進まない話
アリオンが戻ってくると、私は切り出した。
「アリオンにも聞いて欲しいんだけど、今日お昼にしてた紹介の話あるじゃない?」
「別にいいって言ったのに、お前は律儀だな」
そう言って苦笑する。
「あんな男前なとこ見せられたら返さないとって思うじゃない?ちゃんと話す許可は取ってきたわよ」
「そりゃわかってるよ。じゃないと話さねぇだろ、お前は。ま、そう思ってくれるのはありがてぇよ」
苦笑から照れたように緩く微笑む。それに私は満面の笑みで返した。
「俺が綺麗だなーって思った子をローリーが紹介してくれるって話!」
そこにユーヴェンが簡潔な説明で嬉しそうに言う。話が早くていいが、なんだか簡潔過ぎる気もする。
「……まあそうね」
「……ローリーにしては親切だな」
「どういう意味よ、それ」
アリオンをきつく睨む。しかし見返りの件も思い出してなんとなくバツが悪くなり、ひとつ咳をして整えてからユーヴェンに目を向けた。
「ここからはユーヴェン、あんたこそちゃんと聞きなさい」
真剣な目で射抜くと、ユーヴェンは姿勢を正して真っ直ぐな目で見返してきた。
……真剣だ。それはきっとカリナにとって喜ばしい事だ。
少しだけ目を伏せて話し始める。
「彼女の名前はカリナ・メーベル。私と同じ部署の事務の子で同い年。アリオンは会ったことある?ロングの黒髪で緑の目の大人っぽい綺麗な子なんだけど」
アリオンに聞くと、記憶を探るように中空を見る。そうして何か思いついたのか、ぱっと顔をこちらに向けた。
「もしかしてあれか、キャリーがお前を叱ってた時に一緒にいた子か?」
「そうだけど、なんで叱ってたことまで言うのよ!見たことがあるだけでいいでしょ!」
「いや、確認しただけじゃねぇか!」
余計な事まで言ったアリオンにユーヴェンまで叱られてた?と私に目を向けてくる。ユーヴェンの方に顔を向けたらなんだか負ける気がする。
「ま、確かに綺麗な子だと思ったな」
そうアリオンが言った途端ユーヴェンはすごい勢いでアリオンに向き直った。なんだかすごい変な顔をしている。
話が違う方向に逸れそうで助かったが、なんとなく嫌な感じもする。面倒な方向にならないか不安なのだろうが、アリオンだし大丈夫だろう。
「あ、アリオンも紹介とかして欲しいのか……?」
不安そうな顔をしたユーヴェンが聞くと、アリオンは大きく溜息をついた。
「そのつもりはねーよ。綺麗な子だけど、ローリーがお前を紹介するって決めて、それで何か大事な話をするって言う程ならそれに茶々入れる気もない。それに俺は友人の気になる子をとるような真似する気もない」
アリオンがエールを飲みながらそう言い切ると、ユーヴェンはほっとした顔をする。そしてまた抱き着きそうな雰囲気を察して私はユーヴェンの額をバシッと叩いた。それで少しスッキリした。
「アリオンごめん!お前がとるとかそんな風に思った訳じゃないんだ!お前が相手じゃとてもじゃないけど俺に振り向いてもらえる気がしなくて、ただ不安で……ほんとにごめんな!」
ユーヴェンは叩かれた所を撫でながら、謝罪の言葉を口にした。抱き着くのは昼間に注意を受けていたのを思い出して控えたのだろう。
アリオンは笑いながら気にしてねぇから謝るな、と言ってツマミを食べている。
私も努めて笑いながら、ツマミを一緒に食べる。なんだか纏まらない気持ちが渦巻いていた。
こういったやり取りはいつもの事で、笑い合うのもいつもの事で、なのにどうしたのだろう。
ああそうだ、早くカリナの話をしたいのに進まないからだ。
そこでこほん、とわざと音を立てて咳をする。二人がこちらを向いた所で私は重い口を開いた。




