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好きという気持ち


「……ね、アリオン、好きになるって……どうしたらいい?」


 どうしたら、アリオンを好きになれるか分からない。


 だって、昨日よりも前から、私はアリオンに対して心を許していて。触れられても嫌じゃなくて。一緒に居るとなんだか落ち着けるのが、アリオンで。

 だから、これ以上どうしたら好きになれるかなんて……分からなくなってくる。

 アリオンに触れられると心臓は鳴るけれど、それはこんな触れ方をされたことがないからかもしれないと思って。いくら早く好きになりたくても、ちゃんと好きにならないとアリオンの想いと向き合うのは早いと思うから。


 アリオンなら分かるかもしれないと、聞いてみた。


「そうだな……俺もローリーが初恋だしな……。しかも長い事気づいてなかったし……。ただ、ローリーの事はずっと大切にしたいって思ってたし、可愛くて綺麗だって思ってた。それに、いつも見てるお前の碧天の瞳がずっと綺麗で好きだと思ってて、お前のコロコロ変わる表情なんてずっと見てても飽きないって思ってたんだよ、いつも。ただ、そうだな……好きだって……気づいてからは、どうしたってお前を見ると…………」


 そこでアリオンは一旦言葉を止めた。恥ずかしそうに顔を赤くしている。


 アリオンの気づく前から想っていてくれてたと分かる言葉が、嬉しくて。


「……アリオン、教えて?」


 どうしても続きが聞きたくて、アリオンにお願いする。


 そうすると、赤い顔のまま溜め息を吐かれた。


「お前は……。リックさんに言われたろ……甘えたように言うなって……」


 そんなつもりはなかったので、その言葉に目を瞬かせる。


「甘えた感じだった?」


 少し申し訳なく思いながら聞くと、アリオンは仕方ないように笑った。


「そうだよ……。でも、ちゃんと教えてやる。……俺はな、お前を見ると、鼓動が跳ねたし、近くに来ると、すげぇドキドキしたし、心臓が締め付けられたり、お前が俺を見てないと思うとむしろ苦しくなったり……それなのにお前にちょっとでも意識して欲しくて、近づきたいと思った。お前に触れてもいいなんて言われた事が幸せで。そんなお前を誰にも触れさせたくなかった。だからユーヴェンがお前に触れそうになった時に止めたんだ。お前がユーヴェンの事を想って、頬を染めてはにかんでんのがすげぇ嫌だった」


 アリオンの手がするっと頬に触れる。そのアリオンの声は切ない。


「アリオン……」


 私が少し眉を下げながら名前を呼ぶと、アリオンはふっと笑った。


「それでも、俺はお前を諦めるなんてしたくなくて、お前をユーヴェンにも誰にも渡したくないって思った。お前とユーヴェンの噂聞いた時なんて、すげぇ嫌で、俺とだけの噂しかいらねぇって考えるぐらいには……独占欲もお前に対して持ってんだ。それでもお前の事考えて、ローリーの傍に居られたらいいって思った。俺が誰よりもお前を大切にしたかった。……流石に俺にしろ、までは言えなかったけどな。だから……ローリーが、落ち込んだ時に傍に居させてくれるって言ってくれて……すげぇ嬉しかったんだ。……そんでお前が俺に少しは甘えてくれるかと喜んでたのに、突き放されたけどな」


「え、そこ突っ込むの!?」


 最後の部分でジトッとした目で見られたので思わず聞き返す。


「俺だって落ち込んだんだよ」


 少し拗ねた顔で言われたのは初めて聞く話なので謝る。


「ご、ごめんってば……」


「俺はお前しか好きじゃねえのにいらねぇ心配されてるし」


 頬に触れていた手が少し頬を摘んでくる。痛くはないし、喋るのに困らない程度だけど。


「知らなかったんだから、仕方ないじゃない……」


 少し目を逸らしながら言うと、アリオンは軽く息を吐いた。


「わかってるよ……。でもな、お前が少し落ち着いたと思ったら紹介の話蒸し返されて。俺ほとんど告白したようなもんだったのに、お前気づかねぇ上にいい人いるのか聞いてこられて……あんな話をした後でちゃんと告白するか迷ったけど、限界だったんだよ。ローリーが新しい恋をしたいと思ってんなら、俺にしてほしかった」


 アリオンの頬を摘んでいた手が、また頬に触れた。そして摘んでいた所を親指で優しく撫でてくる。


「んぅ……」


 その手の感触に、ピクッと反応してしまう。


「……だから、お前が俺の想いに応えたいって、好きになりたいって言ってくれて、本当に嬉しかった。……一応な、お前と接してる時や、近づいた時……今だって、すげぇ心臓バクバク言ってんだぜ?お前と一緒に居られるのが嬉しくて、ローリーが俺の事考えてくれるのが……すげぇ愛しいんだ」


