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好きな人を友人に紹介しました  作者: 天満月 六花


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絆されていく心


 ――駄目よね、お昼のは。


 あれはまた、アリオンに甘えてしまいそうだった。やめないとって思っているのに。


 でも、今日公園まで付き合えって言ってたけど……何の話だろう。紹介の話をしてくれるのか分からない。

 もしかしたら、私が……落ち込んでいると思って、励ますつもりだろうか。


 ――落ち込んでなんか、ないもん。


 ぎゅっと帰り支度を終えている鞄を握り締めた。


「ローリー」


 聞き慣れた低い声で名前を呼ばれる。アリオンは魔道具部署の入口付近にいた。まばらに人が残っていた魔道具部署に、少しだけざわめきが生まれる。


 ――そういえばアリオンってかっこいいから、結構みんなに知られているのよね……。


 なんだか、落ち着かない。

 アリオンは真っ直ぐ私の所に向かってくる。一人だ。


 ――やっぱり、紹介じゃ、ない?


 少しほっとしてしまう。

 そのことにはっとして、慌てて言い聞かす。


 ――違う、きっと、これから……話をするんだ。


 そう心を引き締めて、私も椅子から立ち上がってアリオンの所に行く。


「もう帰れるか?」


「ええ、大丈夫よ」


 そうアリオンに答えてから、私は残っていた人達に「お疲れ様でした」と挨拶して、魔道具部署を出た。アリオンも一緒に頭だけ下げる。

 周囲から突き刺さった視線が痛い。


 ――……明日質問されそうね……。


 少し憂鬱になりながら、アリオンを見る。切れ長の灰褐色の瞳は真っ直ぐ前を見ている。さらりとした橙色に近い茶髪が風に靡く。鼻筋が通って色気まで感じるような綺麗な顔は、さっきの同僚達の反応も仕方ないと思ってしまう。


 ――これでいて、あのキラキラ笑顔を浮かべて歯の浮くような台詞を吐くんだもんね……。


 人気があるのも頷けてしまう。王宮に上がってからは落ち着いてるとはアリオン自身が言っていたけれど、それでもアリオンを狙っているような人も多いんじゃないかと思う。


 そして、あることに気づいた。


 ――さっきは女性もいたのに、キラキラ笑顔じゃなかった……。


 いつもなら私と一緒に頭を下げる時に絶対にキラキラ笑顔をしているはずだ。なのにただ頭を下げるだけなんて、いつものアリオンじゃない。


 ――これはもしかして……アリオン怒ってる……?私が、何も言わないから……。


 少し不安に思っていると、アリオンがこちらを向いた。

 灰褐色の瞳には、気遣うような色が浮かんでいる。


「ローリー、疲れてねぇか?これから少し歩くけど大丈夫か?」


 気遣わしげに聞くアリオンのいつもと同じ様子に目をパチパチさせる。


 ――怒っては、ないみたい……?


 その様子に安堵すると、アリオンの質問に慌てて答える。


「うん、大丈夫!アリオンは疲れてない?」


 私の返事に目元を緩める。


「おー、平気。ありがとな」


「そっか」


 アリオンは見習い騎士だから体力もあるだろうけど、一応確認してしまった。でもたぶん、この行動は……アリオンの優しさからきているように思うので、大丈夫なのか気になったのは、仕方ないと思う。


