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四天王寺ロダンの青春  作者: 日南田 ウヲ
END OF SUMMER 夏の終わり
98/107

98 西条未希

(98)





 少しこの事件を違う角度から見てみたい。

 事件の場所とは異なる場所でスマホが鳴り、メッセージを見た人がいる。人というが、その人物は女性である。

 長い黒髪でスマホをじっと見ると、彼女は人目を避けるようにガラス張りの廊下を抜けて、空が見える吹き向けの場所で止まった。

 それから電話を掛ける。

 二、三度、コール音がすると相手が電話に出た。

「――もしもし」

 太い男の声だ。

「あ、譲兄ちゃん?」

「なんだ、未希か」

 女性の声に答えたのは角谷刑事だった。角谷刑事と言えば女優西条未希と従兄妹だ、なれば電話を掛けたのは、


 そう…

 西条未希である。コバやん、真帆、甲賀の同級生だ。


「今、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ちょっと休憩だから」

 彼女が言うと、その側へ資材を手にした美術スタッフが会釈して進んでゆく。それに軽く会釈する彼女。そのスタッフが十分離れてから彼女は話を再開する。

「あ…、ごめんね。近くに人が居たから」

「そうか、またどっかの週刊誌の記者でも居たのかと思ったわ」

「そうね。それでどんなスクープを抜かれるかな」

「そうだな、年上刑事との十代女子高生の不倫とか」

 ぶはっと電話越しに彼女の笑い声が湧く。

「あるわけないやん」

「当たり前や!!」

 角谷刑事が答える。

「…まぁ、冗談はこれぐらいで、例の件や」

「あ、学園の?」

「せや」

 言ってから角谷刑事の側で何かを捲る音がした。

「未希さ、こいつら知ってる?九名鎮真帆、小林古聞、甲賀隼人、…それに佐山サトル」

 彼女が名を確認してから角谷刑事に言う。

「…まず佐山サトルという子は知らない。居たのかなぁ、そんな子が…」

 角谷刑事が補足的に喋る。

「なんでも学園に入学して一年もなく、退学したらしい」

「退学?」

「そう」

「ならば、余計知らないな。もしかしたらコバるとか、真帆ちゃんなら知ってるかも」

「コバる?」

 刑事が反芻する。

「うん、小林古聞。ほら、譲兄ちゃん、言ってたよね、背がでかくてマッチ棒みたいなやつがいるって、この前」

「ああ、職質したやつ」

「そう、その子。知らん?うちの子供時代からの幼馴染」

「じゃぁ、泉州に居た頃からの?」

「そう、もしかしたら譲兄ちゃんも子供の頃、遊んでたかもしれないよ」

(まじか…?まぁ子供の頃やから分らんかもな)

 間を切って刑事が再び聞く。

「そうか、あいつが未希と幼馴染か」

「そう、将来は役者を目指してるの」

「じゃぁお前と同じだな」

「そうね」

 一瞬だけ、未希に間が空いた。その間にどんな思いがあるというのか。夢を達成する厳しさを感じている彼女の中に去来する思い。その間に従兄妹が声を闖入させる。

「好きなんか?お前」

 いきなり会話の中にとがった槍を突き刺す。

「…ちょっとぉ!!譲兄ちゃん、何よ、いきなり変なこと訊かんといて」

「訊くよ。これからの大女優の卵に傷つけたらあかんやんけ」

「もう!!」

 言うと、未希は大声で笑う。

「さて、まぁいい。そしたら次やけど、この九名鎮真帆は?」

「真帆?」

「そう、その彼女。あのマッチ棒と同じ時、職質した子やね」

 角谷刑事が何かを捲る。その捲る音と同じタイミングで未希が言う。

「真帆は学科が違うけど、仲のいい子だよ。確か将来はジャズシンガーになりたいう夢を持ってる。スポットライト当てたらすごく映える子やねん、絶対」

「そうか、特にほかに何か変わったこと知ってるか?」

「あ、天神橋商店街で老舗の佃煮屋さんの娘かな」

「…へー」

(意外やな…)

 従兄妹が心で反芻した間に何かを感じたのか、未希が言う。

「ちょっと、譲兄ちゃん。駄目よ、容疑者にしちゃ、二人を」

 ごほん、と電話向こうで咳がした。

「では、次」

「ちょっと!!」

「この甲賀隼人は?」

 そこで真帆はちょっと考えてから、従兄妹に言った。

「うん、お金持ち」

「はぁ?金持ち?」

 意外な答えに角谷刑事は口を開けた。

「そう」

 未希が頷く。 

「どういうこっちゃ」

 電話向こうで従兄妹が髪を掻く音が聞こえた。その音に混じるように未希が話を続ける。

「そうそう、説明するとすればね、甲賀エレクトロニクスという企業の御曹司で帰国子女。そして超イケメン」

「なんや、めっちゃ揃ってるやん」

「そう、それでね。めっちゃ性格が良い。やっぱ帰国子女で寂しそうな孤独が見えるんだけど、でも…あ、ほら、さっき言った真帆とは凄く仲がいいのよ」

「そうか」

「うん」

 そこで角谷刑事はぱたんと何かを閉じた。閉じると低い声で従兄妹に言った。

「これは内緒にしとけ。彼等にも刑事から質問受けたのは」

「この前の職質の件は話したけど」

「こらっ、真帆!!」

 角谷刑事が慌てる。

「あ、ごめんチャイ」

 未希の小さくなりそうな声が聞こえる。

「…まぁ、良い。それは」 

 角谷刑事が仕方なさげに言うと、未希が答えた。

「この件は黙っとくね」

「そうだ、それでええ」

 そう言ってから角谷刑事が未希に言った。

「それで、未希。以前からお前に付きまとってた学園のストーカーまがいのXはその後どうなった?まだ色々されてるのか?」





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