「!!」


 私を見つめてくる灰褐色の瞳は、柔らかく笑んでいて……さっきアリオンが言った、愛しいという感情が、溢れているみたいで。


「俺はな、ローリーにずっと笑顔でいてほしくて、ずっと傍にいたくて、誰にもお前を渡したくないぐらいに好きなのに、お前の泣いた顔には弱くて、そんなローリーを見ちまうと、自分の気持ちを押し込めてもお前が幸せであったらいいって思うぐらいには、お前が大好きなんだ。……それでも、ローリーが他のやつを好きになるのは嫌で、他のやつを好きになるくらいなら、俺を見て欲しかった」


 アリオンと繋いでいた手を、アリオンの頬にそっと当てられる。

 アリオンの頬の感触が、私の手のひらから伝わってくる。冷えた外の空気に晒された頬は冷たくて、だけどアリオンとずっと繋いでいた私の手は温かくて。その熱が、アリオンの冷たい頬にも移ればいいと思って、私からもアリオンの頬に手のひらを添える。

 アリオンが、優しく微笑んだ。


「お前が俺の事を好きになりたいって言った時、俺はもうローリーを誰にも渡さねぇって思った。ローリー、俺の事だけ見て、俺の事を好きになったら……俺の、恋人になってくれ。俺はローリーが、ずっと笑って幸せでいられるように頑張っから」


 アリオンの言葉が温かい。心の中に、アリオンの想いが直接流れ込むように、熱くて……ドキドキ、する。


「ん……」


 アリオンの柔らかい笑みを眺めながら、自分の……アリオンが綺麗な碧天だと言ってくれた瞳を、アリオンの灰褐色の瞳に合わせる。

 アリオンのいつも温かい灰褐色の瞳も、綺麗だと思った。


「ローリー……俺はな、お前のことが綺麗で可愛くって……何よりも大切で大好きで……どうしようもなく、愛しいんだ」


「アリオン……」


 熱に浮かされるような、ふわふわした感覚がする。


「ほら、これが……俺がお前を好きって気持ちだよ」


 アリオンが笑いながら、一瞬だけコツンと額を合わせた。すぐに離れていったけれど、近づいた距離に、きゅっと唇に力を入れた。


「アリオンのばか……」


「ん」


 私の照れ隠しに頷いたアリオンは笑って頬から手を離した。私の手に触れていたアリオンの手も離されたので、寂しくなったのと、仕返しとばかりにアリオンの頬を軽く摘んだ。

 アリオンがそれに目を瞬いてる間に、あの時思っていた事を話し始める。


「……紹介の話……出したのは……ただ単に……アリオンが考えてくれてたりしたら悪いなって思ったからで……アリオンが、紹介しないって言うなら……それで、よかったもの……」


「は?そうなのか?」


 目をキョトンとさせて驚いたような声で返すアリオンに頷く。


「うん……だって……アリオンが彼女いらないって言うなら……私も彼氏なんていらないかなって……思ってたもの……」


「へ」


 私の言った言葉に間の抜けた声を出した。私も先程やられたようにアリオンの頬を撫でる。

 アリオンはそれにピタッと動きを止めた。


「……もともと紹介なんて言い出したのも……アリオンに彼女ができないのは悪いから、離れなきゃって……。早く離れないと、アリオンを離してあげられなくなるかもって……思ったからだったし……」


