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大切な友人


 スカーレット達と別れた後、話しながら歩いているとすぐに魔道具部署に着いた。

 魔道具部署に入る手前で止まって、アリオンにお礼を言う。


「ありがと、送ってくれて」


 そうするとアリオンは柔らかく笑ってくれた。


「いいよ。弁当ありがとな。味わって食べる」


 今日は張り切って作ったから、そう言ってくれるのは嬉しい。自然と笑みが零れた。


「うん。しっかり食べてね」


 頷くと、アリオンが私と目を合わせるように屈む。


「ローリー、話の内容によっては送れねぇかもしんねぇから、今日は俺を待たずに早く帰れ。ただ気をつけて帰れよ」


 心配そうな顔で言うアリオンにしゅんとする。


「……うん」


 最近よく送ってくれていたから、なんだか寂しい。


「ほら、また会えっからんな顔すんな。勤務形態がどうなるかわかったら連絡いれる。通常勤務の時でリックさんがいねぇ時は、約束通り朝ちゃんと迎えに行くから」


 眉が少し下がった、けれどとても優しい顔で声をかけてくれるアリオンに、私も眉を下げながら笑った。


「……わかった」


 私が返事をすると、アリオンは辺りを見回す。誰もいない事を確かめてから、ぽんと優しく頭を叩いてくれた。


「ん、じゃあな」


「うん、じゃあね」


 そう言い合って、手を振る。アリオンが時々振り向きながら去る後ろ姿を、見えなくなるまで眺めていた。

 振り向く度に嬉しそうに笑うアリオンに、心がほわほわとした。


 アリオンの去り際に一瞬だけ触れてくれた頭が、温かい。


 アリオンの後ろ姿が見えなくなってから、魔道具部署に入る。魔道具部署にはまだぽつぽつとしか人がいなかった。

 来ている人に挨拶をしてから自分の席に座る。


 まだ始業時間前だから、ゆっくりしていても大丈夫だろう。


 ぼうっとしながら考える。

 アリオンも、兄も、スカーレットも……きっとグランドン隊長が言っていた件に参加するのだろう。

 不安が全て消えた訳じゃない。スカーレットもそうかもと考えた時、また不安が大きくなった。

 それでも、アリオンが、信じてくれと言ったから。きっと待つ者の役目は、信じることなんだと気づいた。


 ――信じて、待っていよう。


 目を瞑ってアリオンの柔らかい笑顔を思い浮かべると、とても……優しくて心強い気持ちになれた。


 そうしていると、可愛らしい声が聞こえてきた。

 目を開けると、笑顔のカリナがいた。


「ローリー、おはよう」


「おはよう、カリナ」


 挨拶をされるので、私も笑って返す。


 カリナはきっと姉弟達と一緒に来たのだろう。姉弟達の仕事に合わせて来ている為か、いつもカリナは早めに来ている。

 視線を巡らすと、魔道具部署の入口にカリナの姉弟達が見えた。いつもは人が多くなるまで誰か一人が残っているようだが、私が居るのが見えたので仕事場に行くつもりなのだろう。ぺこりと頭を下げると、カリナの姉弟達から手を振られた。


 そんな私と姉弟達を眺めてから、カリナは私に話を振った。


「今日早いんだね。この前みたいにブライトさんとお兄さんの所に行ってたの?」


 そう聞いてきたカリナの言葉に、この前の事を思い出す。あの時も早く来て、カリナに早いねと言われてアリオンと兄に会いに行っていたことを話したのだ。


 あの時のアリオンも私の事を好きだったのだと考えると、心臓がぎゅっとなる。私が頭を撫でて欲しいと言った時の少しだけ見えた恥ずかしそうに赤くなった顔と、撫でている時の優しく微笑んでいる顔。そして……私じゃないとこんなことしないと言った、真剣な表情。