「メーベルさんはもう帰ったのか?」


 王宮内の廊下を歩きながら、聞いてくる。先程魔道具部署内にいなかったので気になったのだろう。


 ――そっか、魔道具部署では有名だけどアリオンは知らないわよね。


「うん。カリナはね、毎日お姉さんやお兄さん、それと弟さんが迎えに来るのよ」


 毎日恒例の光景を思い浮かべて、笑いながら言う。私たちとの約束などが無い日は就業後すごい勢いで迎えに来る姉弟の様子は魔道具部署のもはや名物になっていた。

 ちなみに誰が一番最初に迎えに来るかあの姉弟は競っていて、今年からその競い合いに弟さんも入ったことで更に迎えが早くなっている気がする。


「そうなのか?」


 アリオンは目を瞬かせながら、少し驚いたように返してくる。その反応に小さく笑う。


「そうなの。姉弟全員王宮で働いてるから成せることよね」


「へー……。そんな鉄壁なのによく俺らと遊べたよな……」


 アリオンもカリナの事情を居酒屋で聞いて知っているので不思議に思ったのだろう。


 ――私のお兄ちゃんも過保護な方だけど、カリナのお姉さん達に比べたらまだましよね。


「まあ、そこは……幼馴染のスカーレットのお陰も大きいかしら。姉弟の人たちも仕事で少し困ってるカリナを見て、流石に遠ざけ過ぎたとは思ってたみたいだから。そこで自分達だとどうしても遠ざけちゃうから、信頼厚いスカーレットの判断に任されてるのよ。だから私もスカーレットに判断を仰いだの。カリナのお姉さん達とは少しその話もしたけどね。今のところ、ユーヴェンとアリオンは信頼されてる方だと思うわ。カリナに手を出したり、泣かせたりなんかしたら生まれてきた事を後悔させてやる、って言ってたけど」


 私が思い出しながら笑いを零すと、アリオンは口の端を引き攣らせた。


「……おい、笑いながら怖えこと言うなよ。初耳なんだが、んな話」


「そうだった?」


 そういえば言ってなかったかなと思いながら、首を傾げる。


「そうだ!」


「んー、でもユーヴェンとアリオンならそんな事しないでしょ?」


 責めるように見てくるアリオンにそう返す。大体そんな事をしない前提で選んでる。


「まあそりゃ、んな事する訳ねぇけどな」


 溜め息を吐きながら答えるアリオンに笑ってしまう。


「ふふ、ならいいじゃない」


「いや、でもなあユーヴェンは……」


 そう言ったアリオンは、失敗したといった感じに眉を寄せた。


 ――やっぱり、きっと、気づいてる。


 だから、何も思ってないように、笑った。

 痛んだ胸は、知らないものだ。


「……カリナの意思に反するようなことしなければ……たぶん大丈夫だと思うわよ?たぶん……」


 不審に思われないように、うまく言って目を逸らす。


 そうして一度、心を宥めていく。


「……目ぇ逸らすなよ、お前……」


 アリオンの様子は見えないけれど、気にしてないような返しに安堵する。


 そうして、言う。


「一応、お姉さん達にも言ってあるわよ?ちゃんと、ユーヴェンにそんな気があるって」


 今度はちゃんと、アリオンの顔を見て笑う。じっとこちらを見る灰褐色の瞳からは感情は読み取れなかった。


「ああ、なら……」


「持ってたペン破壊してたけど」


 あの時の衝撃を思い出して言う。


 ――……たぶん大丈夫なはずだ。たぶん……。


 言いながら自分でも不安になった。


 アリオンの顔が引き攣る。


「それ、了承取れてねぇだろ……」


「でも、会うの止められてないから大丈夫よ。カリナもちゃんと自分で決断するから大丈夫だってお姉さん達に言ってるしね。……まあ私はしっかり見ててね!って頼まれちゃってたんだけど……。やっぱりこの前悪いことしたわね……」


 カリナの姉弟達の事を思い出すと、この前の事まで思い出してしまった。頼まれた身としてはやはり行くべきだったと反省する。


 ――私の気持ちなんて、どうでもよかったのに。


 そこに、アリオンのいつもと変わらない声が響く。


「別に行かなかった事が悪いなんて事はねぇよ。お前が悪いっつーなら、それを促した俺の方が悪いだろ。まあ、それにメーベルさんのお姉さん達もメーベルさん自身の意思を尊重したいとは思ってるだろうしな。そんで、お前が行かなかった時どうするかってのもメーベルさんが選んで決断することだ。だから、お前が悪いなんてありえねぇよ」