「え」


 驚いた顔で動きを止めたまま声を漏らすアリオンに思わず笑みを零した。


「だから……その……私も、アリオンが隣に居てくれるなら……彼氏なんていらなかったの……」


「!!」


 少し恥ずかしくなりながらも、ちゃんとアリオンの目を見て伝える。

 誤解されたままなのは、嫌だった。


 けれど……。


「でも……アリオンの告白は嬉しかったし……誤解されててよかったのかも……」


 今は誤解を解きたいけれど、あの時は誤解されてなかったらアリオンに告白されてなかったのかもと思うと、それで良かったような気がする。


 言い終わってアリオンの頬から手を離すと、アリオンが両手で顔を覆った。


「……待て、ローリー……ちょっと……お前の言葉が嬉しすぎて頭が整理できてねぇ……」


「え?」


 アリオンは顔を覆っていた手を外してちらりと私を灰褐色の瞳で見てきた。

 その顔は耳まで真っ赤だ。


「……あのさ、お前……恋愛的な意味は別なんだろうけど……俺の事……けっこう好きだよな……」


「!」


 その言葉に私は目をパチクリとさせた。そして顔が真っ赤に染まる。


「さっきの言葉……お前が俺に告白みたいだって言った言葉とほぼおんなじだからな」


 顔を赤くしたままじっと見つめられて言われた言葉に、自分の顔を両手で覆ってから考える。

 考えると、確かに同じような言葉だ。


「う……そう、かも……。だって……アリオン、だから……」


 手を頬に移動させてちらりとアリオンを見ながら返す。


 アリオンのこと……嫌だとか嫌いだとか一つも考えた事がなかったから、当たり前なのかもしれない。


 確かにアリオンの事は……信じてて、傍に居てくれると安心して、触られても全然嫌じゃなくて、むしろもっと触ってほしいと思ってて……。


 カッと全身が赤く染まる。


 ――そ、そんなこと、確かにアリオンの事を……け、けっこう……す、好きじゃないと、ゆ、許せない、わ、よね……。


 アリオンは私を見ながら顔を緩めて微笑んだ。


「あー……なんか嬉しすぎてやっべぇ……」


 緩んだ顔で嬉しそうに笑うアリオンに、もっと……喜んで、ほしくて。

 あの時の事を思い出しながら、正直に言う。


「……あのね、アリオン……私、たぶん……他に、好きになるなら……アリオンじゃないと好きになれないと、思うの……」


「!?」


 アリオンは目を見開く。


 私は確かに、思ったのだ。アリオンを好きになれないのなら、ユーヴェンの他に誰も好きになれないんじゃないかと。


 アリオンのコートを掴んで、少しだけ、近づく。


「だから、アリオンの事……好きに、させてね……?」


「っ!!」


 私が言うと同時にアリオンがコートを摑んでいた私の手を掴んで、指を絡める。そして私の頭に手を差し込むと、アリオンの胸に頭を抱え込まれる。近づいた距離に、心臓が鳴った。それでも、以前触れたことのある距離までで、それが、切ない。でも……きっと今は、ここまで、なんだろう。

 アリオンが絡めた手を、私も握り返す。


「ああ、わかった。俺の事……好きにさせてやる……」


 アリオンの低い声が、私の頭の上で響く。


「うん……私も……アリオンの事、好きって言いたい」


 もう片方の手でもアリオンのコートを掴みながら言う。


 アリオンが、抱え込んでいた頭から、私の頬へと手を滑らせた。その感覚だけでも、声が出そうだ。


 コツンと、アリオンの額を合わせられた。


「ローリー……好きだ、大好きだ……」


 近すぎて少しぼやけるアリオンの顔は、ぼやけていても分かるくらいに、熱の籠もった、私の事が愛しいというような、表情で。

 アリオンが低くて蕩けるような声を出すと、私の唇に熱い吐息が少しだけかかった。


「……あ、アリオン……」


 耳元に心臓があるのではないかと錯覚するほどに、大きく鼓動が響いて、アリオンの名前を小さく呼ぶのが精一杯で。


 アリオンはそんな私にふっと笑うと、顔を離した。


「はあ……駄目だな……こんなに可愛いこと言われてばっかだと帰りたくねぇ気持ちが湧いちまう。……でも……お前の頬や手がもう冷てぇからな……もう帰るよ」


 そう言って頬と手を優しく撫でてから、手を離す。


 温かいアリオンの手が離れて、冷たい外の空気が触れたのが、寂しい。


「あ、うん……」


 頷くと、髪を撫でるように梳いてくれる。きっと髪を直してくれているんだろう。


「ローリー、明日、楽しみにしてっから」


 柔らかく笑ったアリオンは、優しい声で言ってくれる。だから、笑って頷いた。


「うん、私も楽しみにしてるわね」


 髪を梳き終わると、アリオンの手が離れる。


「おう、じゃあもう家入れ」


 そうやって笑いながら促してくる。


「うん」


 頷くけれど、少しだけ、寂しい。


「……明日の朝も会えんだから、そんな寂しそうな顔すんな」


「!」


 寂しそうな気持ちが出ていただろうか。やっぱりアリオンは鋭い。


 アリオンが私をよく見てくれている事が……嬉しい。


「ほら、もう寒いから」


 少し屈んで言ってくれるアリオンに、頷いて笑う。


「わかった、じゃあ、気をつけて帰ってね」


 アリオンと明日の朝も会えるのが、嬉しい。


「おう。また、明日な」


「うん、また明日」


 手を振るアリオンを見ながら、私も玄関に入って手を振った。扉を閉めるまで手を振ってくれるアリオンが、優しくて、心が温かくなった。


 玄関の扉をゆっくりと閉める。なんだかそのままぼーっとしていると、玄関の扉が閉まった音に気づいたのかリビングから兄が顔を出した。


「アリオンくんは帰ったかい?」


 そう聞いてくるので頷く。


「うん……私を家に入れてから帰ったと思う……」


 私が玄関に入るのを見送った後、もう帰っているだろう。


「ふふ、そうなんだね。ほら、少し長かったから冷えてるだろう?リビングで暖まったらお風呂に入りなさい」


 兄にそう促されたので、素直に頷く。


「うん、わかった」


 リビングへと歩いていく。


 さっきアリオンが触れていてくれた箇所が、温かくて。アリオンの言葉が頭をずっと巡って。今度デートできるのが嬉しくて。明日の朝会えるのも嬉しくて。


 今日は寝るまでずっと、包まれたような温かい気持ちのままでいられそうで。その事に自然と口元が緩んだ。


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