 思い出すと、むず痒くなってくる。


 そんな事を考えながらカリナの言葉に頷くと、なんだか上の空のような返事になってしまった。


「うん……」


「?どうしたの、ローリー」


 その上の空の返事に、首を傾げながらカリナが聞いてくる。


 周りに同僚がいるこの場所では話せないけれど、カリナにも私の心の内を話したい。そして、アリオンを好きになりたいと思っている気持ちを、知ってほしい。

 だから。


「カリナ……あのね、今度の休日会う時に話すから……聞いてほしいことが、あるの」


 そうお願いする。


 アリオンの話をしたい。あんなに優しくて、私をとても大切に想ってくれているアリオンの事を……大事な友達のカリナやスカーレットに聞いてほしい。

 そして……どうしたら好きになれるのか、教えてほしい。

 きゅっと唇を寄せた。


 カリナは優しく笑って頷いてくれた。


「うん、わかった。……ふふ、なんだかローリーに甘えられてるみたい」


 手を口元に持ってきて目を細めて言ったカリナに、目を瞬かせた。


「え、そんな感じだった?」


 思わず顔を触るけれど分からない。


「うん。可愛い、ローリー」


 とても嬉しそうに可愛く笑うカリナに恥ずかしくなって、手で顔を覆う。


 ――カリナの方が可愛いと思うのだけど……!


「う……ご、ごめんなさい、カリナ……。もっとしっかりするわね」


 アリオンにも甘えてしまっているのに、カリナにも甘えてしまうなんて少し気が緩んでいるようだ。


 ――アリオンは甘えられるのが嬉しいって言ってくれるから……。


 そう考えて更に恥ずかしくなった。

 もしかするとアリオンに会った後だから気が緩んでしまっていたのかもしれない。


 カリナは私の言葉にきょとんとした顔をする。


「え、可愛いからそのままでいいよ。それにいつもローリーに私の方こそ甘えてるもん。もっと甘えてくれていいよ」


 にこにこと笑って言ったカリナに、少したじろぐ。


「で、でも……」


「私に気を遣わなくていいよ。ローリーに頼られるの、嬉しい」


 ふわりと笑って言ってくれるカリナに嬉しくなって、思わず笑みを漏らした。


「……うん。ふふ、ありがとう、カリナ」


 やっぱり、私はカリナが大好きだ。昨日のアリオンの、カリナの事をかなり好きだと評した声が蘇った。


「今度、お話聞くね。……ローリー、私もね……ほんとは話したい事があるんだ」


 カリナが決意を秘めた翠玉色の瞳で見つめてきた。私は碧天の瞳をカリナの瞳に合わせてから微笑んだ。


「そっか。じゃあ私もカリナの話聞くわね」


 きっと、ユーヴェンの話だろう。


 少し胸が痛んだけれど、アリオンの事を思い出すと痛みが和らいだ気がした。


「うん、よろしくね。ふふ、二人で遊ぶなんてスカーレットに羨ましがられちゃいそう」


 カリナが楽しそうに笑って言うので、私も同じように笑う。


 そうしてスカーレットの事を思い出すと、困惑させてしまった罪悪感が湧いてくる。


 ――いつ話す機会があるかしら……。


 呼ばれていたのがアリオンと同じ用件だとしたら、スカーレットにも気軽に会えそうにない。どうしようかと考えながら口を開いた。


「ふふ、そうかしら。私さっきスカーレットに少しだけ会ったわよ。そこで……スカーレットに早めに説明しないといけないことができちゃって……。いつ話そうかしら……」


 悩んだまま話すとそのまま口から出てしまった。カリナなら家も隣だからもしかしたらスカーレットの予定もわかるかもしれない。今聞いているものは変わってしまいそうだけれど。


「そうなの?今度一緒に話す?スカーレットに来れるかまた聞いてみておくよ?」


 そのありがたいカリナの申し出に目をパチクリとさせた。


「……いいの?」


 そう首を傾げて聞く。


 カリナは一度息を深呼吸をしてから、私の目を真っ直ぐに見た。


「……私は、大丈夫だよ。スカーレットにも、話したい。ローリーは?」


 そのカリナの言葉にこくりと頷いた。


「私も大丈夫よ。カリナに話そうと思ってた事と被ってるし……」


 頬を搔きながら言うと、カリナは目をパチパチとさせて不思議そうに聞く。


「……そうなの?」


「うん」


 可愛らしいカリナの仕草に微笑む。カリナも安心したように微笑んだ。


「そっか……。うん、じゃあ決まりだね。スカーレットが大丈夫だったら、三人でお話しよ」


「ええ、わかったわ」


 カリナにもスカーレットにも、私の気持ちを聞いてもらおう。


 二人は大切で大好きな、私の友達だから。


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