私がまだアリオンを離せる内に、離れようって……。だって、いつも私に優しいアリオンから突き放されるような事を言われるのは……辛いなって、思っちゃったの……」


 今更気づいた、自分が紹介を言い出した理由。


 ――ほんとは……アリオンの傍に……私が、居たかったんだ……。


 なのに、突き放されるのが怖くて……私から、突き放してしまった。アリオンは突き放されて落ち込んだと言っていた。


 ――もう一回ちゃんと、謝ろうかな……。


 アリオンは……気にすんな、と、言うか、んな事する訳ない、と、少し怒るかもしれない。だって、今はもう……アリオンが私を突き放すなんて考えられないもの。


 そうやってアリオンの事を考えると、心がぎゅうっと鳴った。


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