 アリオンの言葉に、息が詰まった。


「……そう、かしら?」


 そう聞き返すけれど、アリオンの言葉は、わかってる。


「そうだ」


 思った通りの、肯定の言葉だ。


 そうだ。アリオンが私の気持ちを心配してくれてたから、あの日は行かない選択をした。


「うん……。ありがと、アリオン」


 どうして、アリオンはこうなんだろう。アリオンの優しさが、むず痒い。


 ――アリオンに、甘えちゃ駄目って、思ってるのに。


 アリオンなら、なんでも許してくれそうで。

 ……何もかも、話したくなってしまう。


「おう」


 からっと笑ったアリオンに、思わず話し掛ける。


「ねえ、アリオン……」


 言い掛けてから、はっとする。


 ――違うもの。アリオンに、話すような事なんて、ないもん。


「ん、どうした?」


 バレないくらい静かに、息を吸う。


 問いかけてきたアリオンに、首を傾げて聞いた。


「……どうして公園?」


 大丈夫、軌道修正できたはず。


「……ああ。俺が久しぶりに行きたくなったんだよ。ついでにお前に付き合ってもらおうかと」


 アリオンはちらりと私に目を向けて言った。


「そうなの……」


 ――やっぱり、違う。紹介じゃない。


 ほとんどわかっていたことだけど、どうしたらいいのだろうか。対応を迷ってしまう。


「高台にある公園行くぞ。あ、ローリー、これ巻いとけ」


 そう言ってアリオンは布を手渡してきた。


「……マフラー?」


 渡されたものを見ると、それは紺色のマフラーだ。


「寒くなったら駄目だからな」


 相変わらずの心配性に、口を尖らせる。


「大丈夫なのに……」


「返品は受け付けねー」


 アリオンと話していると、どうしても絆されていく自分に気づく。


 ――駄目、なのに。


「……バーカ」


 思わず悪態がついて出る。


「言っとけ」


 全然堪えてないアリオンはにっと笑う。


 私は仕方なく紺色のマフラーを巻く。

 少し冷えていた首もとが、暖かくなった。


「……なんでキラキラ笑顔なかったの?」


 アリオンに、気になっていた事を聞く。


「あ?……ああ、魔道具部署でか……お前が普段接してる人たちだから?」


 アリオンも普段と違った対応をした自覚はあったのだろう、私の言葉だけで何のことかわかったようで、そう答える。

 けれど、その答えがどういう意味なのかはわからない。


「何それ?」


「これからも顔合わすかもしんねぇのに、お前への態度と差が有り過ぎたら困惑されるだろ」


 アリオンの言葉に、一瞬言葉を失う。


 それは、きっと私への優しさだ。私が学園時代みたいに、ならないように。


「……また迎えに来るつもりなの?」


「おー、そりゃな」


 私の問いに当たり前のように答えるアリオンが、わからない。


 ――わかっちゃ、駄目な気がする。


「なんで……」


「嫌か?」


 アリオンが、そう聞いてくる。


 ――ずるい。


「駄目、だと思う」


 必死にアリオンを止めようとする。


「なんでだよ?」


 だって……そんなことをしたら、また。


「だって、そんなの……まるで……付き合ってる、みたいじゃない」


 噂が、広まってしまう。


 ――消して、アリオンから離れなくちゃいけないのに。


 なんで、気にしてないの。騎士団の時は気にしたくせに。


「お前流石に自分の部署の噂は気にするか……」


「うるさいわね」


 少し呆れた様子で言ったアリオンに悪態を返す。


 今は騎士団の噂も気にしているとは言えない。たぶん……それを言ったら、アリオンに全部言ってしまいそうな気がする。


「……部署に気になってる人とかいねぇのかよ」


 少しだけ聞きにくそうに言ったアリオンに、一瞬だけ、金の髪と榛色の瞳を思い浮かべてから、首を振る。


「……いたら、紹介をアリオンに頼まないでしょ」


「あー……そういや、そうか」


 まるで紹介を忘れていたような反応に、じとりとした目をアリオンへ向けた。


「アリオン、紹介の話、どうなってるのよ。紹介してくれるの?してくれないの?」


 そう言って詰め寄る。

 早く紹介してもらった方がいい。その方がいい。


 ――そうじゃないと、駄目。


「あー……まずは先に俺の用事に付き合え」


 アリオンは目を逸らして言う。


「わかった……公園行って、何するのよ」


 ひとつ息を吐いて頷くと、アリオンに問いかける。


「俺の気分転換に付き合ってくれたらいい。この前から合同演習とかもあって疲れたからな」


 どうして、気づいてしまうんだろう。

 アリオンの、優しさに。一緒に、気分転換しようと、してくれている。


「……そっか」


 そんな言葉しか、返せなかった。


いつも読んで頂きありがとうございます。

今日はもう一話、遅くなってしまうかもしれませんが更新しようと思ってます。

これからもよろしくお願いします。

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